2016年09月21日 11:11 弁護士ドットコム
「もう十分だと思います。もう待てません」。詐欺罪に問われた被告人が、判決の「再々延期」を求めたことに対して、青森地裁の裁判官はこう切り捨てた。
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読売新聞によると、この被告人はネットオークションで、高級車などの架空出品をおこなって、4人の落札者から計約730万円を騙し取った罪に問われていた。被告人は保釈されて、当初は、7月19日が判決予定だった。
しかし、被告人が「弁済する見通しがついた」と主張したため、8月31日に延期された。だが、被告人は台風の影響で出廷できなかった。青森地裁の鎌倉正和裁判官は、判決の「再延期」を認めて、その期日までに弁済手続きを終えるように指示していた。
ところが、被告人は再延期された9月9日当日までに70万円ほどしか用意できなかった。被告人が「この先も入金の予定がある」と再々延期を求めたところ、鎌倉裁判官は懲役3年の判決を言い渡したというわけだ。
今回のケースでは、判決の言い渡しまで紆余曲折があったが、こうした判決延期はどんなときに認められるのだろうか。刑事事件にくわしい清水伸賢弁護士に聞いた。
「刑事裁判の判決では、有罪・無罪だけでなく、有罪の場合に被告人をどのような刑に処すべきか、執行猶予をつけるべきか、という量刑まで判断されます。
そのため、証拠調べでは、どのような罪を犯したか(罪体)に関する証拠を調べるだけでなく、被害弁償や本人の家庭環境、生活状況などといった情状に関する証拠も調べます。
被害者がいる事件では、被害弁償があったかどうかは、量刑に関わる重要な情状事項です」
具体的にはどのような場合だろうか。
「とくに、被害者との間で示談が成立して、被害者に被告人を許す意思がある場合や、被害金額を全額返還したような場合、量刑上、有利に判断する事情となります。
そのため、近日中に被害弁償がおこなわれる見込みがある場合、裁判所は、判決期日の指定を調整したり、また交渉状況などに応じて延期したりすることがあります。
また、被告人自身が薬物の依存症である場合や、精神的疾患を理由として、罪を犯してしまった場合などには、1審中に保釈されて治療行為や更生プログラムを受ける場合があります。
そのような場合にも、裁判所は判決期日を数カ月程度先としたり、延期したりすることがあります。判決期日の指定は、裁判所の裁量でおこなわれるものであり、何度でも延ばしてくれるというわけではないですが、当事者の立証活動に応じてこうした指定がされることは多いです」
判決延期のメリットはどういうものがあるのか。
「刑事裁判では、1審で、すべての証拠調べをおこなうことが原則とされています。1審判決後に被害弁償をしたり、治療行為をしたりしても、かならずしも控訴審(2審)で考慮されるとは限りません。
また、被害弁償の交渉や、更生プログラムの受講は、時間がかかることも多いため、近日中に被告人に有利な情状事実の証拠が出るなら、それを踏まえて1審判決の量刑を検討することが妥当といえます。
さらに、このような裁判所の措置は、被告人の更生にとっても役立つ面がある、といえるでしょう」
清水弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
清水 伸賢(しみず・のぶかた)弁護士
企業法務から交通事故などの一般民事事件、遺産分割などの家事事件まで幅広く取り扱うとともに、裁判員裁判を中心とした刑事弁護にも精力的に取り組む。日弁連刑事弁護センター委員、大阪弁護士会刑事弁護委員会担当副委員長(裁判員部会)。
事務所名:WILL法律事務所
事務所URL:http://www.will-law.com