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中田ヤスタカ×米津玄師『NANIMONO』対談「今は自分が“普通”だと思ってることをやりたい」

2016年10月01日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

中田ヤスタカ×米津玄師

 中田ヤスタカが、10月15日公開の映画『何者』の主題歌「NANIMONO(feat. 米津玄師)」を含む2枚組アルバム『NANIMONO EP/何者(オリジナル・サウンドトラック)』をリリースする。


 主題歌では米津玄師が作詞とボーカルを担当し、両者による初のコラボも実現。中田は同映画の劇中音楽も手掛け、アルバムには全曲書き下ろしのサウンドトラックも収録される。中田ヤスタカ、米津玄師の両者にとって「新たな挑戦」となった今回の主題歌と劇中音楽。その制作の裏側を、両者に語り合ってもらった。(柴 那典)


・「完成したものは一言も直すことがなかった」(中田ヤスタカ)


――映画『何者』の劇中音楽では、これまでの中田ヤスタカさんのイメージを覆すようなサウンドが展開されています。どんな意識で制作に取り組んだのでしょうか?


中田:ありがちなものにはしたくないというのはありましたね。僕が今までやってきたことって、架空の話というか、現実離れしたところで鳴っている音楽というイメージがあったと思うんです。でも、今回は題材や中身も含めて本当にリアルな作品で。僕としても先入観や予想と違うところでチャレンジした感じですね。


――主題歌は米津玄師さんをフィーチャリングしていますが、これはどんなきっかけで?


中田:プロデューサーの川村元気さんに話をいただいたんです。「きっと何か面白い化学反応が起こるんじゃないか」と。


米津:今までは曲も歌詞も全部自分で書いてきたんで、最初は不安はありました。でも、「なんとかなるんじゃないかな」っていう自信も同時にありましたね。


――米津さんはボーカルだけでなく作詞も担当しています。これは?


中田:最初は僕が歌詞を書いたり、共作するのもどうかという話もあったんです。でも、そこは僕の判断で彼に任せたほうがいいと思った。SNSのリアルについてはきっと僕よりも得意だろうし。僕が心配していたのは歌詞が音楽的かどうか、ちゃんと音楽としての言葉になっているかという部分なんですけれど、そこも安心して任せられましたね。リズムも含めてチョイスがすごく良くて、完成したものは一言も直すことがなかった。


米津:ちゃんと伝えたいこと、表現したいことがあった上で、それがリズムやメロディとちゃんと調和するかどうかというのは、僕にとっても、とても重要視してるところです。


・「『自分のことを書いてるな』という感じがした」(米津玄師)


――米津さんは、今回の『何者』という映画のストーリーやキャラクターにはどういう印象を抱きましたか?


米津:まず最初に観て、すごくリアルだなって思いました。僕が一番共感したのが主人公の拓人だったんです。斜に構えてる感じとか、一歩引いていろんなものを観察してる感じとか、そういう部分は自分の中にもすごくある。この人の考えてることならすぐ歌詞にできるなっていうのを最初に思いました。しかも、その感覚がツイッターの世界と上手くリンクしている。僕も10代の頃からずっとツイッターをやってたし、映画を観て『これは自分のことを書いてるな』という感じがしたんです。


――中田さんはどうでしょう?


中田:僕はSNSのことは正直よくわからないんです。ただ、映画のストーリー自体は就活を題材にしているんですけれど、実は、描かれているのは就活以外の場面にも当てはまることだと思うんですよね。つまり、自分に期待を持っている人が現実と向かい合う時に起こることだと思うんです。そういうところは観ていてすごく面白かったです。


――米津さんは歌詞を書くにあたって「何者」というテーマをどう描こうと思いましたか?


米津:この曲の歌詞を最初に書くにあたって、「踊り場」の情景が最初を思い浮かべたんです。踊り場って、階段を登る途中にある小休止の場所なんですよね。学生が大人への階段を登る途中で就活という場所にたどり着く。そのまま階段を登っていける人もいれば、急にまっ平らな場所で自由になって、何をすればいいのかわからなくなっちゃう人もいる。唯一“何者でもない”瞬間であるからこそ、みんな迷ってしまう。そういうところからイメージを膨らませていきました。


――主題歌はどんなタイミングで完成したんでしょうか?


中田:できたのは最後ですね。どういうものかを先に説明した方が安心してもらえるというのはわかるんで、制作の人たちはもう少し早めに聴きたかったと思うんですけど(笑)。でも、人に説明できるような音楽なんて、結局は誰でも作れるわけじゃないですか。僕は普段からデモも作らないし、いきなり完パケを提出するんですよ。


米津:僕も最後の最後まで途中段階のものしか聴かされてなくて。「大丈夫なのかな?」って不安は相当ありました。でも、完成して届いたのを聴いたら「あれがこうなるの?」ってびっくりした。「不安に思ってすみませんでした」って感じです(笑)。


中田:たぶん、僕が思ってる“普通”をやるとこうなるんですよね。


――自分が思ってる“普通”というと?


中田:僕は世の中の音楽をあまり聴いてないんです。チャートに入ってる音楽もチェックしていない。そういうものを研究しながらやると、音楽を作るのがイヤになりそうな気がする。まずは自分が聴きたい音楽を作るというのが前提だし、過去の“普通”は参考にならない。それよりも、自分が思う“普通”が、この先の世の中の“普通”になっていく方がいいという考え方ですね。エレクトロニックなサウンドもそうで、最初は拒絶する人もいたけれど、今はそういう人はあんまりいない。あらゆる音楽ジャンルがそうだと思うんです。誰かが時間をかけてそれを“普通”にしてきた。そういう意味でも、今は、自分が“普通”だと思ってることをやりたいですね。そのほうが自分も次に行けるし、やっていて楽しいので。


(取材・文=柴 那典)