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東出昌大、池松壮亮、菅田将暉……繊細な演技が浮き彫りにする『デスノート』の本質

2016年10月03日 17:41  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)大場つぐみ・小畑健/集英社 (c)2016「DEATH NOTE」HOD PARTNERS

 2006年、TVアニメ版が放送され、藤原竜也と松山ケンイチ主演による実写映画版が公開されるなど、大ヒットコミック「DEATH NOTE」がメディアミックスの展開による映像化作品によって、さらなるブームを起こしてから、今年でちょうど10年になる。最近になって「DEATH NOTE」が、映像分野で再び盛り上がりを見せている。


菅田将暉、池松壮亮、東出昌大、それぞれの物語を描く 『デスノート』最新作の前日譚がHuluドラマに


 窪田正孝、山崎賢人が主演する、2015年のTVドラマ版をはじめとして、映画版の続編となる『デスノート Light up the NEW world』が今年10月の公開を控え、さらにNetflixが制作するアメリカ実写版では、ハリウッドでいま最も注目されている若手監督、アダム・ウィンガードがメガホンをとる。


 『デスノート Light up the NEW world』は、前作から10年後の世界を舞台に、6冊のデスノートをめぐって新しい戦いが繰り広げられる。映画ファンにも評価が高かった、人気コミックの映画化作品『アイアムアヒーロー』の佐藤信介が監督を務め、主演に東出昌大、池松壮亮、菅田将暉ら若手実力派俳優3人を配役するなど、かなり期待できそうな要素が揃っている作品だ。


 映画公開に先駆け、本編の前日譚となるスピンオフドラマ『デスノート NEW GENERATION』3部作が、動画配信サービス「Hulu」によって制作、公開された。佐藤信介監督をはじめ映画スタッフが再集結して製作された本作は、映画の主要キャラクター3人、それぞれが主人公となって物語が進み、映画本編の内容を期待させるとともに、作品の持つ本来のテーマと時代性とのつながりが強調されていて、見応えのあるものになっていた。今回は、その内容から分かってくる点を中心に、「DEATH NOTE」の本質について考察してみたい。


 東出昌大が演じる、デスノート対策本部特別チーム捜査官「三島創(みしま つくる)」。「三島篇・新生」では、彼が警視庁の「キラ対策室」に配属される場面から始まる。デスノートについて細かでマニアックな情報まで調べ上げ、ユニークな視点から犯罪を解決する優秀さを見せる三島は、キラ事件収束後、前作で対策本部の指揮を執っていた夜神総一郎の意向を引き継いで、キラ事件当時、お調子者だった松田が取り仕切る、今では窓際部署となってしまった対策室の中心的存在となっていく。そして、新たなデスノートによる連続殺人「新生キラ事件」が発生したことにより、本格的な「デスノート対策本部」がつくられることになるエピソードが描かれる。ちなみに、デスノート犯罪の特性から、対策チームのメンバーは慣例により偽名を名乗らなければならない。三島創という名前も偽名である。


 池松壮亮が演じる、名探偵L(エル)の遺伝子を受け継ぐ後継者「竜崎」。「竜崎篇・遺志」では、キラ事件後に名探偵Lの名を襲名した男が、国際的な難事件を解決する様子が描かれる。用意されたたっぷりのお菓子を見て、「ガキじゃあるまいし」と語る彼は、激務からか髪には白髪が混じり、全身を黒いファッションで包んでいる。さらに、世間ずれしたリアリストに描かれるパーソナリティは、前作のイメージとは真逆であり、彼が意識的に前作のLから脱却しようとする意志を示している。だが、プライヴェートでは喫茶店でショートケーキを注文し、「ひょっとこ」のお面もかぶってみせる、お茶目な一面を描いてもいる。


 前作でLを演じた松山ケンイチの、不自然な声の抑揚と、おかしな間で言葉を切るエキセントリックな話し方を駆使した演技は神がかっていて、鮮明に覚えている観客も多いだろう。このキャラクターをふまえ、新たなLを映画本編で池松壮亮がどういうプランで演じるのかは、とくに見ものである。


 菅田将暉が演じる、デスノートを手にした天才サイバーテロリスト「紫苑優輝(しえん ゆうき)」の物語が描かれる「紫苑篇・狂信」は、新たにデスノートを手にした「キラ信者」が、ノートの力を使って最初の裁きを下そうとする姿を描く、三部作のハイライトだ。彼は、前作で戸田恵梨香が演じていた弥海砂(あまね みさ)同様、自分の家族を殺害した犯罪者に、デスノートの裁きを下してくれたキラを崇拝している。新生キラとして覚醒した紫苑のターゲットになるのは、一家強盗殺人事件で過去に幼い少女を手にかけた男だ。しかし、この人物は、重い罪の意識に悩みながら、更生し社会復帰ようと努力してもいた。


 紫苑(しえん)という名前から連想させるのは、シオン(紫苑)という種類の花の名前である。日本での花言葉は「追憶」、「君のことを忘れない」であるという。さらにヘブライ語でシオン(Sion,Zion)は、「神の都」を意味し、そこに住む民は「神に選ばれた民」であるとされる。キラの遺志を受け継ぐ新たなキラとして「新世界の神」を目指す人間の名前としてふさわしいといえるだろう。


 この3人の俳優によって繊細に演じられる3作によって、前作で描かれた現代の問題が再び浮上してくる。現実社会には法律では裁けない悪があること、そして法律はときに加害者の味方にもなり得ること。そのような理不尽を個人で是正する力を持っているのが「デスノート」である。だが同時に、裁判を経ずして個人が生殺与奪の権利を握ることへの警鐘を鳴らすのも、本作の道義的役割である。前作『デスノート the Last name』は、金子修介監督らしく、社会のあり方について、法律の復権を強調するかたちで決着をつけていた。だが原作は、その一方で「キラに救われた者たち」の存在を示すシーンを付け加えてもいる。そのように、完全な正義も悪もない、現実世界の矛盾を突き付けてくるのが「DEATH NOTE」という作品の本質であろう。


 今年日本で起きた障害者施設での未曽有の殺傷事件が象徴するように、現在の日本社会は10年前に比べ、より精神的に荒んできているように思える。特定の人種、特定の病気を持った人たちへの差別的な中傷が目に見えて深刻化し、メディアやネットで「悪を裁く」という大義名分のもと、集団的なフラストレーションを個人にぶつけて楽しむような仕組みが確立してしまった。また海外でも、違法な麻薬取引で稼ぐ国民を裁判を行わず殺害し、麻薬中毒者を「喜んで虐殺する」と大統領が公言するような事態が起こっている。このような、まさに「DEATH NOTE」の世界観に近づきつつある社会状況のなかで、公開される『デスノート Light up the NEW world』は、どのような結論にたどり着くのだろうか。それによって、作品の価値も大きく左右されるだろう。(小野寺系)