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それでも世界が続くなら 篠塚が“自身の闇”と向き合った理由「誰かと繋がりたいという気持ちがある」

2016年10月04日 17:11  リアルサウンド

リアルサウンド

それでも世界が続くなら

 4人組ロックバンド「それでも世界が続くなら」の2ndミニアルバム『52Hzの鯨』がリリースされる。他の個体が聞き取れない52ヘルツの周波数で歌う、実存するといわれる「世界で最も孤独な鯨」の名をタイトルにした本作は、孤独や絶望、劣等感、挫折感といった負の感情を、轟音ギターと深遠なリヴァーブにより鮮烈に描き出している。それはしかし、決して自閉的な内容ではなく、むしろ篠塚将行(Vo、Gu)による、まるで魂を絞り出すようなシャウトからは、「誰かと繋がりたい」という前向きかつ切実なメッセージを感じることができた。


 幼少期に受けた「虐め」の影響で、極端に自己評価が低くなったという篠塚。今回おこなったインタビューも、前半はまるで禅問答のようなやり取りとなった。今はまだ、「自己受容」の途中段階にあるという彼が、作品を通して自分自身を丸ごと受け止めることができた時、「それでも世界が続くなら」の楽曲はさらなる強度をもって、より多くの人たちを救うのではないだろうか。(黒田隆憲)


・人生の中で最も『自分自身の闇』を投影させた


ーー篠塚さんは、どんなきっかけで音楽活動を始めたのですか?


篠塚:幼稚園の頃、親に習わされたピアノがきっかけだと思いますね。まだ物心も付く前だったから、果たして好きでやっていたのかどうか怪しいですけど。その頃はクラシックばかり聴いていましたね。で、高校生の頃にTHE BLUE HEARTSやthe pillows、bloodthirsty butchersに出会い、自分で曲作りを始めました。当時はピアノしか弾けなかったのでピアノの先生に「僕、パンクが弾きたい」って頼んで……。クラシックそっちのけで、THE BLUE HEARTSやbloodthirsty butchersなどをピアノで弾き出したんです。先生はもちろん、パンクなんて知らないからお手上げ状態になって、それでピアノ教室は辞めました。


ーーそれらのバンドは、やはり歌詞に感銘を受けた?


篠塚:ええ。すでに解散していたTHE BLUE HEARTSは後追いで知ったのですが、いじめられっ子だった当時の自分に響きましたね。「あ、これは俺の歌だな」って。そんなふうに感じたのは初めてでした。テレビから流れてくる音楽って、みんなに向けて歌っているけど、一人ひとりには全く向き合ってない。「まるで学校みたいだな」と思ってたんです。大勢に向かって話している言葉は、そこからあぶれた自分のような、マイノリティには向いてないし届いてこない。個人に直接歌いかけてくれているのは、THE BLUE HEARTSやthe pillows、bloodthirsty butchers、それからeastern youthだったんです。


ーーバンドを始めたきっかけは?


篠塚:当時は不登校で、テストの時だけ学校に行くような状態だったし友達なんていなかったんですけど、休み時間はいつも音楽室で過ごしていた僕に、一人だけしつこく話しかけてくる奴がいたんですよ。「一緒にバンドをやろう」って。最初は断っていたんですけど、押し切られて入ることになり、ギターを担当していました。そのバンドのボーカルが、ライブを直前にすっぽかして消息不明になったんですよ。それで、仕方なく僕がボーカルを担当し、残りのライブを消化する以外ないっていう。それで今に至ります。


ーー篠塚さんの書く歌詞は、どれも赤裸々で胸をえぐるような内容ですが、こういう歌詞を書くようになったのはなぜ?


篠塚:できる限り作為的な要素を外し、実体験を歌いたいなと。自分を良く見せようと思って、歌詞に手直しを入れて、どんどんリアリティから遠ざかっていくのが嫌で。そうやって自分を良く見せようとしなくてもいいくらい、いい人間でいろよって、自分に対して思ってしまうんです。つまり自分のことが嫌いで、そんな自分を誤魔化し飾り立てたいから、歌詞も作為的になっていくんじゃないかと。だから、気に入らない歌詞が出てきた時は、そんな歌詞を書いた自分自身を変えたいんでしょうね。何も作為なことを考えず、心の中から自然に出てきた歌詞が「いいものであって欲しい」と願っているのかもしれないです。


ーーその、「いい人間」や「いい歌詞」といったときの、「いい」の定義って何なんでしょうね。


篠塚:うーん……。結局は、自分が自分のことを誇れるかどうかっていうことだと思んですよね。自分で自分を納得できるか。それは決して「独り善がり」のものではなく、かといって「誰かに好きになってもらえる自分」というわけでもなく。誰かに対して「誠実である」ということなんじゃないかなと。


ーーということは「今の自分は誠実でもないし、誇れる人間でもない」っていうふうに思ってしまう?


篠塚:そうなのかもしれないですね。例えば僕は今、ここでこうやってインタビューを受けながら、例えば一般的に家族に対して接する様に、あなたに心を開きたいと思っているんですよ。でも、それを相手が受け入れてくれるか……、相手も自分と同じように心を開いてくれるかはわからないじゃないですか。そこはやっぱり怖い。僕の思う誠実さは、一方通行では嫌なんです。相手との対話の中で生まれるものであって欲しい。となると、音楽を作ってそれを相手に向かって投げかけるという行為自体がある種の「不誠実さ」を孕んでいるとも思ってしまうんですよね。


ーーただ、「誠実でありたい」というのは自分の問題であって、相手がどうであるかはあくまでも相手の問題ですよね。


篠塚:たぶん、自信がないんでしょうね。自分のことが好きじゃないし、人と比べて劣っていると感じるし、「こんなんじゃダメだ」っていう思いが、ずーっとあるんです。ずっと自分が嫌で、人と接したくなくて。今すぐにでも、また虐められるような気がするというか。「俺の曲なんて、誰も好きなはずがない」ってどこかで思っちゃうんですよ。そういう自分を変えたい、この生きづらさを何とか解消したいっていうのは、音楽を始めたきっかけになっているのかなと思います。バンドをやっていれば、いつかは自分を好きになれるんじゃないかって。でも、やればやるほど……。これ、解消すると思います?


ーーうーん、でも、例えば篠塚さんの歌詞を聴いて、そこに共鳴した人たちは僕も含めて少なからずいるわけですよね。そういう人たちが、「こんな風に考えているのは、自分だけじゃないんだ」と思って少しでも救われたとしたら、それは篠塚さんの自己受容にもつながるんじゃないですか?


篠塚:ああ。なるほど。


ーーそのためには、「自分のことが嫌い」と思ってしまう自分も丸ごと受け入れないと、今の生きづらさからは解消されないのではないかと。


篠塚:そうですよね。いやもう、僕に曲を書いて欲しいです。


ーー(笑)。前作に比べて今作は、誰かに向けて発信しているというか、自分を救うためだけでなく、自分と同じような思いを抱える人にも「届けたい!」っていう思いを強く感じましたよ。篠塚さんが、身を振り絞るようにシャウトするのだって、誰かに届けたいという一心からだろうし、タイトルの「52Hzの鯨」というのも、自分と同じように52Hzでしか声を出せない人、52Hzしか聞き取れない人に向けてメッセージを届けようと一人もがいているように思いました。


篠塚:そうおっしゃってもらえるのは嬉しいんですけど、でも今回のアルバムは、自分の人生の中で最も「自分自身の闇」を投影させているんです。


ーーそれって、ある意味ではもっとも開かれているということですよね。全く繕うことなくありのままの自分をさらけだす「勇気」を持てたわけですから。


篠塚:そうか。そうなのかもしれないですね。僕も、こうやってお話ししていてそう思いました。やっぱり、誰かと繋がったり、誰かと対話したりっていうことへの欲求は、自分にとって根本的なものなのだろうな。


ーーじゃあもし、このアルバムを丸ごと受け止めてくれる人がいたら、篠塚さんの生きづらさも少しは解消されますか?


篠塚:ええ!!?? すごいな。そんな質問しますか? でもどうなんだろう、そこで僕は本当に救われるんですかね。


ーーだって、ありのままの自分を否定されるのが怖くて、今まで自分を閉じてきたわけですよね。作品を通して、ありのままの篠塚さんを受け入れてもらえたら、それは篠塚さんの自己受容になるんじゃないですか。


篠塚:いやあ……。理論的にはおっしゃるとおりなんですけど。でも、否定されたり拒絶されるのは嫌なくせに、肯定されたり受け入れられるのも「怖い」と思ってしまうんですよ。


ーーおそらく、否定されることも無意識で望んでいるのかもしれないですね。「こんな自分を人が好きなわけがない」「ほらね、やっぱり嫌いでしょう? 初めからわかってた」っていう風にした方が、期待しないぶん平穏な心でいられるじゃないですか。


篠塚:そうなのだと思います。否定されるのが前提になっているというか、クセになっているというか……。だから、そこを受け入れられたりしたら逆に不安になってしまう。


ーーその悪循環から抜け出さないと、いくら自分を救い出したいと思って曲を書いても、堂々巡りのままな気がします……。


篠塚:そうなんですよね。今まで、そこの答えをずっと避けてきた気がします。こんなに突っ込まれたことなかったから、考えてもこなかった。そうですよね。自分のことが嫌いなままだと、たとえ自分の作品を誰かに全面的に受け入れてもらえたとしても、自分自身が救われることはないんでしょうね。自分自身を救うために曲を作り歌うことはできても、それを人に聞かせるのは未だに怖いし。


ーーだとしたら、なぜバンドでそれを表現しているのですか?


篠塚:なんででしょうね。うーん、むずかしいな。やっぱりそこは、誰かに受け入れてほしいっていう気持ちがあるんでしょうね。


・サウンドに対するこだわりは、世間一般の『いい音』とは違うのかもしれない


ーー色々お話を聞いていて、きっと理想も高いのかなと思いました。


篠塚:理想が高くなかったら、きっとこんなに自分のこと嫌いになっていないでしょうね。このままテープを止めて飲みにでも行きますか?


ーーぜひ今度ゆっくり。その前に、サウンドのこともお聞きしますね(笑)。今回、ほとんどバンドの一発録りだったそうですが、その理由は?


篠塚:クリックに合わせてドラムスから順番に重ねていくやり方だと、僕らが持っているグルーヴが失われてしまうと思ったからです。それに、バンドの演奏をライブハウスで聴いているときって、完全に分離したサウンドじゃないですよね。ドラムのマイクにギターやベースの音が被るのはあたりまえだし、右耳だけギターが聞こえたり、左耳だけキーボードが聞こえたりすることはありえないわけで。実際はモノラルに近いと思うんです。


ーー以前、ケヴィン・シールズ(マイ・ブラッデイ・ヴァレンタイン)にインタビューしたとき、彼も同じことを言っていました。


篠塚:あ、そうですか! 実際にライブハウスでは、そうやって音の塊として聴いているはずなんですよね。それと、きっと僕は音楽そのものよりも、このバンドのことが好きなんですよ。このバンドで音を鳴らしている行為そのものが好きというか。だから、4人で鳴らす音を、そのまま収めたいっていう気持ちもあるんです。


ーーということは、ドラムスもベースもギターも、一つのブースで録ったのですか?


篠塚:そうです。普通は一発録りといっても、ギターアンプやベースアンプ、ドラムを別々のブースに入れて、それで音被りしないようにレコーディングするわけですが、僕らはギターアンプやベースアンプを全部ドラムスの方向に向けて、思いっきり鳴らしています。アンプは、フェンダーDeluxe Reverbとハイワットのキャビネット。僕らのような爆音系のバンドって、音が小さいバンドよりも、音に対して繊細じゃないといけないと思うんです。ただデカイ音を出しているだけだと破綻してしまう。だから、ドラムスのマイクにどれだけ音が被っているかとか、その量もある程度予測は立てているんですよね。


ーーそこをうまく調整し、部屋鳴りや、バンドの塊感を出しているわけですね。


篠塚:ええ。天井の高さがどのくらいで、マイクをどの辺りに立てるとどのくらいアンビエンスが録れるかとかを考えながら。アンプを壁に近づければ、近接効果でローがブーストするじゃないですか。アンプの特性なども考慮に入れながら、音像をコントロールしていきましたね。


ーーそういう音作りは、誰かの影響だったりするんですか?


篠塚:ギターサウンドとか、そういう音作りも込みでいうと、やっぱりbloodthirsty butchers、やthe pillows、ニルヴァーナあたりですかね。


ーーモグワイとか、ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラーとか好きなのかなと思ったんですけど。


篠塚:ドラムスの栗原(則雄)はモグワイ好きですね。僕はシガー・ロスの方が好きかな。あとはレディオヘッドとかスマッシング・パンプキンズとか。モグワイは……暗いから苦手です。自分のこと棚に上げて言いますが。ゴッドスピードは知らなかったです。今度聴いてみます。


ーー歌はいつもどこで録っているのですか?


篠塚:家で普通に絶叫しています。なんなら窓も開いてるかも。ひどいですよね。サウンドに対する僕らのこだわりっていうのは、世間一般で言われているような「いい音」とは違うのかもしれない。機材にもメチャクチャこだわっていますが、別に高いヴィンテージものを揃えようとしているわけでもないし。基本、そこにあるものを使って、「どれだけ工夫して納得のいくサウンドを作れるか?」っていうところに挑戦したいんですよね。


ーー「なにが与えられたか?」ではなく、「与えられたものをどう使うか?」ということですね。


篠塚:そう。そういう意味では、理想はそんなに高くないはずなんですよ。


ーーであればご自身についても、「あるべき自分」を求めるのではなく、「今ある自分」でどう立ち回っていくかを考えれば、もっと生きやすくなるんじゃないかと……(笑)。


篠塚:そうなんですよねえ。わかってはいるんですけど、難しいですね。


ーーきっと篠塚さんは、ありのままの自分を受け入れるまでの、今は途中段階なのでしょうね。で、そうやって悩んだり、もがいたりしている姿に、きっと僕らは心を打たれるのだと思います。もし篠塚さんが、自分を受け入れることが出来たときには、また違う景色が開けるような気がします。


篠塚:そうかもしれないですね。バンドにせよ自分の人生にせよ、あくまでも今この瞬間は途中経過なんじゃないかと。またどこかでお会いしてお話しできるときに……あるいは音楽を辞めるときに、「俺が音楽をやってた理由って、こういうことだったんですね」って報告できたらいいですね。


ーーいやいや、そんなこと言わずに末長く続けてください。


篠塚:ハハハハ、がんばります。
(取材・文=黒田隆憲)