働く女性が一般的になり、出産から1年足らずで社会復帰することも珍しくなくなった。一方で、核家族化が進み、自身が働くために幼いわが子を保育園に預ける母親は多い。そんな中、「わが子いちばん」の自己中な保護者が増えているという。
「園に預けているあいだも理想の子育てを全うしようと、いろいろとご要望がおありです」
そう語るのは、保育園で1歳児の担任をしている清水美咲さん(仮名)。今どき保護者の実態を聞いた。(取材・文:千葉こころ)
子どもにブランド服を着せ、記名したら弁償要求
保育士歴9年というベテラン保育士の美咲さん。ここ数年は「ブランド志向の家庭が増えた」と感じるそうだ。
「子どもの服や持ち物、ベビーカーに至るまで、デザイン性に富んだオシャレなものや、海外製品を持たせる親御さんが多いです。うちの園では持ち物すべてに記名をお願いしているのですが、そういったかたほど守っていただけないんですよね」
ある日、着替えのときに他の子の服と紛れてしまわないように、記名のなかったAちゃんの服のタグに美咲さんが名前を書き入れた。すると翌日、Aちゃんの母親がこっそり耳打ちするように話しかけてきたという。「誰が何を着ていたかわかるはず」「着替えさせたらすぐしまえばいい」など、無記名でも問題ない理由を挙げ、美咲さんが「弁償する」と口にするよう促したそうだ。
「結局は園長対応となりましたが、高価なブランド服に記名されたのが許せなかったようです。絵の具を使う日などは汚れてもいい服で登園するよう事前にお願いするのですが、『汚れる遊びはやめてほしい』と言われたこともあります。かわいい格好をさせたい気持ちはわかりますが、ご自宅で過ごすときに楽しんでほしいですね」
ほかにも、「ベビーカーを迎えまで外に置いておくと汚れるから、玄関内で預かってほしい」という母親や、安全面からプラスチック製を指定しているのに「落としたら割れるとこも学ばせてほしい」と陶器製のコップを持たせた母親、子ども自身で開けられないほど凝ったデザインの道具ケースを持たせる母親もいるという。
「保育園は集団で過ごす場所です。個別の対応は限度があるので、園と家庭の線引きはしていただきたいのが本音です」
「モンテッソーリ教育法を取り入れて」と無茶な要求
留まるところを知らない母親の要望は、持ち物に限ったことではない。
「2歳を迎えると言われるのが、トイレトレーニングです。おむつ代がかさむからはやく取りたいけれど、家庭では付きっきりで世話をできない、おもらしで床が汚れるのがイヤというお母様が多いんです」
一般的におむつが外れるのは2~3歳ころで、個人差も大きい。それでも周りでできた子がいると、競うように「うちもお願いします」と言ってくるそうだ。逆に、「外れたことでトイレに連れていく手間が増えた」と言う親もいるそうで、対応に頭を抱える。
また、教育熱心な親が多いのも最近の傾向だと美咲さんは言う。
「英会話やモンテッソーリのような教育を取り入れてほしいと言われることも多いです。『〇〇保育園ではやっている』と比較されることもありますが、各園方針をもって保育をおこなっていますし、習い事の教室ではないので……」
これを遠回しに母親に伝えたところ、「ダメ先生」のレッテルを貼られて心を痛めたこともあるそうだ。
子育てを丸投げする母親に「せめて夕飯は家で食べさせてあげて」
教育熱心な親もいる一方で、思い通りにいかない子育てに疲れ、園に丸投げ状態の親もいる。
「2歳近くなると自我が芽生えてきます。言葉もうまく使えないので意思の疎通が難しく、手を焼くお母様も多い時期ですが、『仕事が忙しくなった』と連日開園から閉園まで預けっぱなしの親御さんもいらっしゃるんです。あきらかに仕事ではない日でも、ギリギリまで迎えに来ません」
母親が買い物している姿やベランダで洗濯を干す姿などを複数の保育士がみかけているという。それでも「仕事」と言い張り、子育てのほとんどを保育園に任せているそうだ。
「母親の愛情が必要な時期です。仕事のない日は、せめて夕飯くらい家庭で食べさせてあげてほしい」
と、美咲さんは子どもの心情を気に掛ける。
もちろん、全ての保護者が自分勝手なわけではない。しかし、無理難題を言ったり、理不尽なクレームを入れたりする親がいるのも事実。わが子を思う気持ちは大事だが、まずは「親」としての自覚を持って行動してもらいたいものである。