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コーネリアス、ニューアルバム制作も佳境? 小山田圭吾が明かすUSツアーの手応えと今後の動き

2016年09月19日 14:11  リアルサウンド

リアルサウンド

コーネリアス

 去る8月、コーネリアスがアメリカ・ツアー『CORNELIUS PERFORMS FANTASMA』を行った。サード・アルバム『FANTASMA』(1997年)のリマスター・バージョンがアメリカでヴァイナル盤で再発されるのに伴い、アメリカ側からのオファーで実現したものだ。北米6カ所6公演と小規模なツアーだった。


○Aug 04 Fox Theater Oakland, CA
○Aug 06 Orpheum TheaterLos Angeles, CA
○Aug 08 Rialto Theater Tucson, AZ
○Aug 10 Gothic Theater Englewood, CO
○Aug 12 Eaux Claires Festival (August 12-13)Eau Claire, WI
○Aug 13 Park West Chicago, IL


 コーネリアスとしてのライブは、日本/海外を問わず8年ぶりだった。


 このツアーのゲネプロの模様は本サイトでリポートした。(参考:新生コーネリアスの公開ゲネプロを見たーー大野由美子の加入でパフォーマンスはどう変化?)。今回はツアーを終え、現在コーネリアスの新作の制作に入っている小山田圭吾にツアーの感想と総括、そして新作の制作状況について訊いた。(小野島大)


■「なんとなくゆるく自分を追い込んでいこうかなと」


ーー今回のツアーはどんな経緯で実現したんでしょうか。


小山田:『ファンタズマ』のCDは当時(1997年)アメリカでも出てたんだけど、今度アナログで再発することになって、ツアーやんないの、みたいな話がむこうのブッキング・エージェントに来てたのね。むこうのマネージメントからも、やってって言われて。ずいぶん長いこと(アメリカに)行ってないし、ちょうど僕もそろそろコーネリアスをやりたいなと思ってたタイミングだったのね。


ーーあ、なるほど。


小山田:ただライブはずいぶん長いことやってなかったし、メンバーがちょっと変わったりしたので(清水ひろたか→大野由美子に交代)、またいちから練習するの大変だな、とか(笑)。まあいろいろそういうのもありつつ。それでボン・イヴェールが地元でフェスをやっていて(ウィスコンシンで開催されるEaux Claires Festival)、そこからも『ファンタズマ』のショーをやってくれって話が来たの。とりあえずスケジュールを見たら、その時期は空いてて。METAFIVEのサマソニは前から決まってたので東海岸までは行けないけど、8月の前半は空いてたから、西部から中部ぐらいまで行こうってことになって。


ーーボン・イヴェールのフェスの公式サイトに「CORNELIUS PERFORMING “FANTASMA”」という情報が出たのが今年の2月ぐらいで。その時は他に何も情報がなくていきなり出たから、一部のファンの間で騒然となりました。


小山田:(笑)。フェスに出るのはわりと前から決まってたからね。でもツアーの情報を発表したのはもう少し後だったから。みんなびっくりしただろうね(笑)。


ーーではむこうからのオファーとはいえ、タイミングとしてはちょうど良かったということですね、活動再開のきっかけとして。


小山田:うん、まあね。今思えば。あははは! そろそろやりたいなって希望はあったけど、作品出してからかなと思ってたから。やり出すと結構長くなるし、準備も必要だから、ゆっくりスタートしたいなと思ってて。それがそのタイミングでいろいろ偶然が重なって、やってみようかなと。


ーーオファーがあったのはいつ頃なんですか。


小山田:今年の頭ぐらい。METAFIVEのライブをやってるぐらいのタイミングかな(2016年1月)。どうしようかとちょっと悩んだけど、でもそんなこと言ってるといつまでもやんないからさ(笑)。


ーー〆切りを設定されないとやらない性格。


小山田:そうそうそうそう。なんとなくゆるく自分を追い込んでいこうかなと思って。


ーーで、やることが決まって。先ほども話に出ましたが、今回メンバー(ベース)がバッファロー・ドーターの大野由美子さんに代わっています。


小山田:これはね、まあいろいろあって(笑)。最近は大野さんといろんなところで一緒にやることが多くて。昔からよく知ってるし、ものすごくいいなあと思ってて。声をかけてみたんです。


ーー最近でいうとYOKO ONO PLASTIC ONO BANDとか、salyu x salyuとか。


小山田:アート・リンゼイでも一緒にやったしね。それこそ『ファンタズマ』の頃から近いところにいたし、海外でも一緒にやったことあるし。子供も同じ歳でね(笑)。すごく付き合い古いし、深いんですよ。なのでそろそろ由美子さんに登場してもらいたいと思って。今回がちょうどいいタイミングかなと。


ーー大野さんは一緒に演奏するプレイヤーとしてはどんな感じなんですか。


小山田:いやあ…凄いよね。高性能。なんでもできる。


ーーご本人と接してるとぽわんとした感じで、スペックの高い切れ者ってイメージはあまりないですけど。


小山田:ああ、キャラクターはね(笑)。でもピシッとしてる時は姐さん感バリバリ出してるよ。


ーーへえ。


小山田:ふふふ(笑)。たぶんムーグ(正式名称はモーグ)のプレイヤーってことだと世界一だと思うんだよね、あの人。あんなに使いこなしてる人見たことないもん。


ーーリハーサルはけっこう長期間に及んだらしいですね。


小山田:うん、曲多かったし、全部大野さん初めてだったし、8年ぶりだったし、難しい曲多いし…とはいえ10日やったぐらいかな。昔は1カ月ぐらい練習してたから。『SENSUOUS』の時とかね。全然覚えられなくて。でも大野さんは10日間で全部覚えるんだよね。しかもこっちの要求も多いわけよ。ムーグだけじゃなくベースもたくさんあるし、コーラスもかなりいろんなパートがあるし、それを同時に全部やれって、普通に考えたらムチャブリだと思うんだけど(笑)。


ーー前任の清水さんが抜けた穴を埋めるだけじゃなくプラスアルファを期待した。


小山田:そう。安定感とかね。


ーーゲネプロを見た限りでは、アレンジも大きく変わっているわけではないし、新曲もまだない。8年前のライブの再現、というニュアンスが強い気がしましたが、やっている側としては何か新しい試みは?


小山田:いやいや、全然。それはないかな。まだ一発目だし、全部アレンジ変えてっていうよりも、一回前のアレンジで大野さんに参加してもらったって感じだから。だから大きく変えてってことはない。ただ大野さんが入ったことで変わったところはある。コーラスもそうだし、ベース、ムーグもね。


ーー前よりもバンド感が増したという印象もありましたけど。


小山田:うーん、でも…あそこ(ゲネプロの会場になった横浜のライヴハウス)、会場がめちゃくちゃ狭かったじゃない? だから映像とかあまり見えなかったし、密度が高かったからそう見えたところもあったと思う。大きいところで見ると、また違った見え方するんじゃないかな。


ーーリハの時に大野さんは何か言ってました?


小山田:難しい難しいって(笑)。


ーーあれだけたくさん練習したのに、ライブ6回じゃもったないって言ってました。


小山田:うんうん。ツアーやってて最後の方はちょっと寂しくなった。もうちょっとやりたかったなと。


ーーちょうど馴染んだころに終わった感じ。


小山田:そんな感じだね。もうちょっとやったら、もっとどんどんできるし。ただまあこれで終わりっていうよりも、次のツアーを踏まえてってことだから。


■「うっかりしてるとほんと、8年とかすぐたっちゃうから(笑)」


ーーつまり次のニュー・アルバムを引っさげてのツアーの前哨戦という意味もあったと。その話はあとでお聞きするとして、今回のアメリカ・ツアーはいかがでした?


小山田:すごい楽しかった!お客さんも盛り上がってたよ。あまり(コーネリアスのことを)知らない人もいたけど、でもけっこう新しいファン、10代20代の子もいっぱい来てて、すごい年配のおじいちゃんもいて。めっちゃ幅広いんですよ。日本だとありえない。会場の雰囲気とか。


ーーじゃあ不在の間も着々とコーネリアスの名前が浸透して、ファンを増やしていた。


小山田:どうなんだろうね(笑)。


ーー会場はどれぐらいの大きさ?


小山田:けっこう大きかったよね。サンフランシスコが(キャパ)2800ぐらい。すごく古いシーティングのホール。1920年代ぐらいからやってるような。以前出たことのある人の名がずらっと書いてあってね。そこは以前(オノ)ヨーコさんで一回やったことがあるんだけど。だから日本のスタンディングのライブハウスとは全然違う感覚だよね。見やすいし、音響も悪くない。作りも雰囲気があるし。日本ではああいう歴史のある古いホールってありえないよね。日本って古いものを壊すじゃん。むこうはとっておくんだよね。


ーー日本は地震が多いし、基本的に木造家屋だから、建物は壊れるし燃えるもので、建て替えることに抵抗がないんじゃないですかね。


小山田:ああ、それは大きいかもね。


ーー8年ぶりにアメリカでやってみて、気づいたことは?


小山田:ずっと日本ばかりでやってたんで、忘れてましたね、向こうの感覚を。


ーー何が違うんですか。


小山田:なんだろうな…もっと自由だよね。


ーー何が自由?


小山田:…全体的にね(笑)。なんて言ったらいいんだろう…全部違いますよね。お客さんも幅広いし、反応も画一的じゃないし、みんな好き勝手やってるし。


ーー日本だとこう、すごく真剣に、集中して見てて…。


小山田:うんうん。世の中の雰囲気もそんな感じというか。日本でずっとやってるとこれが普通だと思っちゃうけど、向こうでやると、こういう世界もあるんだなって実感するよね。


ーーどっちがやってて楽しいんですか。


小山田:日本でだけやるよりは、いろんなところでやれた方が楽しいよね。


ーーLA公演ではベックも飛び入り参加してテルミンを演奏したようですね。


小山田:そうそう。別にオファーもしてなくて。直前になって来るっていうんで、テルミンやるって訊いたらやるっていうから。


ーー親しい間柄なんですか。


小山田:なんだかんだ結構長いよね。今年彼がフジロックで来た時、僕は行けなかったんだけど、終わったあと一緒にご飯食べたのね。来月アメリカに行くって言ったら、じゃあみんなで見に行くからって。そうしたら彼のバンドのジェイソン・フォークナーと一緒に来てくれた。


ーーベックはテルミン終わったあともステージ残ってフラダンスしてましたね。


小山田:そうそう(笑)。


ーーインスタグラムに記念写真をアップしてたし。ベックはコーネリアスのことが大好きなんですね。


小山田:うーん、なんか何回も見に来てくれてるね。最初の『ファンタズマ』のツアーでアメリカ行った時に見に来てくれたんだよね。リミックスもやったし。


ーー今回のライブを見て何か言ってました?


小山田:「超久しぶりに見たけど、『ファンタズマ』の曲とか全然今でも新しい」って言ってくれた。歳近いんだよね。ベックは僕の一個下で。ジェイソンも古くからの友だちで、同世代で、けっこう見てきたものも近いんだよね。ジェイソンもオタクで、彼はLAなんだけどイギリスのニュー・ウェーブとか好きで、でも周りにそういうオタクがいないみたいで、僕はそういうの結構詳しいから(笑)。仲良くなって同世代話とかよくしてるの。


ーーベックもジェイソンも同世代で、海を越えてもそういう同世代感覚はある。


小山田:うん、あるね。そういうの。


ーー一方で全然年上の世代のジャクソン・ブラウンも来てたらしいですね。


小山田:来てたね!(笑)。大野さんの友だちなんだけど、コーネリアスのことめっちゃ褒めてくれた。グッズ全買いしてて(笑)。CDも全部買ってくれて。たぶんああいうの、あまり見たことないんじゃないかな。すごくびっくりしてた。「どうやってんの?」って。


ーーなるほど。ボン・イヴェールのフェスはどんな感じだったんですか。


小山田:山の中のフェスで、1万人~2万人ぐらいいたのかな。たぶんお客さんは僕らのことほとんど知らなかったと思うけど、日本人とかほとんど見なかったし。でもいいフェスだったよ。


ーーほかに印象に残ったところは?


小山田:コロラドも良かった。チボ・マットの(本田)ゆかさんと、ヨーコさんの娘さんのキョーコさんが来てくれて。


ーーえ、「Don’t Worry Kyoko」(ヨーコ・オノ1971年の曲)のキョーコさん?


小山田:そうそう。ドントウォーリーキョーコが一家で来てくれて、すごく喜んでくれたので良かった。


ーーなるほど。久々に海外でツアーをやって、コーネリアスのバンドとしてのカンを取り戻したというのもあるだろうし…。


小山田:うんうん。


ーー来たるべき新作アルバムに向けての地ならしでもあったし、大野さんを新たに迎えての新生コーネリアスをうまく立ち上げることができた。いろんな意義があったと思います。


小山田:そうだね。うん。ちょいちょいやんないとなあ、と思った。うっかりしてるとほんと、8年とかすぐたっちゃうから(笑)。


ーーほんとに。


小山田:だからやれるうちにやっといた方がいいなと。うん。だからこのタイミングでライブができたのは良かったと思います。


■「曲はだいたい揃った」


ーー念のためにお訊きしますが、今回の『CORNELIUS PERFORMING “FANTASMA”』ツアーを日本でやる予定はないんですか。


小山田:いやあ、今のところはないですね。


ーー日本でやるなら新曲など新しいものを見せたい、ということですか。


小山田:ツアーしてる場合じゃないっていう感じも。作品を作らなきゃ。


ーーコーネリアスとしてのニュー・アルバムということですね。進行の具合はどうなんでしょう。


小山田:えーと、どれぐらいなんだろう? 音だけで言ったら70~80%行ったかな…まだミックスしてないから70ぐらいか。


ーーミックスに時間がかなりそうですからね。曲は揃ったんですか。


小山田:曲はだいたい揃った。


ーーじゃあアルバムの全貌も見えてきた。


小山田:なんとなく。


ーー言える範囲で、どんなものになりそうですか。


小山田:どうなんだろう…歌ものが多い、感じかな。それがコンセプトというよりは、結果としてそうなったというか。あとなんだろうねえ…まああんま言わないほうがいいかな(笑)。


ーー来年にはなんとかなりそうですか。


小山田:うん、来年にはなんとしても。それからツアーだね。


ーーそこで久々に日本のファンにお披露目。


小山田:いいタイミングでやれれば。


ーー期待してます。できれば春ぐらいまでに出して、夏は大きなフェスに出てほしいですね。2002年フジロックのライブは未だに語りぐさです。


小山田:ねえ。なんとかしたいなあ…。