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花澤香菜、ハロウィンライブでエンターテイナーぶり見せる ポテンシャルの高さ発揮した一夜をレポート

2016年10月11日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

花澤香菜

 10月1日、渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて、花澤香菜のワンマンライヴ『HAPPY HANAZAWEEEEN』が開催された。ハロウィーンというイベントに絡めた一夜だけのスペシャルライヴである。演奏はもちろん、花澤のサウンドプロデューサー北川勝利の率いるディスティネーションズだ。


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 花澤の音楽活動を振り返ると、単発のワンマンライヴは非常に珍しい、というより初めての試みである。


 6月に行われた『あたらしいうた』のリリースイベントで、北川と花澤のあいだでおおよそこんなやりとりがあった。シングル曲にもライヴであまり演奏できていない曲があるという話の流れで、


北川「曲がいっぱいあるからね~。ライヴもいっぱいやればいいんじゃない?」
花澤「アルバムのリリースとは関係ないライヴもやりたいな!」
北川「来週空いてるよ?」
花澤「え、来週……すか?」


 むろんジョークなのだけれど、抽選で招待されたお客さんで満員の会場に「来週やれ」という思念がにわかに立ち籠めたのを、僕は痛烈に感じ取った(笑)。あの日湧きあがっていた思念に代表されるファンの熱い要望と、花澤自身の希望が重なって、『HAPPY HANAZAWEEEEN』の開催が決まったのだろう。


・フロアを埋め尽くすパンプキン色のペンライト


 duoの公称キャパはスタンディング時で700人だが、チケットは発売後間もなくソールドアウトしており、フロアは文字通り立錐の余地もない。「仮装OK!」とアナウンスされていたため、一足早いハロウィーンコスプレで身を包んだファンも多かった。


 開演時間が近づくと、北川がこの日のために作ったSE「HANAZAWEEEENのテーマ」に乗せて、老婆の声色を装った花澤の「イーッヒッヒッヒッ! いい子にしないとパンにしてやるー!」というナレーションが流れた。


 ハロウィーン気分を盛り上げたところで、花澤とメンバーが登場。花澤は魔女のコスプレで、箒のかたちのマイクスタンドを携えている。えーっと、ごく控えめにいって、ものすごく可愛かったです。箒マイクはアニプレックス・スタッフによる手製だそうで、穂の部分にブルーのLEDがあしらわれていた。メンバーの面々は光るツノを頭に乗せている。


 この日のディスティネーショズは、約1年半ぶりに、武道館公演から始まった『花澤香菜 live 2015 “Blue Avenue”』ツアーと同じメンバーが揃った。具体的には、北川勝利(ギター)、SATOKO(ドラム)、高井亮士(ベース)、末永華子(キーボード)、山之内俊夫(ギター)の5名だ。ディスティネーションズはベースとドラムが流動的だが、この並びがいわばスタメンとなるだろうか。ここにブラスのFIRE HORNSが加われば武道館の再現……と考えていたら、途中「Night And Day」でトランペットのAtsukiが飛び入り参加するというサプライズがあった。


 ステージもファンものっけの「今朝のこと」からハイテンションで、本当にもうお祭り騒ぎである。2015年11月から行われたライヴサーキット『かなめぐり』はアコースティックライヴだったから客席は当然静かだったし、『透明な女の子』と『あたらしいうた』のリリースイベントも種々の条件でノリノリになるような状況はなかった。武道館以来に溜まった鬱積を吐き出すかのように声が上がり、パンプキン色のペンライトが一斉に振られるフロアはちょっと圧巻だった。


 duoはフロアに太い柱が4本も立っているという謎の構造で(プロデュースはジャミロクワイである)、柱付近や裏からはステージに死角ができてしまう。それを気遣って花澤は「いっぱい動くからね!」と最初のMCで約束して、言葉通り動き回っていた。彼女のそんなサービス精神が熱気を盛り立てるのに大いに寄与していたことは間違いない。duoの邪魔な柱のおかげで、花澤のエンターティナー性がひときわ発揮されたわけだ。災いを転じて福となすというやつである。


 ライヴのチケットにはオリジナルのカズーが付属しており、客席も演奏に参加する場面が用意されていた。ライヴ初披露となる「trick or treat!」がその曲で、演奏に入る前に花澤から簡単に吹き方の説明があったのだが(ぜんぜん説明になってなかったけど)、「じゃあ、練習ね!」と促されてお客さんが一斉に吹いたカズーの音が思い掛けずもノイジーな大音量でちょっと驚いた。「蜂の大群が押し寄せてくるみたいで怖い!」と花澤もひるんでいたけれど、実際に演奏と重なるといい塩梅で、ステージとフロアの一体感を醸し出すのに実に良い小道具だった。花澤もメンバーも気に入っていたようなので、今後のライヴでも使われるかもしれない。


 ハロウィーンライヴということで、この日は北川から「ハナザー!」「ウィーン!」というコール&レスポンスが提案されて、その応酬が要所でなされたのだが、すごかったのはアンコールのときだ。演奏のない状態で北川がコールし、客席が「ウィーン!」と返す瞬間があったのだけれど、レスポンスのデシベルがことのほか大きかったのか、場内に残響が幾重にもこだましたのである。北川もちょっと唖然とした顔をして、もう一回と促したほどだった。


・「Trace」から「あたらしいうた」へ


 各曲についてもう少し細かい話に移ろう。


 今回のワンマンのきっかけのひとつになったと思われる冒頭で紹介した会話にもあったように、花澤は、新曲でも生の歌唱と演奏に接することのできる機会が少なかった。今年2月に発売された『透明な女の子』は、プロデュースした山崎ゆかりの所属する空気公団を迎えてリリースイベントで1度演奏されただけ。6月発売の『あたらしいうた』のリリイベはカラオケ(+北川のアコギ)でこなされ、生バンドで演奏されたのは『NAOMIの部屋』(NHK総合)の公開収録の1度きりに留まっていた。


 そんなわけで個人的にもっとも聴きどころだろうと考えていたのは、ディスティネーションズの演奏による「透明な女の子」と、生バンドで歌われる「あたらしいうた」の2曲だった。


 「透明な女の子」は2曲目に演奏された。CDのヴァージョンについてはドラム、特にスネアの音色が特徴的だなと思っていたのだが、SATOKOのドラムにはそんなに印象の齟齬はなく、むしろ山之内のギターの音色やフレーズにディスティネーションズらしさが現れていたように感じた。花澤の歌も心なしかエモーショナルだった(かな?)。


 「あたらしいうた」は10曲目、「Trace」に続けて演奏された。「Trace」は「かなめぐり」のときと同様に末永華子のピアノだけをバックに歌われたのだが、「Trace」から「あたらしいうた」への流れとコントラストは本当に素晴らしくて、見所満載のこの日のなかでも最大のハイライトだったといっていいのではないか。


 『かなめぐり』で掴んだものを「あたらしいうた」に込めたと花澤は語っていた。2曲をこうして繋げた意図は、そのプロセスをギュッと凝縮して見せようということだったのだろう。「あたらしいうた」は、静謐から一転、音圧が一気に上がったかのような熱量の演奏で、花澤の歌はその圧と熱によく拮抗しねじ伏せていた。端的にいって、花澤香菜は歌がうまい。うまいというしかないだろう、これはもう。


 さっき触れた「trick or treat !」(『happy endings』c/w)のライヴ初披露に続けて、もう一曲『KANAight~花澤香菜キャラソン ハイパークロニクルミックス~』に収録されたキャラソン「sweets parade」も初めて演奏された。この曲に対する反響は大きかった。花澤がどういうアニメのどういう曲なのか説明しようとしたところ、タイトルを告げた途端にどおっと雄叫びが上がって掻き消され、「そっかそっか説明しなくていいか」と花澤が苦笑いするという、武道館での「恋愛サーキュレーション」初演時のデジャヴュのような光景が広がったのが印象深かった。


 アンコールでは、新曲のリリースが告知され、初演もされた。タイトルは「ざらざら」で11月30日発売。作詞は花澤自身、作曲は秦 基博である。秦とは新海誠監督の劇場アニメーション『言の葉の庭』で、花澤がヒロイン役の声優、秦がエンディングテーマおよびイメージソングという関係ながら共演したことがあり、面識もあって、いつか秦に曲を書いてもらえたらいいねとスタッフと話していたそうだ。どこで読んだかわからなくなってしまったのだけれど、たしか以前にも花澤は秦の歌のファンだと話していたことがあったはずである。


 「ざらざら」というタイトルについて、会場から出た「ざわ…ざわ…」という茶々に「『カイジ』じゃないよ」と笑って返しながら、心がざらついたときに、それにどうやって向き合っていくかがテーマだと話した。しっとりとしたバラードである。


 「ざらざら」を披露したあと、再びカズーでの参加を促しての「Young Oh! Oh!」、コーラスを会場に任せての「Looking for your Smile」を演奏して、スペシャルライヴ「HAPPY HANAZAWEEEEN」は終演した。


 「あたらしいうた」のリリースイベントの終わりに、花澤はこんなことを語っていた。


 昨年の武道館はマネージャーの夢だったが、今度は自分の夢としてもう一度あのステージに立ちたい。音楽活動は最初、声優の仕事の一環と考えていたのだけれど、今では独立した特別なものになっている、と。


 歌手あるいは音楽家としての決意表明と受け取っていいだろう。ライヴもまた遠からずあるかも? と仄めかされていたので、ファンの一人として心待ちにしたい。良いライヴでした!(文=栗原裕一郎)