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シンガーソングライター杉恵ゆりかは“女子の本性”をどう歌ってきた? デビューから最新作まで分析

2016年10月11日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

杉恵ゆりか

 女子という生き物の心の中を、レントゲン撮影するようにスッケスケに写し出してしまう――杉恵ゆりかは、そんなちょっぴり危険なシンガーソングライターだ。鼻にかかった伸びやかで耳に優しい歌声。愛らしいビジュアル。親しみやすい名前。彼女を形作るものは、寧ろ「危険」と真逆の「ナチュラル」に感じられる。でも、蓋を開けると、そんな「ナチュラル」な彼女が、次々と女子の本性を暴露しているギャップは激しく、「危険」と思ってしまうほどのインパクトを与える。でも、同性としては納得出来るところもあったりして……男性のみなさん、「ナチュラル」に見えたって、女子は「危険」を孕んでいますよ!


 杉恵ゆりかは広島県出身の24歳。2014年8月6日に、1stミニアルバム『無添加ガール』でデビューした。タイトルそのままに、無添加な彼女が味わえる。音楽的な素養も伝わってきて、特にスウェディッシュポップの雄であるクラウドベリー・ジャムのヨルゲン・ワーンストロムがアレンジ、ジェニー・メイディンがコーラスを担った「spyder」は秀逸。聴いた途端に口ずさめるキャッチーさと、スウェディッシュポップの爽やかさが相まって、新たなガールポップの旗手の誕生!と称えたくなる才能を感じさせられる。でも、彼女の面白いのは、その先なのだ。例えば、先述した「spyder」には、こんな歌詞がある。〈キミが いるなら どこへでも お風呂だって のぞきたい〉……お、お風呂!? こんな爽やかポップでお風呂のぞきたいって!? そう、才能があるシンガーソングライターとして綺麗な場所にいればいいものを、(ついつい)一歩踏み込んだ場所に行ってしまうところが、彼女の面白さなのだ。さらに、「飼い猫」や「Butter」などの楽曲には、明らかにセックスを描写しているような歌詞もある。セクシー路線で男性を意識したエロは多いけれど、そうじゃない女の子だってエロイことは考えるのよ! という、ある意味では男性が目を逸らしてきたような事実を、彼女はデビューの段階からあっけらかんと突きつけたのだ。


 畳みかけるように、2014年11月26日にリリースされた2ndミニアルバムは『セキララガール』。タイトル通り、彼女の赤裸々な表現は加速していく。ウーリッツァーを使ったり、アナログテープでレコーディングすることで、サウンドはより生々しく。それと比例するようにメロディも歌詞も、深く、ダークなところまで描くようになった。〈ねぇ あたしを 見て/認めてよね 痛いくらい 女の子/腕の やわいとこ 胸の ふくらみ/全部 あなたが 無知なだけ/さわって いいよ〉と歌う「skirt」の生々しいほどの切なさが、染みる。


 2015年8月にリリースされた3rdミニアルバムは『ジョキッ』という印象的なタイトル。これは今作に収録されている、彼女がインディーズ時代から温め続けてきた楽曲のタイトルでもある。ジョキッ、というのは髪を切る音。牧歌的とも言えるようなほのぼのメロディで、髪を切り捨てて終わりとはじまりを迎えた女心を歌っている。同じく、今作に収録されている、カラッと明るいポップチューン「女の子は花火」も顕著だったが、彼女は男性に本音を突きつけているだけではなく、女子に応援歌を届けているという方向性が、だんだんはっきりしてきた。


 そう、ここまで女子の本音を代弁してくれるシンガーソングライターは、なかなかいなかったと思うのだ。言いたいけど言えない、いじらしい胸の内を、大きな声で歌い上げてくれる。彼女は自分自身の葛藤や願望を歌いながら、見事に代弁者へと成長していった。


 そして、このたび10月26日にリリースされる、4thミニアルバム『スキ?』では、そんな自分自身の役割に気付いたのか、誰かへ届けるという意識が感じられる仕上がりになっている。特に、一曲の中でドラマティックな起伏がある、まるで日常と激情を繋ぎ合わせたような「オムライス」には、恋愛を抱え込んでいる全ての女子に歌いかけるような優しさがある。


 生きとし生ける全ての女子よ、杉恵ゆりかを聴いてみて欲しい。ハッとしたりグッときたり、クスッと笑ってしまったり、思わず泣いてしまったり。隠し持っていたグラグラと脆い感情が、彼女の歌によって引っ張り出されてしまうだろう。それでいいんだよ、女子なんだもん。彼女はきっと、あなたの姿に、そう頷いてくれるだろう。そして男性のみなさんは……これを聴いて、身近な女子たちの本性に気付いて、それもまるごと愛してあげて欲しい。(文=高橋美穂)