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夏ドラマ、各局“奇策”も視聴率アップ繋がらず ネットユーザー向け戦略の是非考える

2016年10月04日 11:11  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド映画部

 10月2日放送の『徳山大五郎を誰が殺したか?』(テレビ東京系)を最後に夏ドラマが終了。在宅率の低い季節やリオ五輪中継の影響もあって、平均2ケタ視聴率を超えたのが、『家売るオンナ』(日本テレビ系)、『仰げば尊し』(TBS系)、『刑事7人』(テレビ朝日系)の3本のみという苦境に陥った。


参考:SMAP、ドラマ界における功績 “最後のデビュー記念日”に5人の軌跡を振り返る


 昨年夏あたりの段階から「2016年の夏はかつてないほど厳しい」と言われていただけあって、各局はあれこれと試行錯誤。さまざまな対策が施され、なかにはチャレンジングな“奇策”も見られた。


『好きな人がいること』(フジテレビ系)
・近年の胸キュン映画&ドラマに出演していた俳優を三兄弟とヒロインにした


『せいせいするほど、愛してる』(TBS系)
・物語に関係のないエアギターと一人カラオケでライブ感と笑いを生んだ


『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』(フジテレビ系)
・猟奇的犯罪者によるグロテスクな死体の描写で衝撃を与えた


『家売るオンナ』(日本テレビ系)
・変人ヒロインの描写を極端にしつつ、効果音を多用した


『はじめまして、愛しています』(テレビ朝日系)
・子どもたちが夏休みの期間に特別養子縁組という繊細なテーマを選んだ


『神の舌を持つ男』(TBS系)
・作品を堤幸彦監督の世界観に染め、シュールな小ネタを詰め込んだ


 奇策の共通点は、「ネットメディアの記事やユーザーのクチコミなど、オンラインでの反応を狙っていた」こと。「つい記事にしたくなる」「思わずツイートしたくなる」ネタを提供することでメディアとユーザーを食いつかせ、視聴率アップにつなげようというものだった。


 しかし、視聴率や満足度などの指標で成果が見られたのは、『家売るオンナ』のみ。『好きな人がいること』や『せいせいするほど、愛してる』は、関連ツイートこそ多かったものの、視聴率や満足度などの指標では苦戦を強いられ、その他の作品はあまり話題を集めることなく終了した。


 また、今夏最大の成功作『家売るオンナ』も、30年余りの歴史を誇る放送枠『水曜ドラマ』そのものの人気が大きく、歴代の作品と比べて特別良かったというわけではない。他ドラマとの比較上良く見えるだけで、「奇策が効果的だったか?」という観点では疑問が残る。


 問題はドラマの作り手たちが、ネットメディアとユーザーを意識しすぎていたことだ。今夏のドラマは、ネット記事の見出しやユーザーのツイートになりそうな小ネタやクセのあるシーンを入れすぎて、ドラマ性や視聴者の共感を削いでしまうシーンが多かった。


 そうした奇策を喜ぶライトな視聴者層もいるが、一般的なドラマ視聴者は必ずしもそうではない。その証拠にドラマの内容で評判が良かったのは、学園ドラマの『仰げば尊し』(TBS系)、ビジネスドラマの『HOPE~期待ゼロの新入社員~』(フジテレビ系)、本格ミステリーの『そして、誰もいなくなった』(日本テレビ系)という各ジャンルのスタンダードな作品だった。いずれの作品も奇策に走ることはなく、「人間ドラマをストレートかつ丁寧につむいでいこう」というスタンスで制作され、それが視聴者の心をつかんだのではないか。


 思えば、ロンドン五輪が開催された4年前も、無国籍児を扱った『息もできない夏』(フジテレビ系)、18年ぶりに復活した『GTO』(フジテレビ系)、同一作家のオムニバス『東野圭吾ミステリーズ』(フジテレビ系)、シナリオ大賞をドラマ化した『黒の女教師』(TBS系)、幽霊ママ警察官と息子が事件を解決する『ゴーストママ捜査線』(日本テレビ系)、標高2514mの診療所を描いた『サマーレスキュー~天空の診療所~』(TBS系)などのさまざまな奇策が見られた。果たして地元開催となる4年後の2020年も、奇策の歴史は繰り返されるのだろうか。


 もう1つどうしてもふれておきたいのは、各局が“放送時間の短縮”という消極的な姿勢を見せたこと。『時をかける少女』(日本テレビ系)の放送がわずか5話に留まり、リオ五輪開幕直後の8月6日で終了したことを筆頭に、『女たちの特捜最前線』(テレビ朝日系)が6話、『ヤッさん~築地発!おいしい事件簿~』(テレビ東京系)が6話、『ノンママ白書』(フジテレビ系)が7話、『グ・ラ・メ~総理の料理番~』が8話、『仰げば尊し』が8話で終了してしまった。


 その他にも5作が9話で終了するなど、全体の約半数が2か月か、それ以下で早々に“店じまい”してしまう姿勢は、「各局が負け戦から撤退した」と思われかねない。ドラマの放送回数が減って増えるのは、既存バラエティー番組の特番。通常1時間の放送を2~3時間に拡大するのだが、テレビ局にとっては「毎期作品が変わるドラマとは異なり、固定ファンがいるため視聴率が取りやすい」という側面がある。


 確かに視聴率の面では無難な選択に違いないのだが、連ドラの放送回数が減ると、「どの局も特番バラエティー番組ばかり放送している」という期間が1か月を超え、視聴者はさすがに飽きてしまい、「テレビは全部同じでつまらない」というイメージが加速化しかねない。各局には目先の視聴率ばかり追うのではなく、広い視野を持って「多くの人々に3か月間しっかり見てもらえる連ドラに挑戦して欲しい」と切に願っている。


 最後に。今夏で光っていたのは、奇策を軸にしつつも、オーソドックスな人間ドラマを絡めて質の高い映像を提供していた4本の深夜ドラマ。『闇金ウシジマくん Season3』(TBS系)、『ラブラブエイリアン』(フジテレビ系)、『侠飯~おとこめし~』(テレビ東京系)、『こえ恋』(テレビ東京系)は、思い切った設定とセリフの妙で、ゴールデン・プライム帯(19~23時)の作品と同等以上の見応えがあった。まもなくはじまる秋ドラマでは、このような各局の積極性が見られることを期待したい。(木村隆志)