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H ZETTRIOはピアノ・トリオの枠を越える 東京公演で見せた“エンタメ集団”としての可能性

2016年10月03日 16:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『PIANO CRAZE Next step!』東京公演の様子。

 H ZETTRIOが10月2日、渋谷QLUB QUATTROにて行なった全国ツアー『PIANO CRAZE Next step!』の初日である東京公演は、彼らのエンターテインメント性を改めて感じさせられるライブだった。


 開演時刻になり、ステージに登場した3人は、H ZETT M(Key./青鼻)がリードするアップテンポの「Next Step」からライブをスタート。H ZETT NIRE(Ba./赤鼻)のソロから始まった「晴天-Hale Sola-」では、中盤で複雑なインプロビゼーションを展開し、3人が苦笑いする一幕も。リオデジャネイロオリンピックの閉会式でも使用された3曲目「Get Happy」では、サビでH ZETT KOU(Dr./銀鼻)が腕を左右に振って観客を煽ったのだが、常時スタンディングでドラムを叩くようになったので、その振りが届く射程距離も長くなったという意外な利点も見つかった。


 早速盛り上がる楽曲を3連続で披露し、会場のボルテージを高めた3人は、MCを挟んで4曲目「Passion」へ。ムーディな前半から徐々にテンポアップする中盤と、緩急を付けたセッションを繰り広げる。5曲目「MESHI - episode 2 -」では、H ZETT NIREが「これからもMESHI食ってたくさんレコーディングするぞ! MESHIは有限である、しかし我々の可能性は無限である!」と叫び、スティックを右手に2本と左手に1本の計3本持ちで演奏していたH ZETT KOUは、右手を箸のように動かして観客の笑いを誘う。演奏を通してファンを笑顔にさせる彼らの高いエンターテインメント性は、こんなところにも表れている。


 同じくリオ五輪閉会式で使用された「Neo Japanesque」で、H ZETT Mが電子パッドを叩きながら鍵盤を弾くという離れ業を見せつけたかと思えば、続く「ダイナミックにとろけて」では、ショルダーキーボードを抱えてギターソロばりの熱い高速リフて観客を熱狂させるなど、彼のポテンシャルを存分に発揮した。そこから切ないバラード調の「Memory」を演奏すると、H ZETT Mが「時代は“美人すぎる~”といいますが、我々も2曲コラボさせていただいている尺八奏者のBamboo Flute Orchestraさんが来てくれました」と紹介し、彼女を交えてジャクソン5の「ABC」、スキャットマン・ジョンの「Scatman」を演奏。尺八とピアノ・トリオがアメリカン・ポップスをセッションするという稀有な体験を味わうことができたのは、H ZETT NIREの「『Scatman』なんて演奏することがあると思ってなかった」という言葉にも明らかだろう。


 ライブ後半は、恒例の「Trio!」という掛け声から「Trio,Trio,Trio!!!」を、続けて「Beautiful Flight」と人気曲を連発。このあたりの定番曲もどんどん細部の演奏が変化し、見るたびに違った楽しみを味わうことができるのも彼らの魅力の一つだ。以前のインタビューでH ZETT KOUからレコーディングについて「パスとシュートの精度が上がってきた」という発言もあったが、ライブでもそのコンタクトの精度がここにきてさらに研ぎ澄まされてきているように思う。


 そして本編最後は「PIANO CRAZE」、「Wonderful Flight」と最新アルバムの表題曲とリード曲を披露。前者はアイコンタクトをしながら軽妙なセッションを、後者はグランドピアノの澄んだメロディに合わせ、過剰に主張しすぎない大人な一面をのぞかせ、3人は一度ステージを後にした。


 アンコールでは、H ZETT KOUから来年の全国ツアー開催を匂わせる発言があり、観客から大きな歓声が起こると、1曲目「炎のランニング」では、遊びの多い展開から一度テンポを限界まで落とし、再び全力疾走する、というシャトルラン的なセッションを繰り広げたり、H ZETT MからのキラーパスにH ZETT NIREが応えるという即興演奏も。ラストの「Dancing in the mood」では、サビが複数あるのかと思わせるようなキャッチーなメロディの応酬が繰り広げられ、最後の曲だというのが惜しくなるような熱狂のなか、ライブは終了した。


 すてに東京での追加公演も決定している同ツアー。最終公演となる12月28日の恵比寿LIQUIDROOM公演までに、新作『PIANO CRAZE』の楽曲や彼らのパフォーマンスはどこまで進化するのだろうか。(中村拓海)