SF第6戦SUGO。追い詰められた状況で驚異の速さを見せて優勝を奪い取った関口。 ワンメイクの現在のスーパーフォーミュラで、ここまで差が出るのか──スーパーフォーミュラ第6戦SUGOは、優勝を果たした関口雄飛(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)の速さに、ただただ驚かされる展開となった。
2位以下に1周1~1.5秒速いペースで周回を続ける関口の尋常ならざる速さは、同じコース上で戦ったライバルドライバーが一番理解している。それはレース直後のトップ3会見の2位中嶋大祐(NAKAJIMA RACING)、3位の野尻智紀(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)のふたりの表情とコメントからも伺い知れた。
トップフォーミュラでは4年振りに表彰台を獲得した中嶋大祐は、決勝後の会見で発言している間、笑顔はまったくなかった。
「実力で表彰台を獲れたと思うので、チームとしては喜ぶべきかもしれない。セーフティカーで展開的にはすごく恵まれて、今日勝たないでいつ勝つんだという展開でプッシュしたんですけど、関口選手にまったく歯が立たなかった。ドライバーとしては悔しいレースでした。本当に力が足りなかった」
今季初表彰台を獲得した野尻智紀にも、その喜びの表情は見られなかった。
「今季初表彰台で、ようやくレースでもアクシデントがなく走れたので喜ぶべきところなんですけど、昨日の予選では関口選手とコンマ1秒の小さな差が、今日の決勝では1周1秒くらい違うんじゃないかというペースだったので、ドライバーとしては悔しさしかない。もっともっと速くて強いドライバーになりたい、そう思ったレースでした」
2位、3位のドライバーにここまで力の差を感じさせる完膚なき関口の速さ。それはまさに、現役時代の星野一義監督を彷彿とさせる走りっぷりと言えるかもしれない。
その星野監督も、表彰台のインタビューでは「四輪スライドを最後のラップまで続ける、あの集中力が素晴らしかった。おもしろいドライバーが出てきたよね。こういうレースは最近……久しぶりに見たよね。だからスカッとした」と喜びを語った。チェッカー直後には星野監督も気持ちも昂ぶったか目に涙も浮かべたようで、レース直後のテレビのインタビューでは関口の速さを「キ×××だな」と最大級の褒め言葉(?)で表現するなど、スーパーフォーミュラに現れたニューヒーローを称えた。
今回のレースが特にドラマチックだったのは、セーフティカーによってトップの関口のギャップが奪われたことに加え、2番手以下がピットストップを終える中、関口だけがピットに入っていないという絶体絶命のピンチを自らの速さで覆した点にある。関口もセーフティカーが入った瞬間の驚きを振り返る。
「セーフティカーが僕の目の前にピットアウトして入ってきて、最悪のシチューエーションになって、終わったと思った。無線でチームに『これってもしかしたら最悪のシチュエーションじゃないですか?』って聞いたら『最悪だよ』と言うので、マジかよ! ってひとりで興奮してました」
それでも、気持ちが入れ替わったのは、チームからの無線がきっかけだった。
「チームからトップとは言わなかったですけど、『頑張ればいい位置で戻ることは可能』と聞いて、その時は1ポイントでも多く獲れればいいなと思ってプッシュしました。(後ろとのギャップを築いて、勝てると聞いたのは?)聞きたかったんですけど、そういうのは星野監督が『余計なことを考えるな!』と嫌がるので、聞かずに我慢して走っていました(笑)」
そして、レース終盤になって、関口も勝てる可能性に気づき始めた。
「それまで5周に1回くらい『プッシュして』って無線が入ったんですけど、ピットに入る直前の3~5周くらいの無線で『もしかしたらトップで戻れるかも』というコメントが加わったので、勝てるかもしれないというのは分かりました」
ピットインのタイミングはチーム側で計算して決めた。インパルの関口担当の柏木良仁エンジニアが話す。
「ギャップは32秒でカツカツかなと計算していましたが、ペースも落ちていなくてウチの方が速かったので、ガス欠にならないくらいのちょうどいいタイミングだったと思います」
関口は55周目にピットインするまでに2番手に35.4秒のギャップを築いてピットイン。チームもピット作業を完璧にこなし、関口はトップのままコースに戻り、トップチェッカーを受けた。
2番手以下はピットインしてわずかに燃料が多かったとは言え、ワンメイクの現代のトップフォーミュラで、後続に1ピットストップ分のギャップを築いたドライバーは前代未聞。それほど、セーフティカーが開けてからの46周に渡る関口の速さは際立っていた。
柏木エンジニアに今回の速さの原動力について聞くと、「ドライバーじゃないですか(笑)。クルマも悪い訳ではなかったですが、SUGOに向けてチームで考えて準備してきたセットアップがうまくいって、それをドライバーが上手く乗りこなしてくれた」と、あくまで関口の走りを称える。
スーパーフォーミュラ史上に残る名レースとして、後世に語り継がれるであろう今回のSUGO戦。ワンメイク、僅差、接戦というキーワードが並ぶ現在のスーパーフォーミュラで、レーシングドライバーの存在の大きさ、そしてレーシングドライバーの可能性の大きさを、ただただ目の当たりにさせられた1戦だった。