スペイン在住のフリーライター、アレックス・ガルシアのモータースポーツコラム。現在のMotoGPでは多くのスペイン人ライダーが活躍しているが、イタリア人ライダーからも期待の若手がぞくぞくと世界選手権にデビューしている。果たしてその理由とは……?
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759回の勝利という圧倒的な数字で、二輪の世界での地位を確固たるものにしているイタリア。歴史上、二輪ロードレースで最多の勝利数を誇る国であり、才能あるライダーと競争力のあるバイクの両方を生み出せる国でもある。
ジャコモ・アゴスチーニとバレンティーノ・ロッシの物語は向こう数10年に渡って子どもたちに語り継がれるだろう。それなのに、ここ数年イタリアの栄光は復活が可能なのか危ぶまれるところまで凋落している。
現在の状況はどうだろう。最新のMotoGPランキングのトップ10には3人のイタリア人ライダーがいる一方で、スペイン人は6人もいる。
現在MotoGPで活躍する3人のイタリア人ライダーはバレンティーノ・ロッシ、そしてふたりのアンドレア、ドビジオーゾとイアンノーネだ。ロッシは、ドゥカティで今ひとつ結果が出ないシーズンを過ごしたが、ヤマハに復帰してからは、かつての速さを取り戻しつつある。
しかし、彼らが上位に君臨してから長きに渡り、将来有望なイタリア人ライダーは現れていない。だが、Moto2クラスでは今年、まだ未勝利ながらもフランコ・モルビデッリがシーズンを通して改善を続けている。
その間に、ロレンソ・バルダッサーリは母国の応援を力にミサノで誰もが認めるような勝利を果たした。19歳という若さながらも、バルダッサーリはMoto2クラスで4年目のシーズンを過ごしており、経験と成長意欲を併せ持っている。しかし、本当に有望なのはMoto3クラスを戦うイタリア人ライダーだ。
Moto3クラスでは6人のイタリア人ライダーがトップ10にいるという素晴らしい状況なのだ。南アフリカ出身のブラッド・ビンダーが選手権で圧勝したことは事実なのだが、イタリア出身のエレナ・バスティアーニが今季未勝利でありながらランキング3位につけており、一貫して上位にいることも事実なのだ。
その他にも、ファビオ・ジャンアントニオや物議を醸すロマーノ・フェナティ、それにアグレッシブなニッコロ・アントネッリが2016年シーズンのMoto3クラスで注目を集めている。
そして、印象的なのはニコロ・ブレガだ。ルーキーイヤーの今季、ランキング5位につけており、表彰台も獲得している。ブレガは、2015年にMoto3ジュニア世界選手権を制するとそのままMoto3に昇格した。ブレガは最速のライダーではなかったかもしれないが、ほんのわずかのミスしかしていないのだ。
そんなブレガのこれまでの道のりが、イタリア復活への道筋への最初の手がかりになりそうだ。
ジュニア世界選手権はかつてのCEV、全スペイン選手権なのだ。このシリーズはとてもよいシリーズである。競争的であり、かつうまく組織立てられているため、ドルナが国際化したほどだ。
MotoGPではスペイン人ライダーが強すぎるために、スペイン国外で人気低迷の危機にさらされている。しかし、選手権の運命は自然と好転するものではない。現在の状況を理解する最もよい方法は、2012年に戻ってみることだ。
その当時、ロマーノ・フェナティは全イタリア選手権とイタリア二輪連盟で最も才能豊かな選手のひとりであり、実際にフィナティを中心にチームがつくられていた。
イタリアの二輪関係者たちは、スペイン人ライダーたちがどのようにスペインの連盟と地域の連盟から援助を受けてきたのかに気がついた。連盟は彼らの能力を最大限に開花させるために、レース参戦を助けてきたのだ。
若い才能を育てることで、イタリアはフェナティに輝くチャンスを与えた。またこれにより、他の若手たちにも努力し、フェナティと同様の支援を受けるためのもっともな理由を与えた。
そして、バレンティーノ・ロッシが2013年から2014年の間に、いわゆる“VR46アカデミー”を設立した。本当に長い間、多くのイタリア人がロッシに若い才能を育ててほしいと願ってきた。しかし、ロッシの性格を考えると大勢がそれは不可能だと考えていた。
VR46アカデミーという名前から、これがロッシへの狂信的な教団のように思われたが実際は違う。この組織は若手イタリア人ライダーを二輪の上の世界に導くための準備をしている。マルク・マルケスやティト・ラバットが10代の頃に行ってきたダートバイクの練習も取り入れているのだ。
スペイン式の仕組みは機能している。イタリア人たちはそれに気づけるほどに賢く、その仕組みをコピーし、利用している。そしてそれが機能しつつあるのだ。
今季イタリア人は7勝を果たしたが、2017年シーズンは一体いくつの勝利をイタリア人が収めるのだろうか。