日本経済新聞に10月2日付けで掲載されたコラム「春秋」がネットで話題だ。テーマは若者の車離れ。定年間近の筆者が赤色のスポーツカーを購入した際にディーラーの販売員と交わした会話が書かれている。
スポーツカーを買うなんて「いい年をして恥ずかしい」と思った筆者だったが、販売員によると、購入客の中で自分が一番若かった。さらに、今の30~40代でマイカーを買う人は、車は移動手段でしかなく、スポーツカーには興味を持たないと説明されたという。
筆者はここで「若いころは目立つ派手な車に彼女を乗せて走りたいんじゃないの?」と疑問を持ったが「その下の世代はスポーツカーどころか、そもそも車を買いません」と言われた。
「いつの時代ですか目を覚ましてください」とツッコミが入る
自身が大学生のころは「まだバブル景気にはなっていなかったが、少し気合を入れてアルバイトをすれば、車は手に入った」と振り返り、
「トヨタのスターレットを買って、乗れもしないサーフボードを上に載せ、意味なく湘南海岸に行く。そんな連中がたくさんいた。そういえば、『趣味はドライブです』と語る若者にめったに会わなくなった」
と昔を懐かしんだ。この記事は、同日にとあるツイッターユーザーが自身のツイッターでシェア。「まさに老害って感じだな、日経春秋」という言葉と、以下のような皮肉とともに投稿された。
「×その下の世代はスポーツカーどころか、そもそも車を買いません。
〇買えません。
×少し気合を入れてアルバイトをすれば、車は手に入った。
〇いつの時代ですか目を覚ましてください」
これが1万件近くリツイートされ話題に。確かに、今の若者事情に疎い中高年といった風情の記事ではある。しかし一方で、「冷静な分析内容を述べているのであって、老害的な要素はどこにもない」という声も。いくつかのデータをもとに、改めて今の若者の車事情を見てみる。
「買い物でローンや借金はしたくない」と考える若者も多数
内閣府発表の「民間給与実態調査」を見ると、20~24歳男性の平均給与は、1980年代は右肩上がりで上昇を続け、1992年には約300万円と最大値を記録。しかし、翌年から徐々に下がり、2015年で約271万円となっている。
日本の好景気に押され、「給与は上がっていく」という期待感が強かった昔であれば、ローンを組んででも車を買おうという気持ちにもなるが、現在の残念な給与では厳しい。
一般社団法人の日本自動車工業会が4月に発表した資料でもそれが表れる。現在車を保有していない20代以下の社会人で、車を購入する意向がないと回答した人は59%に上る。また、「買い物でローンや借金はしたくない」と回答した人も42%だった。
仮に購入するとしても目的は彼女を乗せたいからではない。あくまでも実利目的に変化している。ジャストシステムズが9月に発表した「20代消費行動レポート」で、自家用車を所有する20代に購入目的を聞いているが、最も多いのが「日常生活の移動手段」で68.5%だった。「デートで使うから」は19.5%にとどまっている。
ちなみに日経新聞の媒体資料(2015年)によると、購読者の約6割が男性で、約7割が40代以上だ。また世帯主読者の個人年収は664万円と、他紙よりも200万円ほど年収が高い。イメージ通りではあるが、書き手も読み手もアッパークラスの中高年男性、といったところだろうか。
こうした背景を考えると、「春秋」の内容にも納得だ。同じ20代男性でも、時代が違えば考え方や行動が違うのだと、あらためて考えさせられる。
あわせてよみたい:「経済格差は知能の格差」で議論