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緊迫のトップ4バトル。ロズベルグが0.5秒差でリカルドを抑え、ランクトップ返り咲き

2016年09月19日 00:21  AUTOSPORT web

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F1第15戦シンガポールGPはスタートでクラッシュがあり、1周目からセーフティカーが入る波乱となったが、その後は各ドライバーのタイヤ戦略が分かれ、トップ4台が接近戦に。最後はニコ・ロズベルグが追い上げるダニエル・リカルドを抑え、ドライバーズランキングトップに返り咲く優勝を果たした。

 夜の帳が落ちてもなお、シンガポールには熱気と湿気が渦巻いている。未明に激しいスコールが降り、路面は再びグリーン。これが各チームのレースペースにどのような影響を及ぼすか未知数のまま、決勝の時を迎えることになった。

 予選10位のセルジオ・ペレスは予選中の黄旗追い越しと減速不充分で計8グリッド降格のペナルティを科され18番グリッド、Q2でクラッシュしたロマン・グロージャンはギヤボックス交換のため5グリッド降格を受け、決勝ではスタートできず0周リタイア、予選最下位に終わったセバスチャン・ベッテルはシーズンの今後を考えて6基目の新品パワーユニット(ICE、TC、MGU-H)を投入し、ギヤボックスも交換したが実質ペナルティなしで最後尾グリッドから決勝に臨んだ。

 スタートではポールポジションのニコ・ロズベルグが順当に首位を守ったが、その後方で好スタート切ったニコ・ヒュルケンベルグが前方のカルロス・サインツと接触し、イン側のウォールにクラッシュ。すぐさまセーフティカー導入となった。

「トロロッソの2台にサンドイッチされたんだ……」と無線のヒュルケンベルグ。

 スタートが遅れたマックス・フェルスタッペンは目の前をヒュルケンベルグに横切られ、8位まで後退。逆にフェルナンド・アロンソは混乱を上手くすり抜けて5位まで浮上し、その後方にトロロッソ勢が続いた。

 トロロッソのガレージから、「カルロス、マシンにダメージは?」との無線に、「外から見ないと分からない、でも問題は感じられないよ」と応えるサインツ。しかし、実際にはバージボードとサイドポッドにダメージを負っていた。「車体右側にダメージがある。アンダーステアになることが予想される」とチーム。

 上位争いはトップのロズベルグ、2番手ダニエル・リカルド、その後にルイス・ハミルトン、キミ・ライコネンの上位4台が逃げ、上位よりペースが1.5秒遅い5位アロンソに後続が押さえ込まれる形となる。

 サインツにはレースコントロールからオレンジボールを提示され、7周目にピットインしてパーツを取り外すと同時にスーパーソフトへ交換し18位まで後退した。

 一方、メルセデスAMG勢はブレーキの過熱に苦しみ始めていた。「ニコ、これは深刻だ。本当にブレーキマネージメントが必要だ」とのチームの指示は、ハミルトンにも同様に発せられた。

 13周目のフェルスタッペンを皮切りに各車が1回目のピットストップを迎え、15周目に2位リカルドと3位ハミルトンが同時ピットイン。ハミルトンはこれに不満を訴える。

「カモン! (同時じゃなく)抜ける戦略にしてくれよ!」

 翌16周目にピットインしたロズベルグは4.3秒を要したものの難なく首位を守った。ただし、多くがスーパーソフトを履いたのに対し、メルセデスAMG勢だけはソフトタイヤを履いた。「別のプランを考えてくれ! このブレーキ状況じゃこのペースが最大限だ」とハミルトン。

 後方からはライコネンが迫り、いよいよ状況は切迫する。「ハミルトンはまだブレーキの問題に苦しんでいるというメッセージを受け取ったぞ」とフェラーリがライコネンに連絡。首位のロズベルグも同様にブレーキに不安を抱えている状況だった。

「ニコ、もう少しブレーキマネージメントをしてくれ」

 そして33周目のターン7でハミルトンがロックさせてコースをオーバーランし、一気に差を縮めたライコネンがターン10でインを突いてオーバーテイクに成功した。

「素晴らしい仕事だ、キミ!」チームから無線が飛ぶ。

 同時に2回目のピットストップ始まり、ここでも順位の変動は見られない。そこでメルセデスAMG陣営が動いた。

「OKルイス、プランBに変更する。ライコネンを捕まえよう」

 この無線を受けてハミルトンは一気にペースを0.7秒ほど上げ、ライコネンとの差を縮めていく。そして45周目に先にピットに飛び込み、1周使っただけのほぼ新品のスーパーソフトに交換し猛プッシュを見せる。ソフトタイヤで最後まで走り切る“プランA"ではなく、3ストップで攻める戦略を選んだのだ。

 逆にフェラーリ陣営は「この周ピットインするのか!?」というライコネンの問い掛けに「伝える、伝えるから!」とうろたえる。結局46周目にピットインしてウルトラソフトを履いたものの、ハミルトンにアンダーカットされて再逆転を許してしまい、3位表彰台を獲り逃してしまった。

 一方、ロズベルグの楽勝かと思われた優勝争いもここから動いた。

 47周目にリカルドがピットインし、翌48周目にロズベルグも入る予定だった。しかしトラフィックに捕まってタイムロスを喫し、このままではリカルドのアンダーカットを許しかねないという瀬戸際の判断でステイアウトを選択したのだ。

「ストラット5(燃料リッチモード)にしてオーバーテイクボタンも使え。ハードにプッシュしてピットインだ。(周回遅れのフェリペ)ナスルを上手く処理する必要がある……いや、ステイアウト、ステイアウト!」と混乱気味のメルセデス陣営。

 これでロズベルグはソフトタイヤを最後まで28周保たせる必要に迫られ、後方からスーパーソフトで走るリカルドより2.5秒も遅いペースで走らなければならなかった。28秒あった両者のギャップは見る間に縮まっていった。リカルドは追い上げながらもコース上でのオーバーテイクに備えていた。

「ロズベルグに急速に追い付いてきている。しっかり最後にタイヤのグリップを残しておくのを忘れるな」とレッドブルチームからリカルドに無線が飛ぶ。

 しかし、メルセデスAMG陣営にはまだ奥の手があった。セーブしていたブレーキを、最後の数周だけはフルに使うことにしたのだ。

「最後にブレーキはどのくらい使っても大丈夫?」とロズベルグ。「最後には絶対に使わせてあげるよ」とチーム。

 ギャップが5秒を切った57周目、残り5周の時点でゴーサインが出され、ロズベルグは0.7秒のペースアップ。最後にロズベルグがバックマーカーに捕まってリカルドが背後に迫ったが、最後は0.488秒届かずロズベルグが逃げ切って自身200戦目のグランプリを勝利で飾った。

 後方では最後尾スタートのベッテルがウルトラソフトを2セット使う2ストップ作戦で5位まで追い上げて「みんなありがとう、素晴らしいリカバリーだった!」と会心のレース。スタートで8位まで後退したフェルスタッペンも二度にわたってターン7~8で果敢なオーバーテイクを見せてダニール・クビアトとセルジオ・ペレス、アロンソを逆転して6位を獲得した。

 アロンソは最初のピットストップでもフェルスタッペンの前に留まり、長く実質6位のポジションを堅持。ロズベルグ同様に2ストップ作戦でソフトタイヤを最後まで保たせたものの、自力に勝るフェルスタッペンは抑え切れず。

 それでも、アロンソは1周目のセーフティカー中にタイヤ交換義務を果たしソフト2セットで実質1ストップの奇策に出たペレスを充分に抑え切って3強6台の後ろで7位入賞を果たした。

「まだP7だ、後ろのペレスは16秒差、抜かれる恐れはない。残り7周、タイヤをマネージしてダッシュボードのデルタ(燃費表示)だけマイナスをキープしてくれ」とチームからの無線に、アロンソは驚きを持って応えた。「あぁ、初めてシンガポールで上位に何も起きなかった。信じられないね!」