高卒予定者のもとに、内定通知書がそろそろ送付されているころでしょう。この連載では、高卒で働き始める人がもっと増えていいはずなのに、生徒を守るはずのさまざまな古いルールが、かえって生徒を苦しめているケースがあると指摘してきました。
この状況が改善されないために、いまの高卒生は大きな就業リスクを抱えています。それは「最初の就職先が自分に合わなかったときでも、簡単に辞められないこと」、そして「やむを得ず辞めた後に、転職先がなかなか見つからないこと」です。(文:河合浩司)
大人のお膳立てで就職すると「転職力」が弱くなる
高卒で就職しようとすると、基本的に高校に来る求人か、高校内にあるハローワークの求人票検索システムで仕事を探すことがメインになります。
自分で仕事を探すというよりも、学校や先生が提示したり薦めてきたりする範囲から選ぶことになります。これは大人に選択肢を用意してもらうことに他なりません。お膳立てをしてもらうことはラクですが、自分の頭で考える機会が少なくなってしまいます。
しかも、面接は原則として一度きり。あっても二次面接で終わりです。いろんな会社を受けられず、選択肢自体が非常に限られているのです。このような就活プロセスでは、「自分で就職先を決めた」という経験にはなりません。これが「転職力」の弱さにつながります。
そして、そのまま卒業し就職して長く勤められればいいのですが、早期に退職する人も少なくありません。就職して3年以内の離職率は、高卒で5割です。地方の中小企業の中には、労働基準法をきちんと守らない会社も数多く存在しますし、もともとマッチングなど無きに等しいのですから、ある意味当然の結果です。
一方、高卒者の「新卒カード」の貴重さは大卒以上。中途採用で大卒を条件にする会社も多く、就業経験の短い高卒者の転職先は、ごく限られてきます。
ブラック企業に入ってしまったら「辞めてしまえばいい」と言われますが、なかなかそうも行かないのです。そんな状況の中で心身の調子を崩してしまったり、その前に辞めたとしても転職先がなくて引きこもってしまったり……。高卒者の就業リスクは意外にも大きいのです。
「好き」がいつか自分の仕事につながるかもしれない
この問題を根本的に解決するためには、高卒予定者の就職活動の自由度を拡張し、複数企業の面接を受けられるようにすることが必要だと思います。「未成年の高校生は保護すべき対象」というのは表向きで、実は地元の中小企業が労働力を確保するための規制になっているようにも思えます。
そんな中、高卒予定者はどのような自衛策を講じればいいのか。ありきたりな助言ですが、生徒たちには「高校時代に自分の興味のあることを見つけてほしい」と思います。
私が知っている元・高校生で、今IT関係の会社に勤めている人がいます。初めに会ったときは「やりたいことなんて特にないッスよ」と言って、ゲームばかりしていました。
しかし、自分が持つゲームの攻略情報が友人たちに喜ばれることを知ったことから、彼は変わり始めました。その後、攻略情報をブログに集め始め、自分でサイトを運営するに至り、今ではこれらの活動で得た技術を基に仕事にしています。
そば職人になって活躍している人もいます。高校生のときはただの麺好きだったのですが、自分で作ることに楽しみを覚え、道具まで揃え、卒業する頃には両親の協力も得ながら、各地の名店を訪れていたそうです。そして尊敬できる師を見つけて修行し、今はそば打ちの技術を持って世界を旅しながら活動をする様がサイトで見られます。
これほど好きと仕事がつながる明確なパターンは珍しいのかもしれませんが、彼らも当時は「これが自分の仕事につながる」という確信を持っていたわけではありません。「なぜかよくわからないけどやりたい」ことに取り組むには、学生時代が一番です。その貴重な時間をぜひ有効活用してください。
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