2016年10月05日 11:02 弁護士ドットコム
「こんな恥ずかしい求人を出すな」。業界歴10年以上のアニメーターが投稿した、アニメ会社の「ブラックすぎる」求人情報が、ツイッターで1万回以上RTされるなど話題になっている。そこには「1年間は無収入だと思って下さい」と書いてあったという。
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投稿によると、このほかにもアニメーターの募集条件として、「実家から通える人。親から仕送りしてもらえる人」という文言もあったそうだ。投稿者は「なんでアニメ作るのに親の金使ってまでアニメを完成させなきゃならないのかって話ですよバカげている」と憤っている。
アニメーターの低賃金労働は長らく問題視されている。日本アニメーター・演出家協会の調査(2009年)によると、20代のアニメーターの平均月収は約9万円だという。今回の投稿が事実だったとして、収入ゼロなどの過酷な条件でも、双方の合意があれば有効になるのだろうか。労働問題にくわしい白川秀之弁護士に聞いた。
ーーなぜ、新人アニメーターの給料は安いのでしょう?
アニメーターは、例えば作画の枚数といった出来高に応じて支給される「オール歩合給」であることが多いようです。新人アニメーターは技術的に作画を多く作成できないので、必然的に給料が低くなってしまうと考えられます。
ーー双方の合意があれば、給料が低くても問題ない?
現実的には少数だと思われますが、まずはアニメーターが会社に「雇用」されている場合を考えてみましょう。
オール歩合給であっても、雇用されていれば、「最低賃金法」の適用があり、給料を総労働時間で割った金額が最低賃金額を上回っている必要があります。20代のアニメーターの平均月収は9万円だそうですが、東京都の最低賃金は「932円」ですので、仮に総労働時間が月100時間だと、最低賃金違反となってしまいます。
また、雇用関係にあれば労働基準法が適用されますから、時間外労働、深夜労働、休日労働の割り増しも必要になります。つまり、1枚も完成していなかったとしても、給料をまったく払わなかったら違法です。
ーーでは、アニメーターが個人事業主の場合は?
個人事業主として、スタジオとの間で「作画1枚当たりいくら」という請負契約をする場合もあります。この場合には、最低賃金や労働基準法の適用はありませんから、合意さえあれば、作画が完成しない場合に「収入ゼロ」となるような契約も可能です。
ただ、請負契約の場合は、雇用契約と比べて、仕事の進め方に「裁量」が与えられていなければなりません。例えば、個人事業主と言いながら場所や時間を拘束されていたり、作画方法などについて強く指揮監督を受けていたりすると、「請負」ではなく「雇用」とみなされる場合があります。
機械や資材などを会社側が提供していたり、他の会社の業務に従事することが禁止されていたりする場合も同様です。そう考えると、アニメーターの仕事は、請負とされていても事実上の雇用であるケースがかなりあるのではないでしょうか。
ーーアニメーターの権利をどう守っていくべき?
日本のアニメ産業の実態は、こういった低賃金労働に支えられているという面も否定できないと思います。アニメを日本の産業として発展させたいのであれば、アニメーターの労働条件を改善する必要があります。優秀な人材が育たないからです。
そのためには、例えば、アニメーターがきちんと労働組合を組織して、労働条件の改善をスタジオに求めていく必要があるでしょう。個人事業主であっても、労働組合を組織して会社と団体交渉できる場合もあります。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
白川 秀之(しらかわ・ひでゆき)弁護士
2004年、弁護士登録。労働事件が専門だが、一般民事事件も幅広く扱っている。日本労働弁護団常任幹事、東海労働弁護団事務局長、愛知県弁護士会刑事弁護委員会委員。
所属事務所:弁護士法人名古屋北法律事務所
事務所名:弁護士法人名古屋北法律事務所
事務所URL:http://www.kita-houritsu.com/