昨年、シンガポールGPで苦しんだメルセデスAMG。予選ではルイス・ハミルトンの5位が最高で、そのハミルトンはレースでリタイア。ニコ・ロズベルグは4位にとどまった。
今年のシンガポールGPでは、1年の時を経て、再びメルセデスAMGが同じ轍を踏むのかどうかに注目が集まったが、結果はロズベルグのポール・トゥ・ウィン。しっかりとリベンジを果たした。
その理由はいくつか考えられるが、そのうちのひとつがメルセデスのパワーユニットの改善である。昨年のシンガポールGPで苦杯をなめたのは、じつはメルセデスAMGだけではなかった。メルセデスのパワーユニットを使用するほかのチームもシンガポールGPでは苦戦を強いられた。その理由がメルセデスのパワーだった。あるメルセデス・ユーザーのエンジニアはこう語る。
「メルセデスのエンジンはパワーがあるので、コントロールするのが大変」
つまり、現在F1界でもっとも高いパワーが、昨年はリヤタイヤをオーバーヒートさせていたわけである。それが今年は大きな障害にはならなかった。それは、ドライバビリティが向上したからだった。
「ほかのパワーユニットもメルセデスを目指して進化しているけど、メルセデスだって進化を続けている。本当にすごいエンジンだよ」と某メルセデス・ユーザーチームのエンジニアは語る。
市街地コースで行われるシンガポールGPは、シリーズ全体を考えると特殊なサーキットである。したがって、このレースを落としたとしても、選手権に大きな影響は出ない。しかし、F1のエンジニアリングで大切なことは、勝たったか負けたかという結果ではなく、なぜ勝ったのかなぜ負けたのかを検証することである。ドライバビリティを改善する余地があると判断したメルセデスAMGは、パワーユニットを供給するメルセデスHPPに改善を要求。満を持してシンガポールGPに臨んできた。
メルセデスAMGのこうした緻密なエンジニアリングは、トラブルへの対処にも見られる。シンガポールGPでは金曜日のフリー走行2回目に、ハミルトンのマシンにハイドロ系のトラブルが発生した。ハイドロ系のトラブルというのは、現在のF1では珍しくはない。その後、問題が再発しなかったことからも、それほど深刻ではなかったものと考えられる。
ところが、メルセデスAMGは問題が発生すると、ピットウォールに座っている上級エンジニアが立ち会って、トラブルに対処していたのである。最後には技術系のトップであるパディ・ロウまで視察に来たほどだった。
トラブルが起きた翌日、ホテルを出て、サーキットへ向かうロウと道すがら出会った。そこで前日のトラブルの件を尋ねてみた。するとロウはこう答えた。
「どんなトラブルにもなんらかの原因があり、それは人間が引き起こしている。だから、どんなに小さなトラブルでも、おそろかにしてはならないんだ」
今シーズン、メルセデスAMGがレースをリタイアのはスペインGPの1度だけ。速さだけでなく、今年のメルセデスAMGは安定している。すでにコンストラクターズ選手権では2位のレッドブルに222点のリードを築いているメルセデスAMG。マレーシアGPは3年連続コンストラクターズチャンピオンに王手をかけた一戦となる。