2016年10月11日 10:41 弁護士ドットコム
自宅PCから、ブラウザのお気に入り登録されたURLを何気なくクリックしたら、前職の営業秘密が詳細にわかるページが表示されてしまった。都内在住のメディア関連企業に勤務するJ子さん(30代)が驚いたのも無理はない。J子さんが前職の同じくメディア関連企業を退職したのは、1年半も前のことだからだ。
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J子さんによれば「退職時に、機密情報の取り扱いなどについても全く話し合いをしませんでした」という。かつて、自宅PCからログインしていたため、ブックマークが残っていたが、まさか閲覧できるとは思っていなかった。「どのような人がサイトを訪れているのか、何にアクセスしているのか、その数など、社外秘の情報が満載のページでした。その情報を現職でも使えば、価値があります」。
アクセスできる原因としては、「私のログイン情報が登録されたままになっているからです。削除しないシステム担当者の怠慢なんだと思います」。
J子さんは、このままログインできる状態にあることで、自身が何らかの責任に問われることはないか心配している。J子さんは、どう対応するべきなのか。福本洋一弁護士に話を聞いた。
J子さんが、社外秘の情報にアクセスした行為は、責任が問われるのか?
「前勤務先としては、退職したJ子さんには社内情報へのアクセス権限を与えていません。J子さんが偶然とはいえ、アクセスしたことで、前勤務先の管理を侵害して営業秘密を取得したと前勤務先から誤解されるおそれがあります。
仮に不正の利益を得る目的でそのような行為を行った場合には、営業秘密侵害罪(10年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金)に該当することになります」
J子さんが偶然知った営業秘密を現職で使った場合には、どうだろうか。
「取得した時点では、偶然の結果であり、不正の利益を得る目的ではないことから、営業秘密侵害罪には該当しないとしても、その後、現職での自己の業務に取得した情報を利用した場合には、利用したこと自体が、営業秘密侵害罪に該当することになります。
なお、その場合には、前勤務先からそれによって被った損害の賠償を請求されることにもなります」
しかし、J子さんがアクセスできた原因は、前勤務先にあるのではないか。
「前勤務先がアクセス権限の適切な管理を怠っていた点は、そもそも『営業秘密』性を否定する方向で考慮されうると思われます。しかし、それだけでは『営業秘密』ではないとは言い切れないと思います」
J子さんはどう対応するべきなのか。
「J子さんは、同業他社に転職しています。責任追及をされた後にアクセスしたのが偶然だったと主張したところで、現職での自身の業務に利用する目的だったと疑われるおそれは高いと思われます。
それゆえに、J子さんとしては、誤解を解消するために、速やかに自身のアカウントの削除要求を積極的に行い、その後は一切アクセスしないことが望ましいと思われます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
福本 洋一(ふくもと・よういち)弁護士
弁護士法人第一法律事務所パートナー弁護士、システム監査技術者。2002年同志社大学大学院修了、03年弁護士登録。個人情報・マイナンバー等の情報管理・漏洩対応等を取り扱っており、日本経済新聞社の2015年度「企業が選ぶ弁護士ランキング・情報管理分野」にも選出されている。
事務所名:弁護士法人第一法律事務所
事務所URL:http://www.daiichi-law.jp/