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夫を亡くした妻「引っ越すから、よろしくね」という義母から逃れたい【小町の法律相談】

2016年09月30日 07:12  弁護士ドットコム

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夫が急逝したばかりなのに、義母から「そっちに引っ越すから、よろしくね。と言われました」ーー。夫が急逝したばかりの女性が、Yomiuri Onlineの「発言小町」にそんな相談を投稿しました。


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夫は一人っ子で、義父はすでに他界しています。トピ主は、残された幼児2人を育てていかなくてはならず、「夫の母をどうにかしてあげられることなど、到底考えられません」。さらには、「もともと、夫の実家とは夫ともどもあまり仲が良くなく、何度か来る同居要請に嫌気がさして、遠方へ逃げてきました」という事情もあります。


「発言小町」のレスには「引っ越したら?」といったアドバイスも並びました。


しかし、「持ち家なので、もう逃げられません。夫が残してくれた唯一の財産です」と言います。姻族関係終了届は、すでに提出済みですが「いきなり家にやってこられたらどうしたらいいのでしょうか。子どもたちにも何か責任が生じるのでしょうか」と質問しています。


このような場合、トピ主はどう対応すればいいのでしょうか? 橋本 智子弁護士に話を聞きました。


(この質問は、発言小町に寄せられた投稿をもとに、大手小町編集部と弁護士ドットコムライフ編集部が再構成したものです。トピ「義母から逃れたい 何か方法ありますか」はこちらhttp://komachi.yomiuri.co.jp/t/2016/0916/777943.htm?g=15)


Q. 引き取らないとダメ?


現実の対応としてはいうまでもありませんが、「そっちに引っ越すから、よろしくね」という予告が来た時点で、はっきりと断るべきです。


精神的に負担が大きいなど、ご自身でするのが難しければ、弁護士に依頼してその旨の回答の書面を出してもらってもいいでしょう。ほとんどの場合、通知一本で済むでしょうから、費用もそれほどかからないはずです。 いくら非常識な義母でも、いきなり引っ越しトラックとともに押しかけてくることはあまり考えられません。しかし、万々が一にもそんなことがあっても、毅然と追い返すべきです。


「もとの住まいを引き払ってしまって行き場がない」などと言って、あなたの同情心や罪悪感をあおるかもしれませんが、知ったことではありません。たとえその通りだったとしても、非常識な行動に出る方が悪いのです。


おそらく、トピ主さんは優しいお人柄で、あまり「NO」と言えない性格なのでしょう。


しかし、義母はそのような性格を知るからこそ、付け入ろうとしているのです。ここは心を鬼にして毅然と拒絶しなければ、以後、際限なくその要求に応じざるを得なくなるでしょう。


たとえ夫の親族からどんな(いわれなき)非難を浴びたとしても、ご自分と子どもさんたちの生活を守ることを優先すべきですし、そうしていいのです。世間一般の目から見れば、ご質問の事情で、このような対応をとったとして、誰があなたを非難するでしょうか。


Q. 扶養義務はないの?


法的に問題になるのは親族間の扶養義務ですが、「姻族関係終了届」を提出した以上、義母との親族関係はありません。あなたが義母に対して扶養義務を負うことは一切ありません。


そもそも扶養義務が発生するのは、義母が経済的に困窮し、自分の収入や蓄えだけでは生活できない場合で、なおかつ、扶養を求められる側が、経済的にそれが可能な状態であるときだけです。


しかも、その方法は、毎月いくらかの生活費を送金するなど金銭的な方法によるのが原則とされています。引き取って面倒をみることが義務づけられるのは、よほど関係性が良好であるなどの事情が必要です。 ですから、仮にあなたが扶養義務を負う立場にあったとしても、あなたはこれから1人で2人の子どもさんたちを育てていく以上、義母の扶養をすることなどは不可能なのは当然でしょう。


義母の扶養義務は生じません。ましてや、同居して世話をする義務などありえません。


Q. 孫も扶養義務はある?


他方、今は幼児である子どもさんたちは、将来的には義母に対して扶養義務を負う可能性のある立場にあります。


民法で、扶養義務を負うのは、第一次的には直系血族(親子、孫)と兄弟姉妹とされているからです。その人たちの間で現実に誰がその義務を負担するかは、話し合い、または家庭裁判所で決めます。


特別の事情がある場合には、これ以外に「3親等内の親族」が扶養義務を負うことがありますが、これには家庭裁判所の審判が必要です。直系血族・兄弟姉妹以外の「3親等内の親族」とは、子の配偶者(質問者が姻族関係終了届を出していなければ、ここに該当します)、伯(叔)父・伯(叔)母、甥・姪などです。


ですが、孫が祖母に対して扶養義務を負うのは、その孫に相当な経済力がある場合に限られるでしょう。その孫自身にも扶養すべき配偶者や子がいるでしょうし、親を扶養する場合もあるでしょうから。


ですから、将来のこともあまり心配しなくてもいいのではないかと思います。


余談ですが、子どもさんたちは義母の法定相続人になる立場にあります。そちらの権利が具体化する可能性のほうが高いのではないでしょうか。もちろん、孫が祖母を扶養しなかったからといって、相続権がなくなることはありません。


いずれにしても、あなたが義母の同居の要求を拒絶しても、法的にはもちろん、道義的にも、何の問題もありません。ご自身と子どもさんたちとの生活をしっかり守ってください。




【取材協力弁護士】
橋本 智子(はしもと・ともこ)弁護士
大阪弁護士会所属 共著書『モラル・ハラスメント こころのDVを乗り越える』(2014年、緑風出版)『Q&Aモラル・ハラスメント 弁護士とカウンセラーが答える 見えないDVとの決別』(2007年、明石書店)
事務所名:あおば法律事務所
事務所URL:http://www.aoba-osaka.jp/