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欅坂46主演『徳山大五郎を誰が殺したか?』音楽担当が語る、“歌入りの劇伴”にした理由

2016年09月25日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)「徳山大五郎を誰が殺したか?」製作委員会

 欅坂46メンバーが総出演&初主演を務めるミステリー&コメディ学園ドラマ『徳山大五郎を誰が殺したか?』(テレビ東京系)が、10月2日の地上波放送で最終回を迎える。1stシングル『サイレントマジョリティー』での鮮烈なデビューから3カ月という異例の早さで制作された今回のドラマは、欅坂46メンバー全員が学園の生徒として実名で出演。私立欅学園三年C組の教室を舞台に、生徒たちが嶋田久作演じるクラスの担任教師・徳山大五郎の死体を発見するところから物語はスタートする。企画・原作に秋元康、監督を豊島圭介、古厩智之、吉田浩太の3名が担当。21名の個性豊かな生徒、教師たちが織りなす繊細で危うい人間ドラマは、時に常軌を逸した恐怖とブラックコメディ的要素をはらんでいる。ドラマの演出にさらなるサスペンス要素を加えているのが、作曲家/音楽プロデューサーのスキャット後藤が手がけた音楽だ。アコースティックギターの音色や、狂気をはらんだブラスが鮮明に記憶に残るが、中でも特徴的なのが子供や男性の声が入っている“歌入りの劇伴”。今回スキャット後藤にインタビューを行い、劇伴制作のエピソードに加え、収録現場の裏側、後藤が音楽・効果音を担当した欅坂46の上村莉菜個人PV「効果音ガール」についても話を訊いた。(編集部)


・「この作品だったらできるんじゃないかな」


ーーまずは、スキャット後藤さんの音楽的ルーツを教えてください。


スキャット後藤(以下、後藤):僕のルーツは歌謡曲とJ-POPですね。1971年生まれなんですけど、小学生のころは『ザ・ベストテン』(TBS系)を観て、中学生になるとおニャン子クラブが出てきたり、高校時代には小室哲哉にはまり、大学に入ってから音楽を始めたんですね。シンセサイザーを買って、いきなり1人で曲を作り始めてというのがスタートだったんです。歌謡曲、J-POPがやっぱり大好きで、そういう音楽を作りたい、歌いたいと思っていたのですが、蓋を開けてみたらインストゥルメンタルばっかり作るようになっていて。京都出身なので京都のゲーム会社で3年ほど音楽を作ってました。僕はドラマの音楽に歌を入れたがるんですけど、それはシンガーソングライターになりたかったけどなれなかったことが影響しているのかもしれません。


ーー歌入りの劇伴は本ドラマの特徴の一つでもありますよね。


後藤:今回の劇伴にも変な歌詞が付いている曲がちょこちょこ入ってるんですけども、そういうのも本来はいらないんですよね。でも、この作品だったらできるんじゃないかなと。普通のドラマだと歌詞まで入れちゃうとうるさすぎるんですけど、今回欅坂46は演技が初めてなので、いかに編集や撮り方、音の付け方で補完してあげるかを考えました。ドラマは2話毎に作っていったんですけど、1話、2話を作ったときに、1話は結構ゴテッとした作り方で、2話が比較的、普通のドラマにありがちな音の付け方になったんです。その時に、加藤章一プロデューサーから「2話みたいな感じは、ほかのドラマでも出来るよね。1話だと声入りの曲が鳴ってたりとかしていて、このドラマらしいね。一話の普通じゃない方をこの先最終話までやっていこう」という話があって、「最高な人たちやな」と思いましたね。普通の現場だと、段々と角が取れていくんです。徳尾浩司さんの脚本もすごく良くて。作品が評価されたのは台本、選曲さんのおかげだと思いますね。


ーー豊島圭介監督はAKB48出演の『マジすか学園』『マジすか学園2』(テレビ東京系)を手がけていましたが、今回の『徳山大五郎を誰が殺したか?』(テレビ東京系)はより“本気”を感じさせる作品クオリティです。


後藤:そうですね、めちゃくちゃ本気ですね。豊島監督とは16年くらいの長い付き合いなんですよね。僕がフリーになった2000年に知り合って、彼がまだ仕事し始めの時期に知り合いました。


ーー今回、劇伴を担当することになったきっかけは。


後藤:以前から豊島監督を知ってたというのも大きいと思いますけど、なんでですかね……分からないです(笑)。2月に吉祥寺で豊島監督と漫画家の押切蓮介くんと3人で蕎麦を食べたんですよ。そこで蓮介くんがトイレに行った時に、「まだ決まってない話で、欅坂46のドラマをやるかもしれないんだけど、スケジュールいける?」と言われたのが最初で。その1カ月半後ぐらいに「GOが出たからよろしく」って電話がかかってきて。吉田(浩太)監督とも昔何回か一緒に仕事していたし、編集の村上(雅樹)さんとは『殺しの女王蜂』(テレビ東京系)で一緒にやっていて、あとは今野浩喜さんともご一緒していましたね。


ーードラマは「ミステリー&コメディ」がコンセプトですが、劇伴がより怖さやシュールな笑いを引き出しているなと感じました。


後藤:僕が作った音楽を、選曲の大久保(吉久)さんと豊島監督、古厩智之監督、吉田浩太監督それぞれがシーンにどういう風に付けるかを決めていくんです。中には、僕が決めたりしたものもあるんですけど、空調ノイズなんかは効果担当である井上(奈津子)さんが担当していたり、フレーム単位で音をどうするかというのを細かく作っていますが、特に3人の中でも豊島監督が一番細かいです。豊島監督は打ち上げの時に「こんなにストレスのなかったチームは初めてだ」って言っていました。


ーークランクアップ前には一カ月半ほどメンバー向けにワークショップがあったらしいですね。


後藤:ワークショップ、何度か行きました。セットも撮影場所に2カ月ほど構えてあって、そこにも行ける時はどんどん行って。4月の末に初めて欅の子たちを見た時の印象は、「2万人の中から選ばれた子たちだから、さぞかしギラギラしてるのかな」と思ってたんですけど、みんな消極的な感じで。教室のセットを作ってずっとそこで撮るというのも聞いていたし、ステージに上がって脚光を浴びるのとは違って、ドラマの撮影は地味で同じことの繰り返しなので大丈夫かな……って。クランクイン前にはすでに曲が7割くらいできていてその後、秋元(康)さんから「もうちょっとサスペンス色の強いものにしよう」という変更があったんです。そこから急遽、怖いシーン用の音楽を作っていったら、そっちがメインになって。だから、よく流れてる曲は後半に作った曲です。普通なら台本を読んで「ここにこういうテーマがいるな、悲しいシーンだからこういう曲」という風に必要な曲を作っていくんですけども、今回はそういう作り方ではなかったんです。事前に豊島監督とドラマの世界観について話をして、それに沿って曲を作っていって。どういうはめ方をするかは映像が出来てから考える作り方だったので、結構無責任に作れました。素材を作るという感覚が強くて、ドラマの世界観を音楽でどう表現するかだけに没頭できました。嶋田久作さん演じる徳山大五郎の死体にナイフが刺さっていて、それを生徒たちが囲むシーンなんかは深刻にならないようフィクション度を高くするために、雰囲気とは全然違う音楽を付けていったり。はっとするような音楽の使い方をしていて面白かったのが、5話目で生徒たちが(長濱)ねるを囲んで“裁判”をしている最中に教室へ入ってきた先生のノエルに、米さん(米谷奈々未)がフランス語を喋った時に流れた音楽。全然そういう使い方を想定してなかったんですけど、選曲の大久保さんが「ここに入れると面白いよ」って。


ーーサントラには10曲目に「フランス語」として収録されていますね。


後藤:あと「音楽は編集で切り刻んでもらっていいです」と大久保さんに伝えていました。要は「ここは音楽的に切れてほしくない」とか「こことここは繋げてほしくない」というのが作曲家にはあると思うんですけど、それをしてしまうと演出的によくないので「切り刻んでも大丈夫なように作ってある」って言って。シーンによっては2曲重なってたりもするんですよね。リズムだけの曲とベルっぽい音だけを重ねた使い方をしてたりとか。本当に自由にやってもらってる感じですね。ラストにいつも流れる曲(「来週どうなるの?」)も、一回静かになってギターだけガーン! と来るところとかは、どういう編集になってるのか作った本人以外気づかなかったりするので、サントラ聞いたときに「あ、こここんな編集してたのか」と思ってもらえたらいいかな。


・「リズムが進行していかない感じの、しかも映画的な作り方にしたいなって」


ーー実際に収録現場を見に行ったことで、作曲へのインスピレーションを受けたりしましたか?


後藤:現場に行った時はほぼ曲が出来上がってたので、純粋に現場を楽しみに行くっていうだけでしたよね。というのは、去年個人的に乃木坂46にハマって。元々、アイドルの楽曲が好きだったんです。20年くらい前に、SMAPにどっぷりはまって影響を受けてたりとか。乃木坂は「制服のマネキン」とか「命は美しい」が「面白いな、いい曲だなー」と聴いていたんですけど。2月に豊島監督に呼ばれて『欅って、書けない?』(テレビ東京系)を観るようになって「なんや、この素人の子たちは」とすごい新鮮で。「サイレントマジョリティー」を聴いて「久しぶりにJ-POPで面白いのがきた」という「制服のマネキン」と同じ衝撃があったんですよ。素人の女の子たちが初々しく歌っているのを見て、「経験を重ねていって、ドラマが終わるころには一皮絶対剥けてるやろな」と。それを見届けたいと思いました。定期的に現場に行って、みんなの成長とか、ドラマに対する向き合い方とか……この仕事に関わる以上はこのドキュメンタリーをちゃんと見届けたいなと思って。


ーードラマの冒頭で流れる「徳山大五郎のテーマ」はアコースティックギターが特徴的なサウンドですが、これは「サイレントマジョリティー」を受けてのものなのでしょうか。


後藤:それは全然ないですね。豊島監督が「こういう感じの曲にしたいんだ」というのを実際にある映画で使われてる曲を持ってきたのを聴いて「ああ、分かりました」って感じで。ドラマの特性からそうなったっていうほうが強いです。徳山目線の曲が「徳山大五郎のテーマ」くらいなんですね。話の冒頭で使うっていうのは決まってたんです。鈴本(美愉)が「ナイフ!」って言って、文字が出てきて、語りがあって。役割として、「徳山大五郎のテーマ」はアコースティックギター、ほかはエレキギターのほうが主役というか。余談ですが、8話で吉田(浩太)監督から菅井(友香)の最後のシーンで「渋谷川」みたいなアコースティックで静かな感じの曲を作ってくれと、音の仕上げの前々日に言われて。でも仕上げの時に「すみません、作ってもらったんですけど変えていいですか」と言われて、見事にボツになってピアノの曲になっちゃったんです。僕は気に入ってたんですけど、サントラに「使われなかった」というタイトルで入れました。実はこの曲には秘密があるんですけどね。


ーーシーンの移り変わりに流れる「ララン ラ ラララン♪」という女の子の声も印象的です。


後藤:「ウクレレちるどれん」と「ぴあのチルドレン」での子供の声は僕の娘が歌ってます。「ウクレレちるどれん」が予告で流れてる曲なんですけど、それを娘に歌ってもらおうと思っていたら、娘に変な曲って言われたんですよ。変な曲と嫌がられたので、それを緩和するような楽しげな曲を急遽作って、慣らしておいてから2曲目にそれを録ればいいかなという作戦で。だから、使わなくていいやと思ったのが「ぴあのチルドレン」なんですけど、結局どっちも使われるっていう。スローモーションになるところとか、かなり使われてますもんね。


ーー今回のサントラは、ドラマのファンはもちろんですが、多種多様なジャンルの曲が収録されているので、ドラマファン以外の方が聴いても楽しめるサントラになっていると感じました。


後藤:嶋田さんにも言われたんですけど、自分ではそのバリエーションがあまり分からないというか。「いろんな曲があっていろんな音楽を知らないと作れないですよね」と言われたんですけど、僕普段、J-POPばっかり聴いてるんだけどと思って……(笑)。もちろん、ほかにもいろんな音楽聴きますけど、引き出しが少ないので自分の妄想で作ってることが多いです。僕の声が入ってる「シタイなんてヘッチャラ!」なんかは、「トム・ウェイツみたいなのをやりたいな」という提案を僕がしたんですよ。変わったことと言えば、トランペットを始めてすぐの人にトランペットをお願いしたりとか、ドラムを1年に1回しか叩かないような人にお願いしたり。上手い人は上手い人でサックスのKuske(KPLECRAFT)くんに吹いてもらって、そのバックでは打ち込みも緩い作りをしてるし、妙な世界を作るのに好きなことをさせてもらいました。絶対ほかの人はやらないやろうなと思って、打ち込みのドラムに下手なドラムを重ねて、タイミングをずらしたり。なるべくリズムが進行していかない感じの、しかも映画的な作り方にしたいなって。


ーー映画的というのを聞いて思ったんですが、全体をあまり変えずに、どこで切ってもいいような作曲の仕方はあえてですか?


後藤:そうですね。どのシーンになってもそういう風になるように考えてはいますね。そうは言っても、やっぱり編集は絶対必要なので、編集点のフックになる部分を作りながら、使われ方を想像しながら作りました。古厩監督は全然音楽を付けたがらないので、3話とかは音楽が比較的少ないんですけど、豊島監督は言葉きっかけで音楽を流し始めるんです。テレビドラマを観てると、不穏な空気を先に作ってからセリフを言うことがわりとあるのですが、そうじゃなくて、豊島監督はあるきっかけの言葉があってから音楽が流れるので、ギリギリまで何が起こるか分からないんです。そこが大きい。吉田監督はどっちかと言うと、先に音楽を乗せちゃうタイプなのかなって感じですね。あとは、短いメロディでなるべく成立するようには作ってます。CM音楽って短いところで展開を作るので、経験としてはすごく大きいですね。


ーーCM音楽はセリフも込みで本当に数秒の世界ですもんね。


後藤:15秒のCMだったら14秒しか音が入らなくて、セリフがあってそれを回避して……とか。曲の中に3つくらい展開があって、無駄なところをなくしたりとか、要は短いところでいかにそういう曲であるということを伝えちゃうかっていう作りだと思うので。コメディドラマはやっぱりパッと流れた瞬間にどういうテイストの曲か分かんないと、切り替えが効かないので。そういう意味では、今回Kuskeくんのテナーサックスは大きな役割を果たしてると思います。フレーズをあまり決めなかったので、オケに合うように狂った感じで演奏してって言ったら、最高に狂ったのを送ってきてくれて。サックスのフレーズだけで最後決めてるとか、流れで決めてるようなところは完全に僕の作曲じゃないですからね。曲としては僕の作曲ですけど、パーツ的に抜いてるから彼のおかげなんです(笑)。


ーーあのサックスは狂気的なものを感じさせます。話は変わるのですが、後藤さんは欅坂46の上村莉菜さんの個人PV「効果音ガール」の音楽・効果音も手がけていますが、担当することになった経緯を教えてください。


後藤:今回のドラマの音楽を作ってたときに、欅坂46の曲をよく聴いていて、「いつか楽曲提供をしたいな」と思ってたんです。Twitterに「楽曲提供をしたいな」とツイートしたときに、数分後くらいに「今、こんな企画が動いてるんですけど、通ったら相談乗ってもらえますか?」って友人のディレクターからDMが届いて。その時ドラマの音楽作ってることは公表はしてなかったからそのことを伝えたら向こうがびっくりしていて。その後、正式に依頼の連絡が来て、関わりたいと思ってたのがそういう形になりました。ドラマのクランクアップの日も撮影現場に行ったんですけど、お昼ご飯の時に上村さんが寄ってきて「個人PVありがとうございました」ってわざわざ言いに来てくれて。ドラマの時とは全然違いましたね。ドラマではたくさんいる中の1人だけど、やっぱりアイドルなんやなって。よかったですね、どっちも。


ーー効果音もたくさんの種類のものが使われています。


後藤:そうですね。足音は、銀座の博品館に行って音の鳴るおもちゃを買って、一個一個録音して音を付けていったりとか。劇伴と効果音をやる人ってほぼいないと思うんですけども、僕はゲーム業界からキャリアをスタートしているんですが、音楽と効果音を兼任することが多かったんです。今でも、よみうりランドの中にある「グッジョバ!!」というアトラクションの音を付けたりとかいろいろやってますね。ゲームだと『龍が如く』シリーズのムービーの足音や殴り音、金属音とか付けたり。「効果音ガール」は、上村さんのすごい可愛い部分がむちゃくちゃ活かされてると思いますね。


ーー最初に撮影現場で見た時のメンバーと、今とでは印象も変わりましたか?


後藤:だいぶ違いますね。最終話はびっくりすると思います。僕はその現場を見れなかったのが残念でしたけど。みんな犯人は誰かってことに注目してると思うんですけど、最終話ですごくいいシーンがあって。「これ犯人がどうのこうのっていうより、奇跡が起きたな」みたいな。実際音楽が繋がっていてすごくいいシーンだったので。かなりびっくりすると思います。


(渡辺彰浩)