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『べっぴんさん』の見どころは“芳根京子”だ! 類稀なる女優の才はどこまで磨かれる?

2016年10月10日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『べっぴんさん』公式サイト

 ついに先週10月3日からスタートしたNHK朝の連続テレビ小説『べっぴんさん』。子供服ブランド・ファミリアの創業者である坂野惇子をモデルにした本作は、初回視聴率21.6%とまずまずの出だしを見せ、ここ最近続く朝ドラの好調を順調にキープしている。


参考:芳根京子は大女優の器か? 隠れた名作『表参道高校合唱部!』に見る可能性


 本作の見所は、何と言っても芳根京子だ。デビューからわずか3年余りで今回のヒロインを務めるという大役を任された彼女を、『表参道高校合唱部!』以降注目し続けている筆者としては、録画では満足できずにテレビの前に正座して毎朝8時を迎えている。ここのところ駅のコンビニ・NewDaysの広告でしか彼女の姿を見ることができずにいたので、待ちに待った“動く姿”である。


 もっとも、朝ドラの基本通りに序盤は幼少時代を描くので、第1話の冒頭で登場して以降、少しの間出演シーンはない。それゆえに、若干油断しながら観ていたわけだが、この坂東すみれというヒロインの幼少時代を演じる渡邉このみが、驚くほどに芳根京子らしい動きを見せるので、一瞬で油断が吹き飛んでしまった。


 登場してから走る走る。かと思いきや、生瀬勝久演じる父親の前で言いたいことが言えずに口ごもる。これまで芳根京子があらゆるドラマや映画で見せてきたキャラクターの子供時代を本当に見ている気分になるほど、放つ空気感が似ているのだ。渡邉このみといえば、『まれ』で土屋太鳳の子供時代を演じたことが記憶に新しいし、遡れば『八日目の蝉』では井上真央の子供時代を演じていたのだ。また一人将来が楽しみな女優が現れたので記憶に留めておくことにしよう。


 さて、金曜日に放送された第5話の終盤で、ついに坂東すみれ役が渡邉このみから芳根京子に切り替わった。こんなにも早く青年期に入るものだったかな、と思ったが、そのぶん芳根を長く見続けられるのだから何も問題ない。わずか数分の終盤で、母親の写真に挨拶をし、女学校で友人に刺繍を施したモンペを渡すのである。同級生役には、昨年の映画『幕が上がる』でも共演しているももいろクローバーZの百田夏菜子と、今回初共演となる土村芳の二人だ。


 第6話でこの二人と共に並んで日の丸弁当を食べている場面で、芳根らしい表情がついに見られる。高良健吾演じる幼馴染の野上潔がバイクに乗ってやってくるのを見つけたとき、隣の百田がときめいた表情を見せるのをちらっと見るとき、そして大きな声で呼ばれて戸惑う表情。すっかり彼女の十八番とも言える目を真ん丸に開いた表情を、これから毎朝のように見続けられると考えると実に嬉しい。


 表情の芝居だけでなく、今回のすみれ役での最大の課題は神戸弁への挑戦である。もともと東京の出身の彼女が、正反対の京阪式アクセントにどう向き合うことができるか。今年の1月に放送された『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ)では似たアクセントを持つ奈良弁を話す役に挑んでいたとはいえ、やはり最初はぎこちなさが残るものであろうか。半年間でどこまでそれが上達するかが鍵となるだろう。


 8日の土曜日に姉役の蓮佛美沙子と共に出演した『土曜スタジオパーク』(NHK)では、持ち前の天真爛漫さを発揮する。毎週文化放送で放送されているラジオ『レコメン!』内の「芳根京子のみみにリコピン♪」で、演技とはまた違う魅力を引き出している彼女だが、やはり映像で見るとより一層と魅力的だ。その中で、視聴者からの質問に答える一幕があり、彼女はカメラの方に向かって手を差し出すのだ。トーク番組の画面に、突然現れた何とも映画的な遠近感。それを半ば無意識的に作り出すなんて、やはり類稀なる女優の才を感じる。さらに、NHK-BSのキャラクター・ななみちゃんから好きなスポーツを訊かれ、走ることが好きと語った彼女。はやく劇中でも走ってる姿が見たいものだ。


 今年は前述の『いつ恋』の後、6月にフジテレビ系で2夜連続放送されたドラマ『モンタージュ 三億円事件奇譚』でのヒロイン、同じ時期には瀬々敬久監督の『64-ロクヨン-』で佐藤浩市演じる主人公の娘役を演じ、今回はそれ以来の演技となる。後者では少ない出番に加え、ほとんど顔が映らないながらも、強い存在感を発揮していた。(まったく知らずに観に行き、声が聞こえた瞬間に思わずスクリーンに釘付けになってしまった。)


 これから半年間は、他の作品で見ることがほとんどなくなるわけだが、それでも毎日彼女の演技が見ることができ、新たな朝ドラヒロインとして世の注目を集めるなら、言うことなしだ。早くも放送終了後の大躍進も期待してしまっているが、まずはこの『べっぴんさん』を通して、彼女がどこまで進化するのかが大いに楽しみである。(久保田和馬)