10月16日に決勝レースが行われるFIA世界耐久選手権(WEC)第7戦富士6時間耐久レース。自動車メーカーの威信をかけた耐久レース世界選手権の日本ラウンドを前に、WECの基本知識や今季の見どころをおさらいしておこう。今回はトヨタTS050ハイブリッドを紹介。
2012年からWECに参戦してきたトヨタにとって、今年はマシンを大変革させて臨んだシーズンだ。昨年のTS040からTS050に名称が改められた新型マシンには、参戦初年度から使用してきたV8自然吸気エンジンを捨て、新たに2.4リッターのV型6気筒直噴ツインターボエンジンを搭載してきたのだ。
あわせてハイブリッドシステムのエネルギー放出量も最大の8MJに増量、貯蔵装置もスーパーキャパシタからハイパワー型リチウムイオン電池方式に切り替えてきた。そのほか空力もブラッシュアップ。外観からは変化が少なく映るが、内部は劇的に進化を遂げている。
これらのアップデートはすべて、30年あまりに渡って挑戦してきたル・マン24時間制覇という未だ果たせぬ夢を叶えるための施策だった。
モータースポーツユニット開発を指揮する村田久武氏も「自分たちはル・マンのコースレイアウトに集中し、それに特化したクルマをずっと開発してきました」と語る。
「去年のレースで惨敗し、すべてを一新する以外に勝つ道がなかったので、去年のル・マンで最終的にすべてのコンポーネントを一新することを決断し、そこから超短期の開発を進めてきました」
ドライバーラインアップでは元F1ドライバーの小林可夢偉が新たに加入。ステファン・サラザン/マイク・コンウェイとともに6号車をドライブすることとなった。5号車は昨年と同様、中嶋一貴/アンソニー・デビッドソン/セバスチャン・ブエミという布陣だ。
TS050ハイブリッドはわずか1年足らずの開発期間だったこともあり、開幕戦シルバーストンの予選では制御系の問題が発生。満足なアタックを行うことができなかった。しかし、決勝ではファステストラップを記録するなどポテンシャルをみせつけ、5号車TS050ハイブリッドが3位表彰台(レース後、上位車両の失格で2位繰り上げ)となった。
そして迎えた6月。チームがこの1戦に特化してきたというル・マンでの戦いは、多くのモータースポーツファンの記憶に残るものとなった。
トヨタTS050ハイブリッドの2台はレース序盤から昨年覇者のポルシェと拮抗したタイムを記録。トヨタはライバルより1周長いスティントを武器に周回を重ね、午後9時を過ぎた頃には、名実ともに総合首位に躍り出た。
ただ、追いかけるポルシェも負けてはおらず、両者は秒差の争いを展開。この戦いは夜が明けても続いた。そして迎えた最終スティント、約30秒のマージンを持って5号車TS050ハイブリッドがピットイン。中嶋一貴がステアリングを握り、悲願のトップチェッカーへ向かった。
しかし、レース残り2周で5号車は突如失速。そして、チェッカーまでわずか3分21秒というタイミングで“悲劇”は起きた。メインストレート上にはストップした一貴の5号車TS050、その横を2番手につけていた2号車ポルシェが通り抜ける。
最終的に5号車TS050はふたたび動き出し、11分53秒かけてコースを1周。チェッカーを受けたものの、規定により順位がつくことはなかった。
失速の原因はターボチャージャーとインタークーラーを繋ぐ吸気ダクトまわりの不具合によるもの(トヨタからの公式発表)。これによりターボの過給圧が上がらず、パワーがなくなってしまったのだ。
劇的な幕切れを迎えたル・マンから約1カ月、ドイツ・ニュルブルクリンクで行われた第4戦で、トヨタは5位、6位と低迷したものの、第5戦メキシコ、第6戦COTA(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)では2戦連続で表彰台を獲得。新たな流れに乗って、母国ラウンドで悲劇の雪辱へ挑む。
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