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桑田佳祐の新曲「君への手紙」いち早く聴いた! 小貫信昭が「ヨシ子さん」からの流れを読む

2016年09月27日 18:11  リアルサウンド

リアルサウンド

桑田佳祐

 桑田佳祐の新曲、「君への手紙」をいち早く聴くことができた。アコ-スティック・ギタ-の静かなストロ-クに始まり、淡々とした中にも確かなメッセ-ジが響き、やがてサビではエモ-ショナルに昇華して、心の奥底にまで届いてくる、そんなバラード作品である。アレンジの広がりも取って付けたところが一切無く、最後まで、桑田の体温が端々にまで感じられる仕上がりとなっている。


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 最前線のhip-hopを意識しつつトライバルな要素を加え、歌の主人公の昭和ノスタルジ-をぶちまけつつも“ヨシ子さん”への純愛を描いた「ヨシ子さん」とは、ガラリと違う作風である。“これが同じア-ティストの作品なのか!?”というくらい違う。「勝手にシンドバッド」でサザンの一員として世に出た桑田が、そのあと(続編的な「気分しだいで責めないで」を挟んだものの)「いとしのエリ-」で勝負に出た時のように違う。さらに「マンピーのG★SPOT」の次が「あなただけを~Summer Heartbreak~」、「イエローマン~星の王子様~」の次が「TSUNAMI」、桑田佳祐のソロでは「波乗りジョニー」の次が「白い恋人達」であったりと、こうしたシングルの流れを彷彿させるところもある。


 もしここに何らかの法則性を見出すなら、既存の価値観に縛られることない自由な作風(「ヨシ子さん」)のあと、普遍性のある、誰の胸にも覚えのあるような感情を描いた作品(「君への手紙」)が生まれてくるという流れに準じてると言えなくもないだろう。


 ただ今回の場合、外的要因も忘れてはならない。桑田は言う。「この曲は、映画『金メダル男』の主題歌として書き下ろしましたのでね。監督であるウッチャン(内村光良)から手紙でオファーをもらって、“僕はこの映画を観て、こう感じましたよ”と、返事を書くように作りましたので」。


 ここで注目すべきポイントは、手紙を書くように曲を作った、ということだ。ただ、かつての日本のフォ-ク・ソングにみられたような、“手紙の形式で歌詞を整えた”わけではない。むしろこの映画を作った内村光良という男への個人的な励まし(彼からの私信に桑田が私信で応えたのなら、そう言えなくもない)や、さらに映画から触発された想いなどが、この歌を占めることとなったようだ。「でもそれが“手紙”というものだと僕は思ってますからね。時候の挨拶から始めようが、どこに話が逸れようが、自由なものだろうし…」。


 ひとつ気になることがあるなら、そうして生まれた作品が、映画の内容にそぐうものなのかという点である。もちろん世の“主題歌”には、物語に寄り添うものがある一方で、逆に交わらず、それでも成立しているものもある。この点に関して桑田は、まずは「湧き上がるがままに書き連ねること」を重んじていたそうで、彼が常日頃から大切にしていた感情が、素直に音源化される結果にもなった。さらに作り終えた時のことで言うなら、「映画とは程良い距離感で作っていたつもりが、気付けば最後には同じゴールを目指していた」と振り返っている。そのあたり、ぜひ映画館に足を運び、ご自身で確かめてみて欲しいのだが、個人的に思う“同じゴ-ル”とは、人との絆や、他人を思いやる気持ちなのではないかと思った。最後に再び、桑田の言葉を……。


「人はひとりでは生きられない。それが人生じゃないかなぁと思うんです。そりゃ“オレはなんでも出来るんだ”と、若い頃は思うものだけれど、結局は自分のこれまでを振り返っても、周りの大勢の人達に助けられてこそのものだろうし」


 この原稿を書き終わる頃、最新のア-ティスト写真が届いた。まさに「君への手紙」の世界観から発展させたものであり、桑田のサスペンダ-姿からは、大人の男の色気が香る。あの夏の日に、カンカン帽に浴衣姿で「ヨシ子さん」を歌い踊っていた姿はもはやなく、辺りはすっかり秋の気配なのだった。ちなみにこの撮影のときに出前で届けられたカツ丼は、本人曰く、「とびきり美味だった」らしい。(文=小貫信昭)