雑誌やネットの「住みたい街ランキング」などで度々目にするあの街。全国的な知名度を持つブランドと化しているが、実際の住民や不動産業者の証言などから、住みたい街の意外な実情を探ってみた。(取材・文:伊藤綾)
■急ピッチの再開発にインフラ面が追いつかず 武蔵小杉
2007年頃から官民一体の再開発で駅の近くにタワーマンションが乱立し、新住民が一気に流入した武蔵小杉。分譲価格や賃貸物件の相場は決して安くないが、それでも武蔵小杉が選ばれる理由が電車の便の良さだ。
新駅が開業しJR横須賀線や湘南新宿ライン、成田エクスプレス、スーパービュー踊り子まで停車するため、品川駅や東京駅、新宿駅にも乗り換えなしで行ける夢の駅である。
現在、再開発は駅の北側へとシフトし、相鉄・東急直通の鉄道新線工事は2019年4月の開業を予定。一旦は落ち着いたと思われた不動産価格もまた最近になって上昇傾向にあるという。
しかし、一方で駅の処理能力問題が深刻化している。駐輪場も慢性的に足りておらず、新駅と東横線の両駅の中間エリアでなければ、駅内の移動に最低5分は余計に見積もりたい。
また、住宅地から駅までの導線も細く、武蔵小杉周辺には府中街道、中原街道、綱島街道と三本の幹線道路が存在しているが、いずれも片側一車線が基本と貧弱。拡幅計画も存在するが、歩道の整備も不十分な現状で脇をひっきりなしに車が通り過ぎていくだけに、時には身の危険を感じることもある。
■ポテンシャルの高さゆえに弱点が目立つ 吉祥寺
吉祥寺の魅力はまず、首都圏最強とも目される交通アクセスの良さ。始発駅である京王井の頭線に加え、JR総武線、東京メトロ東西線も隣駅の三鷹始発のため、ラッシュ時でも比較的座りやすい。
さらにヨドバシ裏の風俗街から公園まで、街がコンパクトにまとまっており、老若男女にとって住みやすい。お店も高級店から激安店まで実に懐が深い。2020年を目処にした再開発で東八道路の拡幅工事も行われ、ネックだった車移動の利便性も向上する見込みだ。
そのポテンシャルは高く、吉祥寺ブランドにこだわり引越しを繰り返す層も未だ一定数いるようだが、駅近2LDKなら15万円は下らないブランド力を背景に、バスで駅まで20分といった、吉祥寺とは到底言えないような"詐称地域"まで存在する。
その路線バスの充実度も吉祥寺の魅力だが、利用者の多さから朝のラッシュ時などは乗車拒否されることもあるという。また三鷹市・武蔵野市ともに市役所が駅から遠く、40リットル10枚で800円の指定ゴミ袋もボディブローのように家計を圧迫する。
子育て世代は吉祥寺駅でも、住民税の納付率が高く、小中一貫教育など教育施策に熱心な三鷹市側や隣駅の三鷹駅に流れる傾向も。
■高級店ばかりでパフォーマンスは微妙 中目黒
東急東横線はハイセンスでお洒落な路線のイメージが強いが、その代表格とも言える駅が中目黒駅だろう。しかし、そのハイソな土地柄に起因する不便さがつきまとう。
とにかく飲食店やスーパーなど物価が高い。スーパーに珍しい洋酒やスパイスなどが売っており確かに楽しいのだが、値段は隣の三軒茶屋などと比べると随分高い気がしてしまう。
お店に入ればビール一杯で1000円近くする店もザラだ。住民には単身の若い会社員も多いが、せっかくのお洒落で美味しい店も、夕食に一人で気軽に入れるようなお店となると少なく、結局、松屋や大戸屋といった数店のチェーン店で済ませる人も多いのだとか。一般的な価格帯のお店やスーパーもあるにはあるが、街のパフォーマンスとしてはやはり疑問符がつく。
それでも物価高をもろともしない層にとっては住みやすいとされているが、空き巣やひったくり被害も少なくない。渋谷など繁華街が近く、車移動の利便性が高いなどの側面はあるにせよ、ちょっとコンビニにジャージで行くみたいなことは街の雰囲気的にしづらいため、定住率は意外と低いようである。
いずれの街もその人気に見合う魅力があることは確かだが、その人気に起因する弊害を感じる住民は少なくないようだ。注目を集める街なだけに、厳しい評価を下されてしまう一面もあるのだろうが、イメージや世間の評価を鵜呑みにしすぎないことが、肝要なようである。
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