WTCC世界ツーリングカー選手権でシトロエン・ワークスに所属、これまで四度のワールドチャンピオン獲得経験をもつイバン・ミューラーが、2016年シーズンをもって「時が来た」とし、チャンピオンシップシリーズからの引退を表明した。
2008、2010、2011、2013年と、4回のドライバーズタイトル獲得経験を持つミューラーは、06年のWTCC参戦以降でほとんどすべての分野の記録保持者となる大活躍を演じ、長年にわたり、ツーリングカーの帝王として君臨してきた。
フランス・アルザス地方出身で2014年には母国のマニュファクチャラーであるシトロエン・ワークスに移籍し、彼らにとって初挑戦となるツーリングカー・プロジェクトの進捗に貢献。しかし、ドライバーとしてのリザルトは同時にチームへ加入した新鋭、ホセ-マリア・ロペスの後塵を拝する機会が多くなっていた。
今季も、前戦の日本戦もてぎラウンドで3年連続3回目のタイトルを獲得したロペスに勝利を献上されるシーンも記憶に新しいが、シリーズポイントでも120ポイントのビハインドとなっている。
それでも、ミューラーが現時点においても『チャンピオンシップで最も成功したドライバー』という事実は揺るぎなく、勝利数、ポールポジション、表彰台、ファステストラップ、生涯獲得ポイントで圧倒的な実績とレコードを保持している。
ミューラーにとっての最初のWTCCタイトルとなった08年のセアト時代当時は、それまで3年連続王者であったBMWのアンディ・プリオールを倒しての戴冠となり、その後、RMLがオペレーションを担当したシボレー・ワークスへの移籍後には"ミューラー黄金時代"を築いた。
WTCC参戦前の2003年にBTCCイギリス・ツーリングカー選手権でのタイトル獲得して以来、「長期にわたりコンペティションの現場にコミットしてきた」というミューラーは「ここで競争の世界から距離を置き、レースシートから降りて家族との時間を優先順位の上位に据えたい」との希望を明かした。
「キャリアの終わりが来たという点において、その主要な原因が年齢でないことは明らかだ」と、47歳を迎えたミューラーは語る。
「それは主に欲望とモチベーションの問題なんだ。すべてのテストやシミュレーター・セッション、物理的なトレーニングや世界中を転戦するモータースポーツのシーズンを受け入れてこなしていくには、個人的なコミットメントのレベルが必要だ」
「プロフェッショナルとしてその準備をする覚悟が、もはや湧いてこない。それと同時に、自分の人生の時間において何か他のことをする時が来たのだ、ということだ。11年間のWTCC参戦を経てその決断を下す時が来た……ということを本当に幸せに思うよ」
また、ミューラーは自らのワールド・ツーリングカー・シリーズでのキャリアで、いくつかの素晴らしい経験があったとも付け加える。
「このシトロエン・レーシングとの3年間は、僕自身、チームに世界チャンピオンをもたらしたことがないのにも関わらず、本当に特別な時間だった」
「常にチームのレーシングプログラムを構築を助け、シトロエンC-エリーゼWTCCの開発に貢献できたことは、いつまでも自慢になるだろう。僕自身も仕事に情熱を持ってきたし、それ以上に激しい競争心を持った偉大な人々と働くことができた」
「ドライビングは僕の日常生活の一部であり、長い間そうしてきたから、それを止めることを想像するのは難しい。でも、自分のチームである"イバン・ミューラー・レーシング"の成長と、家族との時間を増やすために決断を下したんだ。だからその前に、チームの目標を達成するためにすべてを賭けるつもりだよ」