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「ティーンアニメ映画の時代」到来!? 『聲の形』、少ないスクリーン数で異例の大ヒット!

2016年09月21日 16:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会

 シルバーウィークの前半戦となった先週末の動員ランキング。土日2日間で動員80万人、興収10億7600万円と、相変わらず圧倒的な強さの『君の名は。』はこれで4週連続1位。公開からまだ1ヶ月足らず、25日目の9月19日の時点で動員698万人、興収91億円を突破している。


参考:映画『聲の形』はなぜ青春ラブストーリーとして画期的か? 京都アニメーションの新たな挑戦


 『君の名は。』に関しては、先週東宝の関係者(古澤佳寛氏)から非常に興味深いツイートがあった。いわく「『君の名は。』は正月映画が一本増えたつもりで年明けまで全力でいく」「DVD/BD(のリリース)は早くても来年春、遅かったら夏になるかも」とのこと。つまり、今週中にも100億の大台を超えるのは確実な情勢の『君の名は。』だが、3ヶ月以上先の正月興行まで見据えてこの先も「全力でいく」という号令が東宝社内でかかったということ。ここにきて、テレビのニュース番組などでの新規露出が増えているのも、その「全力」の一環だろう。とりあえず、この先どんなことがあっても、洋画邦画合わせての「本年度ナンバーワン作品」になることは確実だ。


 邦画では吉田修一原作、李相日監督によるオールスターキャストの力作『怒り』、洋画ではスティーブン・スピルバーグ監督にとって久々のファンタジー系実写作品となる『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』と、有力作の公開日が重なった先週末だが、新作で最も動員を集めたのは初登場2位の『聲の形』。300スクリーン前後の規模の公開作がずらりと並んだトップ10作品の中で、唯一、その半分以下となる121スクリーンで、土日2日間に動員20万人、興収2億8300万円という成績を残した。各シネコンの館割りをリサーチしてみると、大きなスクリーンは軒並み『君の名は。』や『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』に占拠されていたので、スクリーン数の少なさだけでなく、客席のキャパシティ的にもこの数字は大健闘。2日間、ほとんどの上映館でほぼ満席状態が続いていたことになる。


 結果的に、1位と2位を国内のアニメ作品が独占することとなった先週末のランキング。この2作品には他にも共通点がある。新海誠、山田尚子ともに、これまでアニメファン以外の間では比較的認知度の低かった監督の作品であること。そして、主人公が高校生のラブストーリーであること。もちろん、『君の名は。』も『聲の形』も「普通の高校生のラブストーリー」ではないし、テーマもモチーフもまったく異なるこの2作を一緒に語るのは少々乱暴ではあるが、物語を構成するシーンの大半が「高校生の男女の日常」であることは、(『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『心が叫びたがってるんだ。』などの中規模ヒットの前例はあったものの)これまでの長編アニメ映画の大ヒット作では見られなかった傾向だ。


 日本映画の新たな鉱脈とも言えるこの「ティーンアニメ映画」というジャンル。「壁ドンもの」や「ドS男子もの」に代表される実写のティーン映画と違って、アニメ界は才能ある作家やスタジオが限られているため、安易な粗製乱造の道はたどりたくてもたどれないとは思うが、今後も注意深くこのジャンルの成長を見守っていきたいと思う。(宇野維正)