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R指定は、なぜ多くのバンギャルの心を掴む? 金爆 歌広場や鬼龍院も注目する“V系らしさ”とは

2016年09月30日 13:11  リアルサウンド

リアルサウンド

R指定『八十八箇所巡礼』 (通常盤)

 今現在、ヴィジュアル系をヴィジュアル系たらしめているのはなにか?


(関連:ミオヤマザキ、感覚ピエロ、R指定……ネガティブな歌詞表現を昇華するバンドたち


 過激なメイクをしているだけではヴィジュアル系とはよべないし(くくられたくないという方もいるだろうし)、楽曲の系統も様々。


 V系バンドFly or Dieとしての顔を持つマキタスポーツ氏は自著『すべてのJ-POPはパクリである』(扶桑社)で「V系はビジネスモデル』と看過していたが、そのビジネスの顧客はヴィジュアル系ファン、つまりはバンギャルたちである。卵が先かニワトリが先か的な、ある種のトートロジーになってしまうのだけれど、その概念を借りて定義するのであれば、ヴィジュアル系とはいってしまえば「バンギャルが好きなバンドがヴィジュアル系」ということになる。


 そして今、その「バンギャル」の心をガッチリ掴んでいるヴィジュアル系バンドがいる。R指定だ。


 ゼロ年代半ばに九州にて結成され、バンド名の表記を何度か変えつつ08年に現バンド名へ。


 メンバーはマモ(Vo)、Z(G)、楓 (G)、七星(B)、宏崇(Dr)の5人編成。


 09年に上京後、徐々にシーンで頭角を表すようになり、13年に日本青年館、渋谷公会堂、15年にNHKホール、今年8月には幕張メッセイベントホールでのライブを成功させ、10年代を代表するヴィジュアル系バンドのひとつと呼べるだろう。


 楽曲のタイトルは「毒盛る「アイアムメンヘラ」「スーサイドメモリーズ」「青春はリストカット」などなど、惜しげもなく恥ずかしげもなく、病み・メンヘラ要素をブチこんだ中二病のフルコースである。もともと「闇」や「病み」はヴィジュアル系の定番であるが、このテーマでありがならかなりキャッチーなメロディーなのが面白く、冒頭の「ヴィジュアル系はビジネスモデル」の所以というか、ビジネスとして成立するくらい支持されてこそ(でもメインカルチャーにはならない)という不文律を感じるのだ。


 また、稀代のギャ男(バンギャル男)であるゴールデンボンバーの歌広場が、鬼龍院とともに「ヴィジュアル系最強ソング!」というテーマでTBSラジオ『荻上チキ・Session-22』(8月24日放送)(http://www.tbsradio.jp/66309)に出演した際に、R指定の「病ンデル彼女」をチョイスしていた。


 他はSHAZNAやMALICE MIZERといったレジェンドの楽曲の中、唯一の現代インディーズV系バンド。


 「今最もV系らしさを感じるバンド」と表現しており、「ヴィジュアル系はネガティヴさや退廃的だったりする側面があるが、それが一周回ってポジティブになるようなパワーになるのが、このジャンルの最大の魅力。いまそれを地で行ってるのがR指定」と説明した。


 R指定を支持している層は、私がライブ会場で見る限り、バンド名に反して10代、中高生が圧倒的に多いのだ。R指定のファンのバンギャル(通称「指定女子」)のトレードマークはセーラー服と黒髪のツインテール。マモ(Vo)が「黒髪のツインテールが好き」と公言していることもあり(なお、「黒髪のままの君でいて」という楽曲もある)、しめしあわせたかのようにV系ファンにしては圧倒的に黒髪率が高い。他のアーティストのライブでも散見する、何てことはないドンキホーテや通販サイトで売っているセーラー服を着ていても、同じ髪型、同じ服装の集団が数十人数百人集まると異様なもので、「これぞヴィジュアル系」という連体感、共犯者のような、良い意味での気持ち悪さを感じてしまうのだ。


 そして武道館をすっとばして幕張メッセなのは何故なのかというと、これにも少し事情がある。


 「武道館公演がバンド名や楽曲タイトルや歌詞のせいでNGになった」というニュースがV系シーンをさわがせたのは1月の豊洲PIT公演直後のこと。(http://ameblo.jp/r-shitei-mamo-55/entry-12138343496.html)


 そして幕張メッセまで「修行」と称した全国88箇所を回る全国ツアー『日本八十八箇所巡礼』を発表。近年V系バンドにおいて47都道府県をまわるのはトレンドではあるのだが、88箇所は前代未聞である。北は北海道、南は沖縄、奄美大島や宮古島まで入っている怒涛のロングツアーだ。(https://twitter.com/8hacchang8/status/768635155208507392)


 なお、『日本八十八箇所巡礼』のイメージキャラクター「はっちゃん」がTwitter上で定期的に「たまねぎ」と戦っていたのだが、まあこのたまねぎというのは、武道館の比喩なのはいうまでもない。


 ひとことでいうと、大人げない。が、この大人気なさや青さも、中高生を惹きつける要因なのだろう。(https://twitter.com/8hacchang8/status/725249339581337601)


 そして8月22日、私はR指定の『日本八十八箇所巡礼』ツアーファイナルである幕張メッセイベントホールのワンマンライブへ足を運んだのだが、 客層は、やはり若い。台風で混乱した交通事情(幕張メッセ最寄りの京葉線は悪天候ですぐ止まることで有名)もあって、これが「初遠征」と思わしき指定女子たちに乗り換え方を何度も聞かれた。会場に着く前から色とりどりのセーラー服とバンドTシャツをまとった指定女子(or男子)だらけ。暴風雨の中ピンクや緑のセーラー服をまとった黒髪の女の子たちが駅に大挙している光景はかなりエモーショナル。皆もう「笑うしかない」という状態で、歌広場のいう「一周回ってポジティブ」状態を体現しているようだ。


 こんな天気の日に駆けつけたくなるくらい、彼女ら彼らにとって、R指定は思春期のヒーローというか、大切な存在なのだろう。


 この日のライブのラストに演奏された『日本八十八箇所巡礼』のカップリング曲「メジャーデビューなんてクソくらえ!!」のサビはこうだ。


(引用)
メジャーデビューなんてクソくらえ!! 右向け右で生きていくよりマシさ 
メジャーデビューなんてクソくらえ!! 君とならバッドエンドでもいいや


 リストカットや共依存、決して褒められたものではない題材ばかりをテーマにするバンドだが、ファンに対しては馬鹿みたいにまっすぐなメッセージを贈っているのだ。ここにいる「バンギャル」たちの大半は思春期まっさかりである、親も友人も信じられないかもしれない、でもR指定は彼女たちの味方、仲間なのだと。そんな彼らが彼女たちに愛されないわけがない。


 武道館にNGを出されたり、メジャーデビューに中指を立ててはいるものの、この曲を演奏する前に「時代が俺たちに追いついたら、(武道館もメジャーデビューも)やらないわけではない」と宣言したマモ。10月には『さよならR指定~享年8歳~』という意味深なタイトルのイベントも控えており、万が一の話だが改名&メジャー路線という可能性だってあるわけだが、いまのところは判断がつかない。


 そうそう、『メジャーデビューなんてクソくらえ!!』最後のサビはこんな歌詞なのだ。


(引用)
メジャーデビューなんてクソくらえ!! やってみなきゃわかんねえだろなめんな
メジャーデビューなんてクソくらえ!! 君となら何処までも行けそうさ (藤谷千明)