待機児童問題が深刻化している。その要因の一つが保育士不足だ。低賃金で長時間労働という過酷な労働環境のために、資格を持っているにも関わらず、保育士として働くことを諦める人も多い。
保育園勤務3年目の三井佐知子さん(仮名)は「子どもの笑顔だけでは乗り切れなくなっています」と語る。今、保育の現場は一体どうなっているのか。現役保育士に聞いた。(取材・文:千葉こころ)
持ち帰り残業に休日の研修、激務とストレスで7キロ痩せる
子どもの人数で保育士の数が決まる保育の現場。佐知子さんの勤める保育園では、パートを含む20人ほどの職員がシフト制で子どもをみている。でもこれは最低限の人数だという。
「ケガや事故を未然に防ぐため、片時も目を離せません。その中で、基本的な生活習慣を身につけさせたり、子どもの発育段階に合わせたカリキュラムを組んでしつけや学びを促したりと、年相応の力を養う指導もしています」
元気に走り回っているだけに見える外遊びの時間さえ、「季節を肌で感じる」「外遊びのルールを身につける」などの狙いがある。そして、それらを「指導計画」として事前に作成するのも保育士の仕事のひとつ。また、毎月のクラス通信、園での様子を保護者と共有するための連絡帳、子ども一人ひとりの発達記録など、デスクワークも多い。
「うちの園はすべて手書きがルールなので、書類作成だけでもかなり時間がかかります。でも、職員の数がギリギリで現場から離れられないため、自宅に持ち帰らないと書き終わらないんです。お遊戯会の衣装直しや運動会の小道具づくりなど、イベントの準備もほとんど持ち帰りですよ」
表向きは残業禁止となっているが、「持ち帰りが当然のムードがある」のだそうで、帰宅後も仕事に追われ、ほとんど眠れないまま出勤時間を迎えることも多いという。
ほかにも、休日に研修がおこなわれたり、時間外に保護者から相談を持ち掛けられたりと、保育以外の業務が山積み。
「それでも頑張れるのは、子どもたちの成長が嬉しいから。でも、保護者からの理不尽なクレームや、先生同士の陰湿な嫌がらせなどメンタル面の負担もあり、激務とストレスから入社1年目に7キロも痩せました」
3年目になっても基本給は上昇なし、「月収20万円で勝ち組」という感覚
佐知子さんは「どんなに激務でも、見合う対価があれば納得できるのですが……」と語るが、給与面もかなり厳しい。
「1年目の基本給は16万円でした。そこから税金や組合費、給食代などが引かれるので、手元に残るのは12万円ほど。3年目になって手当が若干つきましたが、基本給は上がっていません」
持ち帰り仕事は当然残業代がつかず、かわいい子どもたちのために寝る間を惜しんで働いても給料に反映されることはない。
「安いからと手を抜けば、困るのは子どもたち。母性を利用されているはと思いつつ、きちんとやってしまうんですよね。でもこれ、この業界では一般的なんです。残業代がきちんとついたり、20万円近い基本給をもらっている子は勝ち組ですよ」
政府は保育士の給与を引き上げる方針を明らかにしているが……
「子どものため」という大義名分のもと、激務薄給の保育の現場。奨学金の返済や携帯代などを支払ったら自由になるお金はほとんどなく、ひとり暮らしはおろか、生活すらままならない。そのため、佐知子さんはしかたなくダブルワークをしている。
「休日や早番の日を利用して知り合いの居酒屋でバイトしています。時給で換算すると、こっちのほうがはるかにいい給料をもらってますよ(笑)」
しかし、昼も夜も働くとなると疲れが抜けず、保育に集中できなることもあるという。
「子どもたちがかわいくて辞め時を逃してきましたが、何かあってからでは遅いですし、自分の体のためにも今年度で退職しようかと思っています」
志を持って現場に立っても、過酷な状況に潰されて離職を余儀なくされる先生たち。政府は来年度から保育士の給与を月額2%(約6000円)引き上げる方針を明らかにしているが、焼け石に水だろう。子どもたちの健やかな成長のためにも、労働条件の早急な改善が望まれている。
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