トップへ

年金保険料の強制徴収「年収300万以上」に範囲拡大へ…どんな場合に対象になる?

2016年10月10日 09:31  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

国民年金保険料の強制徴収の対象が、2017年度から年間所得「350万円以上」から「300万円以上」に広がることが報じられた。


【関連記事:ビジネスホテルの「1人部屋」を「ラブホ」代わりに――カップルが使うのは違法?】


日経電子版によると、厚生労働省と日本年金機構は、強制徴収の対象となる滞納者の基準を「課税所得350万円かつ未納月数7ヶ月以上」から「300万円かつ未納月数13カ月以上」に引き下げる。保険料の滞納に厳しく対処し、納付率を向上させることが狙い。対象者は現在27万人程度だが、約9万人が加わる見通しだという。


国民年金を支払わない場合、どのような不利益があるのか。強制徴収とはどのような手続きなのか。林朋寛弁護士に聞いた。


●強制徴収の手続き

「厚生年金保険の被保険者や、その配偶者などの他、日本国内に住所のある20歳以上60歳未満の者であれば、国民年金の被保険者とされます(国民年金法7条1項)。そして、国民年金の被保険者は、保険料の納付義務があります(同法88条1項)。


被保険者に該当する人は、免除や猶予の手続をせず支払を拒否していると、強制徴収の対象となり得ます」 林弁護士はこのように述べる。強制徴収はどのような手続きで行われるのだろうか。


「まずは、日本年金機構から、催促の文書が送られてきます。そのまま未納を続けていると、督促状(国民年金法96条)が送付されます。


督促状の期限を過ぎても支払をしない場合は、督励等を受けた後に財産の差押がなされます。


支払う財産があるのに隠蔽している悪質な滞納者とされる場合は、国税庁に滞納処分の権限が委任されて滞納処分を受けることがあります(同法109条の5)」


今回検討されている強制徴収の「対象」となる人達は、どのように決めているのか。


「『強制徴収の対象』というのは、日本年金機構の年度ごとに作成される計画(日本年金機構法35条)の中で、『強制徴収の着実な実施』という項目で出てくるものです。


平成28年度の計画では、『特に、平成28年度においては、控除後所得350万円以上かつ未納月数7月以上の滞納者に督促を実施する』とされています」


この項目に含まれない人は、未納でも強制徴収されないということだろうか。


「そうではありません。この対象に該当しない滞納者については、督促しないとか強制徴収しないとされているわけではありません。また、来年度の計画で、この督促の対象の条件が広がって、所得300万円以上となったとしても、それ未満の人の義務を免除するということでもありません」


●「年金を支払うことのメリットをしっかりと証明すべき」

「国民間の公平や、納付状況から、強制徴収という手段を取るというのはやむを得ないのかもしれません。


しかし、強制徴収にもコストが掛かりますし、本当に無いところからは取れませんので、徴収の成果には限度があります。


そもそも、年金が加入している者のための制度であるとすれば、国は、年金を支払うことのメリットをしっかりと証明すべきです。そうすれば、年金の未納率もそれなりに回復すると思います。


年金制度が破綻するとか、今のうちに支払った分の年金は将来もらえないとか言われていますので、その点の疑いを晴らすべきでしょう。


その疑いを晴らすことができないのであれば、現状の年金制度は、年金保険料を負担している者のための制度ではないと思われても仕方ありません。


さらに、国民年金の積立金等を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、株価維持のために株式投資を増やしているとか、5兆円を超える運用損を出していると指摘され、制度に対する国民の不安は高まっています。


こうした点について、問題ないことを明確にできないと、制度の将来性への信頼を失って、強制徴収のリスクより未納を選ぶ人が増えてくるのではないでしょうか」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
林 朋寛(はやし・ともひろ)弁護士
北海道出身。大阪大学卒・京都大学大学院修了。平成17年10月弁護士登録。東京弁護士会、島根県弁護士会、沖縄弁護士会に所属の後、平成28年3月に札幌弁護士会所属。経営革新等支援機関。『スポーツ事故の法務-裁判例からみる安全配慮義務と責任論-』(共著)。

事務所名:北海道コンテンツ法律事務所