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謎の覆面グランジバンドTHE BREAKAWAYSが歌う“NEO TOKYO”とは? その世界観を読み解く

2016年09月30日 15:01  リアルサウンド

リアルサウンド

THE BREAKAWAYS

 現在、巷で話題を集めている謎の覆面バンド、THE BREAKAWAYSが初の全国流通盤となるミニアルバム『N.T.A.』をリリースする。彼らは今年7月21日、渋谷TRUMP ROOMにて開催されたイベント『NEO TOKYO Night vol.0 Supported by AWA』に、突如現れた謎のアート集団。メンバーのプロフィールや素顔などは未だに明らかにされていないが、音楽とアート、そしてスローガンを結びつけたコンセプチュアルな活動によって、他の新人バンドとは一線を画する存在となっている。


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 例えば音楽。全曲の作詞作曲、アレンジを手がけるのは、ダイナソー・パイル・アップの司令塔マット・ビッグランド(ヴォーカル、ギター)である。ダイナソー・パイル・アップは、2007年にイギリスで結成された3ピースバンド。90年代のUSグランジ~オルタナティヴ・ロックをベースに、ポップなメロディとハーモニーを乗せたそのサウンドは、「新世代ロックバンド」としてNME誌をはじめ、本国のメディアでも熱い注目を集めている。2014年にはSUMMER SONIC 2014で初来日を果たし、日本でも人気だ。もちろん、THE BREAKAWAYSの『N.T.A.』でも、全面的に楽曲提供をおこなっている。

 また、8月に解禁した「GIRL ELECTRIC」のMVでは、メンバーをキャラクタライズしたと思しきアニメーションのキャラクターが登場している。ディレクターには、チェイス・アンド・ステイタスやギグスのミュージックビデオほか、ショートフィルム『LOST YOUTH』などを制作したイギリス在住の映像作家、木村太一。アニメーション・ディレクターには、きゃりーぱみゅぱみゅの「もったいないとらんど」などでも知られる新進気鋭のクリエイター、らっパルを起用。アニメーション(あるいはカトゥーン)とコラボした覆面バンドといえば、松本零士とタッグを組んだダフト・パンクや、「タンク・ガール」の作者ジェイミー・ヒューレットも所属しているゴリラズなどを彷彿させるが、THE BREAKAWAYSのアーティスティックな活動はまさに、そうした系譜に位置付けられるものといえるだろう。ちなみに、本作『N.T.A.』のアルバムジャケットが、ダフト・パンクの1997年のファーストアルバム『Homework』のそれに非常によく似ていると思うのは、筆者だけだろうか.....?

 閑話休題。さらにTHE BREAKAWAYSは、「NEO TOKYO Alternative」というキャッチコピーを掲げている(本作のタイトル『N.T.A』も、その略だ)。彼らによれば「ネオ東京」とは、2020年(近未来)に向けて創っていく新たな世界のこと。「ネオ東京」「2020年」と聞いて、大友克洋の漫画『AKIRA』を思い浮かべる人は多いだろう。あるいは、「近未来のTOKYO」のイメージとして、リドリー・スコット監督の映画『ブレードランナー』の“雨の街”や、『新世紀エヴァンゲリオン』の舞台である“第3新東京市”をイメージする人もいるはずだ。いずれにしても、「輝かしい未来」とは程遠い印象だが、果たしてTHE BREAKAWAYSの描く「NEO TOKYO Alternative」は、輝かしい世界なのか。それとも......?


 では、本作『N.T.A.』を聴いてみよう。リード曲「GIRL ELECTRIC」は、フィルターによってくぐもったイントロが、突如バーストするギミックなど、ブラーのキラーチューン「Song 2」を彷彿させる。ドラムス、ベース、そしてギターというシンプルなバンド編成や、ディストーションを効かせたヘヴィなギターリフなど、まさに90年代のUSグランジ~オルタナティヴ・ロック直系のサウンドである。続く「WHERE I BELONG」も、重厚なエレキギターが唸りを上げる。“Because The Way I Feel Tonight”と歌う、ちょっとビートリーな(ビートルズっぽい)節回しからは、ティーンエイジ・ファンクラブやポウジーズ、レッドクロスなど所謂パワーポップ勢の影響も感じられる。「TEENAGE ICON」の“Yeah Yeah”コーラスもパワーポップ全開だ。


 最初から最後まで、ほとんど同じコード進行、同じギターリフを繰り返しつつ、静と動のダイナミズムで押し切る「A GOOD TIME」は、ニルヴァーナの「Smell Like Teen Spirit」を思い起こさずにはいられない。「MY MONEY」のちょっとコミカルなアレンジ、「CRUSH ON YOU」のヒネリの効いたコード進行など、シンプルなバンドサウンドながらアレンジもよく練られている。


 さらにボーナストラックとして、「GIRL ELECTRIC」と「A GOOD TIME」のリミックスを収録。「GIRL ELECTRIC」を料理したのは、FPM(ファンタスティック・プラスチック・マシーン)こと田中知之。プライマル・スクリームの「Screamadelica」を思わせるホーン・セクションが、ダビーかつサイケデリックな雰囲気を醸し出している。そして、「A GOOD TIME」のリミックスはTOKYO BLACK STARによるもの。彼らはニューヨークと東京を拠点に活動をしているフレンチDJアレックスと、エンジニア/サウンドプロデューサー熊野功雄によるユニットで、こちらもボーカルの深いディレイがドラッギーでスペイシーなダブ・サウンドである。


 THE BREAKAWAYSの掲げる「NEO TOKYO Alternative」というスローガンを聴いてイメージしたのは、どちらかといえばこの2つのリミックス曲のようなサウンドであり、アルバム本編のハードかつヘヴィなサウンドは、やはり『AKIRA』や『ブレードランナー』で描かれていたような、荒廃した「トーキョー」を喚起させる。2020年まであと4年。THE BREAKAWAYSの「真の狙い」はどこにあるのか。音楽、アート、そしてメッセージ。そのどれもが今後も見逃せない。(黒田隆憲)