トップへ

Flower、『THIS IS Flower THIS IS BEST』全曲レビュー前編(DISC1)

2016年09月21日 14:31  リアルサウンド

リアルサウンド

Flower

 Flowerが9月14日にベストアルバム『THIS IS Flower THIS IS BEST』をリリースした。同作はこれまで彼女たちがリリースしてきたシングル表題曲を、現体制で再度新録したものや、人気カップリング曲などを多数収録。CDだけで2枚組26曲、DVDも含めると4枚組の超大作だ。今回リアルサウンドでは同作をDisc1、Disc2に分け、全収録楽曲のレビューを行う。第一回となる本稿では、メンバーがDisc4に収録されているドキュメンタリー映像のインタビューで「自分たちが世界観を出していかなければいけない段階」と語るタイミングでのベストアルバムについて、シングル表題曲を集めて新体制で収録したDisc1の楽曲面におけるグループの歴史と、新録曲での進化を紐解いていきたい。


・「Still (version2016)」
 グループ結成のきっかけとなった『VOCAL BATTLE AUDITION 3』の合宿審査・最終ライブ審査課題曲であり、彼女たちのデビューシングル表題曲。プロデュースは松尾潔が手掛け、作曲を川口大輔、編曲を中野雄太が担当するという盤石の布陣で制作された。ほぼ同時期にデビューとなったE-girlsとの差別化を図ったこともあってか、この段階から楽曲面でR&B色の強い大人の雰囲気を醸し出しており、のちの活動の大きな指針ともいえるものに仕上がっている。


・「SAKURAリグレット (version2016)」
 1stシングルに引き続いて松尾潔がプロデュースを行ない、前作でアレンジを務めた中野雄太が作編曲を担当した「SAKURAリグレット (version2016)」は、四つ打ちのビートに和を感じさせるメロディーラインと、ガット・ギターによるスパニッシュな音色が混ざりあい、春ソングにも関わらず切なさや空しさの感情を多分に含んだ1曲。4年と少しの時間を経て新緑された今回のバージョンでは、鷲尾伶菜のボーカルがキャリアを重ねたことで、艶やかさが増したことを感じさせてくれる。


・「forget-me-not ~ワスレナグサ~ (version2016)」
 彼女たちにとって初のTVアニメタイアップ曲となった3rdシングル表題曲。クラシック音楽などに造詣の深い三橋隆幸が作曲を、EXILEの「Ti Amo」や「Lovers Again」といった名曲を生み出したJin Nakamuraが編曲を手掛けている。特徴的なシンセサイザー音がクセになるイントロから、徐々に盛り上がっていく展開で、ファルセットで歌い上げる箇所も多く、Flowerとしても新境地といえる楽曲だ。


・「恋人がサンタクロース (version2016)」
 松任谷由実の名曲を、松尾潔と盟友・Maestro-Tこと豊島吉宏が大胆にもダンサブルなトラックに生まれ変わらせた、Flowerにとって初めてのカバー表題曲。E-girlsも過去の名曲たちをカバーし、ライブ定番曲として家族で来場するファンたちを盛り上げており、グループとしてのひとつの共通性を見出すことができる。


・「太陽と向日葵 (version2016)」
 Flowerにとってキャリア史上最も大きな転機といえるのがこの楽曲。Hiroki Sagawaのヨナ抜き音階をベースとしたオリエンタルなサウンドと、作詞家・小竹正人が初めて彼女たちに提供した抒情的な歌詞が見事にマッチし、現在のFlower像を形作るきっかけとなった。


・「白雪姫 (version2016)」
 前作に引き続き小竹正人とHiroki Sagawaのタッグで制作された楽曲であり、Aメロ~Bメロまでのゆったりとした切ない展開と、低音と鷲尾の声が一気に力強くなるサビの対比が、Flowerの楽曲の中でも屈指と言える爆発力を生む楽曲。彼女たちは同シングルで初めてオリコンシングルチャートでTOP3入りをし、ゴールドディスクを獲得するなど、グループが名実ともにブレイクを果たしたといえる作品でもあった。


・「熱帯魚の涙 (version2016)」
小竹正人による<夏が来るわ 夏が…>という印象的なフレーズで始まる同曲は、Flowerが持つオリエンタルなメロディーこそ継承しているものの、SKY BEATZとFAST LANEのタッグによる緻密なトラックと二胡・中国琴や水滴のサンプリング音など、絶妙なサウンドが耳を惹く1曲。色鮮やかな衣装やシーンの切り替えが特徴的だが、全体的に淡い色でまとめ上げることで世界観を作り上げているMVも必見。


・「秋風のアンサー (version2016)」
 鈴木まなかとCalros.Kの気鋭の若手作家コンビが手掛け、サビの流れるような歌メロがキャッチーさをより増幅させる1曲。作詞は小竹正人が担当し、同氏による三代目J Soul Brothersの「C.O.S.M.O.S.~秋桜~」のアンサーソングであることを『週刊EXILE』で本人たちが語り話題を呼んだ。振付にも二つの曲にリンクする要素があるため、この機会にMVを改めて見直すのもいいかもしれない。


・「さよなら、アリス (version2016)」
 蜷川実花がMVを撮影したことでも話題になった1曲。小竹正人が<僕>という男性目線の1人称を使った歌詞を彼女たちに渡しており、Flowerでこれまで表現してこなかった視点での歌は、一層新鮮に聴こえるという点も記しておきたい。楽曲はSoulifeの2人が手掛けており、独特なビート感と切なさを助長する鍵盤のメロディが特徴的だ。


・「TOMORROW~しあわせの法則~ (version2016)」
 「さよなら、アリス」との両A面でリリースされたシングルのもう1曲であり、映画『ANNIE/アニー』の日本語吹き替え版主題歌に起用されたカバー曲。新緑バージョンでは、誰もが聞いたことがあるだろう<TOMORROW TOMORROW I LOVE YA TOMORROW>という名フレーズを伸びやかな歌声で歌唱する鷲尾のボーカルワークが冴えわたっている。


・「Blue Sky Blue (version2016)」
 <綺麗……>という小竹による印象的なフレーズから始まる同曲は、LDH系のアーティストにも数々の楽曲を提供しているErik LidbomとYoko Hiramatsuのコライトによるもの。ミドルテンポではあるものの、鷲尾自身も「等身大の気持ちで歌えました」と発言しているように、これまでの表題曲とは少し毛色も変わり、サビで抜けるような爽やかさを感じることのできる1曲だ。


・「瞳の奥の銀河(ミルキーウェイ)」
現体制初のシングル表題曲であり、小竹による「銀河(ミルキーウェイ)」や「横顔(プロフィール)」といった印象的な言葉が、歌詞カードを見ながら聴くことでより楽しむことのできる1曲。「『花時計』以降、すごく声質が変わってきた」という小竹の発言にもあるように、ボーカリストとしての鷲尾の成長が伝わってくる楽曲でもある。


・「やさしさで溢れるように」
 Flowerによるカバーシリーズのなかでも、極めて直近のリリース曲を歌ったもので、三代目J Soul Brothersの岩田剛典が主演を務めた映画『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』の主題歌。レーベルメイトであるJUJUの名曲を、ダンスと歌の両面で再解釈し、グループの名前をより広く知らしめることになった。


・「他の誰かより悲しい恋をしただけ」
 今作のために新たに書き下ろされた、Calros.KとJonas Menglerのコライトによるもの。ベスト作というタイミングもあってか、初期の楽曲に多かったR&B調の展開と、現在のポップな路線が見事に融合している一曲だ。サビの細かい譜割りや、キャッチーなタイトルセンスはさすが小竹といったところ。


・「人魚姫」
 「他の誰かより悲しい恋をしただけ」がこれまでと現在の融合だとするならば、「人魚姫」はFlowerのこれからを指し示すような最新形を見せてくれる1曲だ。FAST LAMEとErik Lidbomによるトラックとトップラインは、「白雪姫」~「熱帯魚の涙」を彷彿とさせつつ、ファルセットのみで歌われるブリッジ部分が新鮮。また、Flowerファンならお馴染みの“2番の歌詞の破壊力”はこれまでの楽曲と比べても高いように思えるので、歌番組などで披露される1番だけではなく、フルバージョンで楽しむことを勧めたい。


 ここまで、ベストアルバム『THIS IS Flower THIS IS BEST』のDisc1から、Flowerのこれまでとこれからを紐解いてきた。冒頭で紹介したDisc4のインタビューでは、彼女たちの口からグループの変遷が語られているので、今回のテキストと合わせて5年間を振り返ってもらえれば幸いだ。次回はカップリング曲を収録し、音楽的な挑戦も多いDisc2について分析してみたい。(文=中村拓海)