2年目でスーパーGTマシンの走り方を極めつつあるコバライネン。F1ウイナーの実力はダテじゃない。 F1日本GP鈴鹿と同日開催で、タイのチャン・インターナショナル・サーキットでスーパーGT第7戦が開催される。今回のタイ戦のGT500クラスの優勝争いをズバリ言うならば、カルソニック IMPUL GT-RとS Road CRAFTSPORTS GT-Rの2台に絞られる。
S Roadは前回の鈴鹿1000kmで3位表彰台を獲得したとはいえ、ニッサン陣営で唯一の未勝利チームでなんとしても勝利がほしい。今回のタイ戦では8月の富士戦でクラッシュして鈴鹿1000kmを欠場した千代勝正も復帰し、本山哲との強力コンビが復活する。前回の鈴鹿に続いての表彰台獲得は、かなり可能性が高い。
前回の鈴鹿1000kmでは悔しい思いをしているチームが多々あるが、その中でもカルソニックGT-Rは2番手を走行しながら、ピットストップ時に追加したエンジンオイルが引火してしまい、S字で炎を上げてストップ。鈴鹿の時点で優勝を争える速さがあっただけに、このタイでも大本命の1台と言える。
S Road、カルソニックともに56kgのウエイトハンデではあるが、今年のGT-Rの好調ぶり、MOTUL AUTECH GT-Rの100kgを搭載しての鈴鹿1000kmの4位走行(最後はガス欠で6位)を見ても、重さの影響は大きくはない。今回のGT500の優勝争いはS Roadとカルソニックの一騎打ちと言っても過言ではないだろう。
優勝争いは2台に絞られてしまうが、このタイ戦で優勝争いとともに、重要なのが、残り1ラウンド2戦となる最終戦もてぎ戦に向けたチャンピオン争い。各メーカーにとっては、まずはこのタイ戦後に、自分の所属するメーカー内でトップになることがチャンピオン争いの最低必要条件になる。
そこで注目したいのが、レクサス陣営のトップ争い。ランキング2位のZENT CERUMO RC Fとランキング3位のDENSO KOBELCO SARD RC Fが4ポイント差でレクサス陣営内のトップを競っており、このタイ戦でどちらが上位になるのか、大きな見どころとなる。
■2年目で「完璧なドライバー」との進化を遂げたコバライネン
ZENTは前回の鈴鹿の優勝で25ポイントというビックポイントを獲得し、一躍ランキング2位に浮上。そのZENTと対をなすようにここまで前戦でポイント獲得と、コンスタントに上位の成績を収めてきたのDENSOだ。昨年はドライバーズランキング13位だったDENSOは一躍、今季はどうしてここまで安定した成績を残せているのか。田中耕太郎エンジニアに聞いた。
「運転手の調子がいい。運転手が速い。まずはそこに付きますね」と話す、田中エンジニア。
「ヘイキ(コバライネン)さんがスーパーGTでの走り方を掴んでくれた。『こうやって乗ってくれないか?』というリクエストに対して、『わかった』と、その通りに走れるようになった。『わかった』と言って、すぐに本当にわかっちゃったのがすごいよね」
昨年加入したコバライネンの2年目の進化が大きいと語る田中エンジニア。田中エンジニアはこれまでフォーミュラ・ニッポンを含め、さまざまなタイトルを獲得し、多くのドライバーとコンビを組んで来たが、その歴代のドライバーの中でも、コバライネンはドライバーとして高いパフォーマンスを持っているという。
「昨年からもともと速いのは知っていたけど、どうも乗り切れていなかった。そこで本人に何かきっかけがあったんだろうね。『このクルマはF1じゃないから、こうは動かないよ。ハコ車だから前にエンジンがあるし、屋根があるし、F1に比べればゆったりしか動かないんだから』というような話をしたり、あとは『フロントにエンジンがあるのに、タイヤはフロントが狭いんだよ』とかを話したら、それを理解してくれた。とにかく、速さは一流ですよ。だからもう、運転手としては完璧じゃないですか」
そのドライバーの本来のパフォーマンスが出せることに重なり、サードのチーム力アップも今の好成績を支えているという。
「チームが良くなったのは間違いない。野田(英樹)監督がスタッフを集めてくれて、メカニックを含めたチーム力が昨年から上がった」と話す田中エンジニア。レクサス陣営のトップを奪うのは、ここ数年のレクサスのトップランカーのZENTか、それとも新体制で名門復活を目指すDENSOか、今年のレクサス陣営で注目のポイントとなる部分だ。
■予想が難しいGT300で、支点となるタイヤメーカー
一方、ホンダのトップはKEIHIN NSX CONCEPT-GTだが、ランキングは10位と他のホンダ系チームにとっても、このタイでの逆転は充分可能な状況。これまでのシーズンの流れを見ていると、ホンダ陣営は予選では上位に来るも、レースでは厳しい戦いが続いている。ウエイトハンデ軽く、同じような条件のクルマが多いだけに、ホンダ陣営内でどんなバトルになるか。
優勝争いとともに、メーカー陣営内バトルに目を移せば、GT500はかなりアツイ戦いが繰り広げられることは間違いなさそうだ。
GT300クラスは、今回かなり予想がしづらい。このコースはFIA-GT3車両もかなり強いコースだが、気になるのは各車が積むハンデウエイトだ。それによって苦しむチームも多そうな気配。タイヤも重要なファクターとなるのは毎戦同様。酷暑のなかでは毎年ダンロップタイヤが苦戦してきたが、今年は持ち込んだタイヤのパフォーマンス次第で戦力図も変わるだろう。
また、JAF-GT勢は、ふたたび最低地上高が上げられたこと、ハンデウエイトを積んでいるチームが多いところから、これまでのようなスピードは発揮できない可能性もある。ウエイトが軽いところではシンティアム・アップル・ロータスなどがあるが、パーツが間に合わなかったものもあるようで、苦戦の可能性もある。
これらの条件から、GT3勢でハンデウエイトが少なめのところが上位に来る可能性が高い。ヨルグ・ベルグマイスターが復帰するExcellence Porscheやマネパ ランボルギーニGT3、さらにStudie BMW M6やJMS LMcorsa 488 GT3など、地力はあるものの今季思うようにポイントが獲れなかったチームが予選で上位に来る気配がある。ダンロップタイヤによっては、GAINER TANAX GT-R、GAINER TANAX AMG GT3も要注目だろう。
ただ今季のGT300は、タイヤや車種特性の接戦さから、実際にフタを開けてみないことには分からない部分が多い。とくにここブリーラムは事前テストもないので、より予想がしづらい。明日の公式練習のタイムが大いに注目となりそうだ。