トップへ

【SFの魅力を考察】仕事場はコクピット。ドライバーの過酷で魅力的な世界

2016年09月23日 19:11  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

写真
今日のスーパーフォーミュラでは、ダウンフォース量が多く、高いコーナリングスピードを誇るマシンで、0.1秒を削るシビアな争いが毎戦繰り広げられている。だが、そのマシンを操るドライバーが、狭いコクピットの中でいかにしてマシンと格闘しバトルを繰り広げているのか、外から見ているだけでは分かりづらいと感じる人も少なくないはずだ。

 スーパーフォーミュラの魅力をお伝えする不定期連載、第2回目はドライバーにフォーカスしお届けする。

 2014年から導入された新シャシー、『SF14』。導入初年度から、各サーキットのコースレコードを次々と塗り替え、その突出したコーナリングスピードに驚いたことは記憶に新しい。しかし、ダウンフォース量が増し、マシンが速くなるという事実は、それを操るドライバーにかかる負担も増すことを意味する。

 2015年のチャンピオンであり、今シーズンもタイトル争いを繰り広げる石浦宏明は、「現在のマシンは高いスピードでコーナリングが可能なので、心肺機能に負担がかかります。また、富士スピードウェイの100Rなど、ステアリングの舵角をキープし、マシン抑えつけながら走る必要のあるコーナーではパワーステアリングが効かないため(SF14ではステアリングを切ることでパワーステアリングが機能。一度切ったステアリング角度のキープはドライバーの腕力のみで行う)筋力が必要です。体重の軽いドライバーは、シートベルトをきつく締めているのに、体が浮いてしまうほどの負担のなか、マシンを操っています」と語る。

 また、コーナリングスピードが速く、コーナーとコーナーの間隔が短いため「息ができる時間が短い」という。「コーナリング中はほとんど息をしておらず、無酸素状態が続きます。直線で少し息をして、コーナーが来ると、また息を止めて走っています」それだけ過酷な状況のなかで、心拍数はじつに190~200回まで上昇するという。成人男性の平均値が1分間に60~80回であることから、精神、肉体ともに強い心臓が必要であることがうかがえる。

 石浦はF3など、ミドルフォーミュラからステップアップしてくる際の苦労として「F3まではレースの周回数も少ないですが、それでも集中力と体力は目一杯の状況で1レース走りきっています。ところが、SFにステップアップすると、何倍もの距離を速いラップタイムを揃えて走らなければなりません。そのうえ、百戦錬磨のベテランたちはレース中、ガソリンの量が減るに従ってタイムを削り常に限界付近で走っているなかで、自分だけがタイムを落とすと、すぐに遅れてしまう。F3まででは体感できない辛さがあります」

 体力的な要求に関しても「コーナリングスピードが一気に上がり、ステアリングも重たくなるため、マシンがスライドした際の修正舵を加える際に強い体幹が必要になります。これはドライブする度、徐々に鍛えられるんですが、ステップアップした直後はみんな『これでレースを戦えるのか!?』と思うほど衝撃を受けると思います」と明かした。

 また、スーパーフォーミュラの高いスピード域が与える視覚的な影響はどの程度なのか聞くと、「SFに乗った後に、乗用車に乗ると体感速度がとても遅く感じる。危ないから行き帰りは新幹線です(笑)」と語る。

 石浦は2014年に復帰するまで、国内トップフォーミュラでは2年間のブランクがあった。復帰初年度の2014年シーズン開幕前の3回のテストのうち、最終日の午後に視覚的な変化があったという。「鈴鹿のS字が急に見えるようになったんです。それまでは、頭でコーナーを認識する前に、そのコーナーを通り過ぎてしまう感覚でした。例えば、クリップに付きたいのに、縁石の端まで行けてないんです。考えている間にすぐ次のコーナーが来るので、マージンを残さざるを得ませんでした」

「ですが、急にコーナーが見えるようになって、F3に乗っている時と変わらない感覚になっていました。今は、縁石が見えているから、考えたとおりにクリップにつける。スピード感覚がゆっくりに感じているんです。SF14は本当に動きが軽くて、狙ったとおりのラインを走れる、これぞフォーミュラという乗り物」だと語った。

 単独走行時は、ダウンフォース量の多さと低重心の設計により、高いコーナリング性能を発揮するSF14。だが、接近戦を演じる上では別の難しさもあるようだ。

「他のマシンの後ろについた時に強い乱気流を感じます。以前までのスウィフト社製のシャシーよりは少ないとは言え、富士の100Rなど高速コーナーで真後ろについて走ると、ウイングに風が当たらず、マシンが外に流れてしまう。今のGT500も乱気流の影響はあるんですが、フォーミュラの場合はそれが顕著なんです」

「オーバーテイクは難しいですが、バトル中は心理戦の側面があり、それが分かるとすごく面白いカテゴリーだと思います。オーバーテイクシステムを使う時も駆け引きがあって、お互いに使うタイミングの読み合いがあります。ただ、相手との距離感や、直前のコーナーでミスがあったときなどに使うので、大体のタイミングは分かるんですけど」

 石浦は最後に、SF14をドライブする楽しさについて語ってくれた「常に楽しいですね。僕が今まで乗ってきたなかで、最高のレーシングカーだと思います。やっぱり軽快で、狙い通りのラインを走れるし、ブレーキ性能も高い。パワーもありますしね。コースインするときはいつも楽しいですよ」

 今回は石浦だけでなく、今年スーパーフォーミュラにデビューし、初優勝も飾っている関口雄飛にも話を聞くことができた。F3だけでなく、海外フォーミュラの経験も豊富な関口は「すごく乗りやすいなと感じましたね。ダウンフォース量も多いし、F3と比べて高速コーナーでの安定感が違いました。ただ、僕は最初から適応できましたね。カートからフォーミュラにステップアップした時のほうが難しく感じたぐらい」とSF14の印象を語った。

 中継映像からはなかなか伝わってこないドライビングの喜びと、肉体的な負担。過酷な状況のなか、国内最速のマシンを駆りバトルを展開する選ばれしドライバーたちに思いを馳せつつ、レースを観戦するとよりいっそう楽しめるはずだ。