トップへ

宇多田ヒカル『Fantome』、発売初週のセールス推移は? 傑作ポップスはこう広まる

2016年10月07日 14:01  リアルサウンド

リアルサウンド

宇多田ヒカル『Fantôme』

■石井恵梨子のチャート一刀両断!


【参考:2016年9月26日~2016年10月2日週間CDアルバムランキング(2016年10月10日付・ORICON STYLE)】(http://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2016-10-10/)


 来ました! 9月の頂上決戦。CD3枚+DVD1枚からなるフルボリュームのEXILE『EXTREME BEST』と、6年ぶりの復帰、アルバムとしては実に8年半ぶりとなる宇多田ヒカル『Fantome』。一日違いで発売されたこの2作品が、今月の、いや、今年下半期の音楽シーンの象徴となるでしょう。


(関連:宇多田ヒカル『Fantôme』、国内外で大反響ーーグローバルな音楽シーンとの“同時代性”を読む


 結論を言うと、宇多田の圧勝。『Fantome』は初週だけで252,581枚! 「まさか」という感想がまったく浮かんでこないのは、彼女のネームバリューはもちろん、深みと艶をいっそう増した歌声とサウンドが現在の日本でのポップス最高峰と思えるものだったから。傑作が傑作らしくドカンと売れるのは気持ちがいいです。もちろんレコード会社側は50万枚くらい、なんとなればミリオンも狙っているでしょうが、決して夢物語ではないでしょう。


 2位のEXILEは178,401枚。1位の数字が凄いので少し霞んで見えますが、これ、そもそも4枚組のベスト盤ですからね。オリジナル・アルバムはすでに保持しているし、ベスト盤もボリュームがありすぎるとなかなか手が出しにくいし、結局聴かない盤があったりする。しかも値段は7,538円と強気です。三代目JSBやE-girlsなど若手TRIBEの台頭が目立ってきた時期において、本家には「ここにEXILEあり!」を見せておきたい意地もあったでしょう。それをしっかり支えるコアファンが18万人弱。複数買えば非売品特典が付いてくる特典商法もあるとはいえ、これもまた、すごい記録だと思います。


 RADWIMPS『君の名は。』が初登場から6週連続で5位圏内をキープするロングセラーになっていること。また今年デビュー29年目のBUCK-TICKが、キャリアの長さをまったく感じさせない新作『アトム 未来派 No.9』で5位にランクインしていること。いくつかトピックはありますが、すいません、今週という今週は宇多田ヒカルに焦点を絞ります。私、先週からずっと、デイリーチャートに張り付いていたのです。


 まず発売日の前日、フラゲ日となる27日に、『Fantome』は87,088枚も購入されました。宇多田の声を待ちわびていたコアファン、誰より早く新作を聴きたい層が9万人弱ということです。


 そして発売日の28日は49,728枚。発売日にちゃんとレコード屋に寄るのも、いわゆるコアファンと呼ばれる人たちでしょう。同日には米津玄師のシングルも発売されたので、それが目当てで店内に入り「お、ついに宇多田が」と手に取った人も……まぁ多少はいるでしょうか。ただし、米津玄師リスナーと宇多田のファンがそれほど近いとは思えません。宇多田ヒカルのポップスは、テレビやラジオで流れ、老若男女に広く愛でられるもの。つまりはライトリスナーなのです。『Fantome』のセールス推移を見てみましょう。


 29日(木)27,782枚 → 30日(金)25,038枚 → 10月1日(土)28,899枚 → 2日(日)32,065枚 → 3日(月)14,028枚


 これが宇多田ヒカルの売れ方です。ポップスの広まり方、と言ってもいい。EXILEの場合は30日の段階で1万枚を切っていますから、スタートダッシュでどれだけ数字を伸ばすか、という売り方ですね。特典など何もついていないけれど、毎日安定した数字が出て、土日は特に売り上げが伸びる。音楽や芸術をあえて商品と呼ぶのなら、これは、売り物としてすごく健全である、ということです。


 もっとも、発売からまだ一週間。「初週に買うのは全員コアファンだろ」と言われればその通りです。ライトリスナーはこれからもずっと「宇多田ヒカルの新譜がいいんだって」という声を聞き、なんとなくCDを手に取っていくことでしょう。どんどん売れて欲しい。CDショップにもっと人が集まると楽しいのに。先日まさかの「情報告知一切なし、いきなり店頭販売」というゲリラ戦法を見せてくれたHi-STANDARDの件も相まって、なんだか、音楽業界全体に希望が見えた一週間でした。(石井恵梨子)


※宇多田ヒカルアルバムタイトル内「o」はサーカムフレックスつきが正式表記。