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今宮純のF1決勝インプレッション:戴冠したメルセデスの栄光とマクラーレン・ホンダの大敗

2016年10月10日 12:31  AUTOSPORT web

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2016年F1第17戦日本GP ニコ・ロズベルグ
なによりも鈴鹿で決めたコンストラクターズチャンピオンを称えよう。先週マレーシアGPに大敗したメルセデスは決めるべくして、日本GPで3年連続コンストラクターズ・タイトルを制覇。残り4レースでの戴冠は昨年と全く同じペースだ。14年19戦16勝、15年19戦16勝、今年17戦15勝。新パワーユニット時代に移行してから「55戦47勝」、モータースポーツ界の永久不滅記録としてさらに更新されることだろう。

 初めて鈴鹿も勝ったニコ・ロズベルグ。未勝利GPが後半ベルギーから続いていたが、先週の3位レース以外すべて勝ちとり9勝目。これはとても大きい。

 やる気、負けん気、強気が感じられる。金曜CS中継で津川さんと「なんだか父親のケケさんみたい……」と話しあうほど、ニコは変わった。

 メンタルが強くなっただけではない。GPウイーク始まりの金曜フリー走行1回目からシンガポールを除いて毎回すべてトップ発進。これは彼のイニシャル・セッティングが的を突いたもので事前準備を巧く整えてきているからだ。そこから各セッションを進め、ポールポジション争いでルイス・ハミルトンに劣ってもいままでのように“暗い表情”をほとんど見せない。それがいい。PP獲るとニコニコ、外すとガックリ、それでは勝負師と言えない。

 セットアップを早いうちにまとめれば、ドライビング・ピークを保っていける。それはスタート・ダッシュにもつながる。心理状態が露になるのがこのスタート・プレーで、ロズベルグの心はしっかりグリップし鈴鹿でも決めた。一方ハミルトンは心がホイールスピン、完全にグリッド上で空回りだ(偶数列側にやや残る濡れた路面のせいとは言いきれない)。

 木曜FIA会見での態度を批判されると、それを土曜チーム会見の場で自ら“逆批判”、インタビューを拒む騒ぎに発展。追う立場になったいま、集中すべきときなのにかえって雑音をあおるような行動は自分をおとしめる。こうした行動に防衛王者の焦りというか苛立ちを感じる。もう2カ月半も勝っていない。そのストレスが強まり、0.013秒差のフロントローにつけながらホイールスピンで8番手にダウン。ロズベルグに負けたというよりも自分に負けたハミルトン……。

「自分に負けた」という意味ではマクラーレン・ホンダもそうかもしれない。先週マレーシアGP7&9位ダブル入賞によって期待が高まり迎えた鈴鹿、しかし初日FP1から冷水を浴びて始まった。フェルナンド・アロンソがいきなりスプーン進入でスピン、非常に珍しい。今回ずっと「グリップ不足!」を訴え続けた彼らだがその前兆があのシーンだ。


 ステアリングワークのうまいアロンソが反応できないほど乱れるとは、ペダルワークのうまいジェンソン・バトンがブレーキングで何度もロックアップするとは。結果論ではなく不吉な前兆が忍び寄っていた。

 原因をたどればダイナミック・ダウンフォースを欠いていたことに尽きる。鈴鹿に適応するシミュレーションになにか“入力違い”でもあったのだろうか。カーバランスは強アンダーステアではなく、二人とも他に比べて修正操作は少ない。

 ただセクター1定点観測中に驚いたのは、S字連続コーナーでアクセル・オフのタイムラグが長いことだ。「踏みたくても踏めない(!)」――二人とも訴えているように感じ取れた。私見だがルノーやザウバーと同じレベルに映り、それを感想として長谷川さんとの雑談で申し上げると「そうですか」と押し黙った。

 シャシーだけでパワーユニットだけで、ドライバーだけで戦っているわけではない。なんとか対策し対応するのが総合チーム能力、ミーティングは毎晩長く紛糾した(ようだ)。いまこの危機にやるべきことは全部やる。その一つが土曜フリー走行3回目からパワーユニットを予選モードに近いレベルにする手段、それでもアロンソ11位がやっとだった。これは苦しい……。

 レースは結果がすべて、という真理がある。マクラーレン・ホンダ決勝16位と18位、今季ワーストの大敗だ。戦い終えて日が暮れた5時半、ホンダ記者会見場はお通夜みたいな空気に包まれ、その数十人の輪の中に長谷川さんはうなだれていた。自分たち(ホンダ)のサーキットでメルセデスが栄光を極めたのに、恥ずべき結果を負った責任者の無念さがいっそう部屋の空気を重たくした。

 この大敗を皆でかみしめマクラーレン・ホンダがあと4戦をどう戦うか、一喜一憂せずに見届けたい――。