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BiSHの“本気”を支える松隈ケンタの作家性 柴那典がそのプロデュース手腕を読み解く

2016年10月04日 16:01  リアルサウンド

リアルサウンド

BiSH

 BiSHがメジャー1st アルバム『KiLLER BiSH』を完成させた。


(関連:BiSH、図抜けた快進撃の理由ーー柴那典が“楽器を持たないパンクバンド”の音楽性を紐解く


 一聴して、正直、かなり驚いた。期待はしていたけれど、新作は予想を上回るエッジの鋭さとエモーションの強度を持つ一枚だった。張り詰めるような切迫感がひしひしと宿るアルバムだった。「楽器を持たないパンクバンド」をキャッチコピーに躍進を果たしてきた彼女たち。ギターサウンドを主体にしたパンキッシュな曲調だけでなく、アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dというメンバー6人の歌声がそのキャッチコピーに説得力を持たせる楽曲が揃っていた。


 まさに、BiSHというグループにとっても、アルバムのプロデューサーをつとめた松隈ケンタにとっても、勝負作の一枚と言えるだろう。


 というわけで、この記事では、音楽プロデューサーとしての松隈ケンタの歩みと、彼の作家性が新作にどう発揮されているかを読み解いていきたい。


 ロックバンド「Buzz72+」(バズセブンツー)のギターとして2005年にメジャーデビューを果たした松隈ケンタ。その後バンドは活動休止するも、バンドのサウンドプロデューサーを務めたCHOKKAKUの影響で作曲家/プロデューサーとしての活動を始め、柴咲コウに提供した「ラバソー ~lover soul~」をきっかけに名を知られるようになる。以来、中川翔子など様々なアイドルやシンガーに楽曲を提供し、BiSのサウンドプロデュースをきっかけに本格的に頭角を現すことになるのだが、別媒体で本人にインタビューした際に聞いたことによると、自身は今も裏方というよりバンドマンとしての意識が強いようだ。そして、単に作家として楽曲を提供するだけでなく、アレンジや歌録りやミックスまで自ら手掛ける志向性を持っている。そのことが、BiSHにおける彼の独特のスタンスにつながっている。


 アルバム『KiLLER BiSH』の全13曲のクレジットを見ると、作詞は松隈ケンタ、J×S×K(マネージャー渡辺淳之介)、リンリンやアイナ・ジ・エンドなどメンバー自身が手掛けている。作曲は「IDOL is SHiT」を手掛けたナイトメアのRUKA、「My distinction」を手掛けた井口イチロウ(SCRAMBLES)を除いて全て松隈ケンタのペンによるもので、アレンジは彼が率いるクリエイターチーム「SCRAMBLES」が全曲を手掛けている。ギター、ベース、ドラムなどのプレイヤーもほぼ全員がSCRAMBLES所属だ。つまり、BiSHの楽曲は松隈ケンタを筆頭にメンバー、マネージャー、プレイヤーが一つのチームとなってクリエイティブに臨む体制によって作られていると言える。この一体感がグループの尖った個性に結びついている。


 そしてもう一つ、彼本人に話を聞いたことによると、制作の際には歌のディレクションとレコーディングにかなり力を入れていて、それが自らの楽曲の個性に結びついている自覚があるという。アイドルソングの作曲家の中にはあらかじめ歌割りを決めて作るクリエイターも多いが、彼の場合はメンバー全員に楽曲のイメージを伝え、全員のヴォーカルをレコーディングした上で、その後にそれぞれのパートに最も映える声をセレクトしてミックスしているらしい。


 つまり、松隈ケンタの作家性は曲調だけでなく「声の演出」にも強く表れる。そう考えると、もともとメンバーの歌唱力に定評のあったBiSHだが、新メンバーとして8月に加入したアユニ・Dも含め、声の表現力に磨きをかけたことがアルバム『KiLLER BiSH』の完成度につながっていると言える。


 収録曲にもそれが表れている。リード曲「オーケストラ」では、ハスキーでパワフルな声のアイナ・ジ・エンドと伸びやかな声のセントチヒロ・チッチがサビのメロディをわけあい、疾走感と独特のトゲをもたらしている。


 タイトルの通りレッド・ツェッペリンの名曲をモチーフにした「Stairway to me」もそう。アコースティック・ギターのイントロから後半のギターソロまで6分を超える壮大な展開を見せるドラマティックな楽曲は、アルバムの聴きところの一つだ。


  また、新メンバーのアユニ・Dの歌声はどことなく無垢な少年っぽい響きがあり、「本当本気」の全力疾走なメロディック・パンクの曲調などではそれが効いている。


 そして、個人的にアルバムのフェイバリットは、最もダークなナンバーでもある「Am I FRENZY??」。タムを回し続けるパワフルなドラミングとリンリン作詞の狂気性を持った歌詞が印象的なこの曲では、サビの「あ゛ぁぁぁぁ」というシャウトが耳に刺さる。「IDOL is SHiT」でのリンリンのハイトーンな絶叫も、アイナ・ジ・エンド作詞の「Throw away」の「このままじゃ、気が狂いそう!」という一節もそう。声が尖っている。


  『KiLLER BiSH』は、パンクロックの曲調を通して、ある種の「痛み」と、それを突き抜けていくような痛快さをありありと刻み込んだ一枚となっている。おそらくこれを機に、アイドルシーンの外側も含め、グループの“本気”がより広く伝わっていくことになるのではないだろうか。


(柴 那典)