このところ、保育園に関する嫌なニュースをよく見る。誰しも子ども時代はあったというのに、近隣の住民からの「子どもの騒ぐ声がうるさい!」という、どうしようもないクレームがニュースで取り沙汰されることがしばしば。子どもが騒ぐなんて、そんなの当たり前のことだ。
この手のクレームを口にする人々には、恐らく「じゃああなたは子どもの頃は一切騒がなかったのか」という指摘は通用しない人種だろう。そりゃあ日々子どもの歓声を耳にしているというのは苦痛かもしれないが、何も一日中やかましいわけではない。
夕方には保育園も閉園するわけだし、なんでそんなに我慢できないのだろうか。ああいうクレーム問題は、正直モンスタークレーマーのわがままに思える。(文:松本ミゾレ)
騒音問題に一石! 全国の保育関係者も注目する保育園
9月23日放送の「ユアタイム」(フジテレビ)で、興味深い特集が放送されていた。「教育で作る静かな保育園」という特集で、紹介される保育園では大騒ぎする子どもが見当たらず、みんな一様に、とにかくお行儀が良いのだ。
その保育園というのが、埼玉・北葛飾郡にある「こどものもり」。通常の保育園は、80~100dBほどの音量があるという。人によっては、この程度の音量でも騒音と感じることもあるようだ。
だが、「こどものもり」で測定すると、67dB。VTRで観る限り、かなり落ち着いた子どもが目立つ。多くの保育士が注目しているようで、全国から視察も相次いでいる。
主体性を育てて目の前のことに集中させれば静かになる
同園には160人程度の園児が通っている。ここでは開園以来、騒音などの苦情が寄せられたことはないという。それも納得できるほど、とにかく子どもたちが大人しい。
その大人しさの根幹には、子どもたちの主体性の育成にあると、園長の若盛正城氏は言う。
「自分で考えて、自分でやっていく、イコール主体性。その主体性が、たくさん持てる時間と場所と、それを見守る先生がいれば、きちんと身についていけると思いますね」
たとえばお遊戯の時間に何をして遊びたいかについては、一人ずつにリスニングをし、彼らが望む時間を提供する。それぞれが自分のやりたい遊びをできるようにすることで、落ち着いて遊びに集中できるというわけだ。
また、昼食はビュッフェスタイルとなっているのも特徴的だ。子どもたちは、自分の食べたいものを、食べたい分だけ調節して食事ができる。知らず知らずに「何が食べたいか」という主体性を体得するというわけだ。
もちろん、「静か」という概念自体もしっかり教育されている。インタビューに応じた子どもたちは「大きい声を出したら迷惑」や「(食事中は)しゃべらない方が素敵なの」と話している。
静か過ぎると成長したときに自己主張できなくなる気がする
このような保育園が話題になる時代が良いか悪いか、僕にははっきりとした答えは出せない。世の中がこのような保育園ばかりになってしまうと、なんとも気味が悪いようにも思えないこともない。
主体性を培うという理念は良いものだと思うけど、子どものときからこんな調子で静かだと、成人したら自己主張が下手になってやしないかと、余計な心配をしてしまうのだ。いくら主体性が備わっていても、社会というのはそれだけでは生きていけないし。
そもそもこの保育園が取り上げられた背景には、保育園の騒音問題が根底にあっただろうし、大人たちの「こういう保育園があってほしい」という欲求にマッチしている。言わば大人にとって都合の良い保育園に思えるのだ。
大体、こんなの保育園で教えるべきことだろうか? やたらと騒がない、うるさくしたら迷惑がかかるなんて教育、保育園側がやる前に、普通は親が教えるもののように思える。
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