F1ジャーナリストの今宮純氏が独自の視点でドライバーを採点。週末を通して、22人のドライバーから「ベスト・イレブン」を選出。予選やレースの結果だけにとらわれず、3日間のパドックでの振る舞い、そしてコース上での走りを重視して評価する。特殊なナイトレース&市街地のサーキットで五つ星を獲得したドライバーは?
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ニコ・ヒュルケンベルグ
もっと悔しがるかと思ったが、彼はジェントルマン・ドライバーだ。金曜から絶好調、予選でパワーダウン減少が起きなければ3列目も望めた。抜群のスタート(チームデータによれば過去最速)も50mでジ・エンド。「誰も悪くない、レーシングアクシデントだった」のコメントは泣かせる。接触後、マシンを左に寄せ、後続二次災害を防いだフェアプレーによって大事故にならず。
カルロス・サインツ
旧型PUハンデを“レス・ダウンフォース"でカバーしてきた高速GP後、チームはここで空力効率の最適設定を見つけられた。金曜からトラクションを活かす、ひさびさの元気コーナリングで対マクラーレンを意識。それだけにグリッド接触事故による後退はあまりに惜しい。
☆☆
セバスチャン・ベッテル
シンガポール4勝が証明する“出口プッシュ・コーナリング"のタッチが、なかなかできない。そのイライラ感が走りににじんでいた。アクセルオン・タイミングを変え、ターンインのポイントをずらすなど研究熱心さが見てとれた。最悪の22位グリッドから最善の5位へ、レース中ずっとドライビングを懸命に調整した最良の結果だ。
ケビン・マグヌッセン
ホテルまでコース上を歩いて往復するたびに、この道(コース)はモナコより“バンピー"な舗装だと感じる。今のルノーには過酷。フロントサスペンションはドタバタで、空力によって抑え込む範囲を超えている。スーパーソフト2ストップ作戦遂行、10位入賞。マシン振動など肉体的に相当つらかっただろう。
マックス・フェルスタッペン
FP1トップ、イニシャルセッティングがどうであろうと“腕比べ"の走り出しからプッシュ、プッシュ(!)。減速完了時のスピードが高く、それをクリッピングポイントでもキープ。明らかにオーバースピードに見えても、パワースライドで出口をクリアする。この迫力感を鈴鹿に行かれる方は是非。アウトラップからMAXなのがフェルスタッペン(!)。
☆☆☆
フェルナンド・アロンソ
バトンだけでなく、ピットで見ているバンドーンに今のマシン&PUの“限界走法"をアピールするようだった。アクセルペダル設定は常に“全開モード"。それを非常に微細に踏み分けるトルクコントロール(長谷川氏からそのヒントを聞いた)。予選9位、決勝7位、これはアロンソ個人技によるリザルト。スタート直前、グリッド上に本社社長が来られたが、お愛想はせずに彼は集中モードになっていた。あの気迫、社長に伝わっただろうか?
ダニール・クビアト
昨年FP2トップだったのを覚えているだろうか。レッドブルと一体化、本能の速さを持つクビアトの真骨頂がさく裂。スランプを吹き飛ばすならここだろうと思っていたが、ようやく95%元に戻った。レース中のフェルスタッペンとのバトルはどっちもどっちのイーブン。スランプ脱出のきっかけになったのではないか。
キミ・ライコネン
低い縁石を目いっぱい使い、ワイドラインを描く走りを目の当たりにして、スイートスポットにはまったキミを感じた。ベッテルとは明らかにセットアップ方向を変えたはずだ。ひと言でいうなら「流麗コーナリング」。タイヤマッチングもベターでいたのに、レース戦略のあやで4位に終わった。チーム批判は慎み、耐える彼らを見るととても空しい……。
☆☆☆☆
セルジオ・ペレス
余談、木曜深夜にチームスイートで雑談中にペレスとひと言。「トム・クルーズに似ているとか?」、「いやあ、よく言われるけどね」。23戦連続完走、16入賞、フォース・インディア“トップガン"が貴重な8位4点を追加、1点差逆転ランク4位へ。最終スティント36周(ソフト最長)が効いた。地道なレースマネージメント、ナイトレースで渋く光る。
ニコ・ロズベルグ
ママチャリではない普通の自転車でホテルとサーキットを“通勤"。金曜クラッシュから始まった週末、こつこつと進めていった落ち着き(あるいは自信)に、メンタルコンディションの変化を感じる。ハミルトンはあいかわらずスター気取りで(耳に大きなダイアモンドピアス)、比べたらニコは一般人のよう。FP1クラッシュを猛省してから、限界ゾーン寸前のセルフコントロールを予選、決勝で持続。まるでマラソンランナーのような1時間55分48秒950、精密な駆け引きの61周だった。
☆☆☆☆☆
ダニエル・リカルド
金曜FP2が終わったのは午後11時。それからミーティングがあり、日付け変わった土曜午前3時半にリカルドはパドックから帰っていった。4位で終わったFP2のあと、彼らは未明までダメ出しを続けていた(いつもの笑顔で深夜のご帰還)。土曜予選は2位、セクター3最速で追いすがるもPPには届かった。最速メルセデスに対し、彼らは3ストップレースに賭け、ファイナルラップまで徹底攻撃にいった。タイヤはぼろぼろでも0.488秒差までウイナーに迫った闘争心は“最高の敗者"。今年一番のレーシング・スポーツを演じたリカルド。