コンストラクターズ選手権4位争いが熱い。第13戦ベルギーGPで4位に浮上したフォース・インディア。続くイタリアGPではウイリアムズが逆転したものの、シンガポールGPでは8位入賞したフォース・インディアがウイリアムズを再逆転した。しかし、その差は1点という接戦が続いている。
シンガポールGPでの再逆転は、10番手からスタートしたバルテリ・ボッタスがマシントラブルでリタイアして、無得点に終わったことが大きかった。しかし、じつはフォース・インディアも8番手からスタートしたニコ・ヒュルケンベルグがスタート直後にトロロッソと絡んでクラッシュしていた。そんな状況でフォース・インディアにポイントをもたらしたのが、17番手からスタートしたセルジオ・ペレスだった。逆にウイリアムズはフェリペ・マッサが11番手からスタートしていたにもかかわらず、入賞することはできなかった。
フォース・インディアとウイリアムズの差を分けたのは、タイヤ戦略である。2チームがシンガポールに持ち込んだタイヤは、以下のとおりだ。
S:ソフト / SS:スーパーソフト / US:ウルトラソフト
マッサ (S1+SS4+US8)
ボッタス (S2+SS3+US8)
ヒュルケンベルグ(S4+SS3+US6)
ペレス (S4+SS3+US6)
明らかにフォース・インディアのほうが硬めのアロケーション(配分)だ。この理由をフォース・インディアの松崎淳(タイヤ&ビークルサイエンス部門シニアエンジニア)は次のように説明する。
「シンガポールはいつセーフティーカーが出ても、おかしくない。ここは抜きどころがないので、セーフティーカーが出たタイミングでピットに入りたい。そうなると、戦略に幅を持たせるために、レースでは長めのスティントを走ることができるタイヤを使いたいわけです。セーフティーカーが絶対に出ないということであれば、こんなに多く(4セット)のソフトを持ってくることはありません」
松崎エンジニアによれば、「アロケーションを見れば、そのチームがどんな戦略を採ってくるか、だいたい想像できる」という。
もちろん、ウイリアムズもシンガポールではセーフティーカーが導入されやすいということはわかっていたばすである。なぜ、ウイリアムズはトップチームで最多となるウルトラソフトを9セットも持ち込んだのだろうか。それは「同じコンパウンドでもクルマが持っている特性によって、走る長さは変わってくるから」(松崎エンジニア)だという。
そして、それは予選後に残ったタイヤのセット数を見て、確信へと変わる。予選後に残った両チームのニュータイヤのセット数は以下のとおりだった。
マッサ (S1+SS1+US1)
ボッタス (S1+SS1+US1)
ヒュルケンベルグ(S2+SS1+US0)
ペレス (S2+SS1+US0)
つまり、ウイリアムズはウルトラソフトをレースで使用することを前提にセットアップし、フォース・インディアはレースではソフトをメインに使用するためのセットアップを行っていた。さらにレースは予想どおりスタート直後にセーフティーカーが導入される。ここでペレスは予定どおりピットインし、ソフトを装着。上位勢ピットインしている間にポジションを上げ、25周目に最後のピットストップを行う。問題はチェッカーフラッグまで、まだ36周も残っていたことだった。
当初、ペレスは「36周は厳しい」と無線で訴えていた。しかし、チームはテレメトリーのデータを精査した結果、ギリギリ実行可能であると判断。さらに、ペレスにそれを可能にするためのドライビングのアドバイスを送った。
こうして、ペレスは抜くにくいシンガポールで、17番手からスタートして8位でフィニッシュしたのである。それは単なるマシンの速さだけではない、チームとドライバーが一体となった総合力によってもたらされた4ポイントだった。
ウイリアムズのマッサは、かつてフォース・インディアの躍進をこう説明したことがある。「フォース・インディアには素晴らしいタイヤエンジニアがいる」。じつはマッサはフェラーリ時代の2006年に、当時ブリヂストンから専属のエンジニアとしてフェラーリで仕事していた松崎エンジニアのことをよく知っている。
2016年マシンの開発がストップしたシーズン後半戦。コンストラクターズ選手権4位の座を巡る勝敗の行方を決めるのは、もしかするとタイヤエンジニアの存在かもしれない。