10月16日に決勝レースが行われるFIA世界耐久選手権(WEC)第7戦富士6時間耐久レース。自動車メーカーの威信をかけた耐久レース世界選手権の日本ラウンドを前に、WECの基本知識や今季の見どころをおさらいしておこう。今回はLMP1-Hを戦うアウディR18を紹介。
「レースは技術の実験室」という信念のもと、モータースポーツ活動を行うアウディ。WECの天王山とも呼べるル・マン24時間耐久レースには1999年から参戦しており、これまで11度の総合優勝を成し遂げたほか、2010年から3年連続で表彰台を独占、また14年まで5連覇を達成するなど、圧倒的な速さと強さで君臨してきた。
しかし、15年シーズンはポルシェの後塵を拝し、ル・マンでの連勝記録が途切れたほか、シリーズ戦ではわずかに2勝。その勝利も王者に輝いた17号車ポルシェ919ハイブリッドがトラブルによりタイムロス、またはリタイヤを余儀なくされている状況でのものだった。
そんなアウディは今年、打倒ポルシェ、WEC王座奪還を目指してアウディR18を大胆にリファイン。外観では15年使用から継続されているように見られる箇所もあるが、アウディスポーツが「以前のモデルから共通しているものは何もない。すべてがゼロから設計された」と語るほど、まったく新しいR18を作り上げた。
16年仕様の大きな変更点としては、空力デザインとエネルギー貯蔵装置の変更が挙げられる。
空力デザインはウイリアムズやBMWザウバー、ホンダなど多くのF1チームを渡り歩いてきたヨルグ・ザンダーが担当。強烈なまでに細められたフロントノーズとフェンダーの間に、F1マシンのように巨大なウイングが備えられるなど、F1譲りの技術が活かされている。
また、いち早くハイブリッドシステムをWECに持ち込んだアウディは長らくエネルギー貯蔵装置にフライホイール式を採用してきたが、今季からポルシェやトヨタと同様のリチウムイオン電池方式に変更。
あわせて、貯蔵できる容量も強化し、1周あたりのエネルギー放出量も昨年までの4MJから6MJにステップアップ。より多くのアシストを行えるように仕上げている。
エンジンは従来と同様、ディーゼルエンジンで4リッターのV型6気筒ターボを搭載しているものの、燃焼室の形状変更など細かなリファインを重ね、さらに熱効率を高めている。
ドライバーは7号車がマルセル・ファスラー/ブノワ・トレルイエ/アンドレ・ロッテラー、8号車がルーカス・ディ・グラッシ/ロイック・デュバル/オリバー・ジャービスという布陣。
トレルイエやロッテラー、デュバル、ジャービスなど、日本のモータースポーツファンにとっても馴染み深いドライバーが多く、日本のファンも多い陣営と言えるかもしれない。
この16年仕様R18は、今季序盤から速さをみせる。レース後にスキッドプレートの厚みが規定に届かず失格となった開幕戦シルバーストンでは、7号車アウディが2号車ポルシェに46秒もの大差をつけトップチェッカー。
続く第2戦スパでは各陣営にトラブルやアクシデントが発生するサバイバルレースを戦い抜き、8号車アウディが優勝している。
しかし、開幕2連勝と波に乗って挑んだル・マン24時間では、ポルシェ、トヨタ陣営に速さで遅れを取っただけでなく、ゼロベースでの設計による弊害か、整備面で時間がかかる場面も多く、強さでもライバルに引けを取ってしまう結果となった。
その後のスパ、メキシコ、オースティンの3戦でも、アウディは2位を2回、3位を1回と表彰台には上がっているものの、3連勝した1号車ポルシェには1歩及ばず苦戦が続く。
陣営のトレルイエ、ロッテラー、デュバルらが走り慣れている富士スピードウェイで反撃開始となるか。活躍に期待したい。
* * * * * * * * * *
WEC富士特集ページでは、特集記事のほか、エントリーリストやタイムスケジュール、動画などを随時アップデート。アクセスはこちらから!