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メトロノームがいよいよ復活! テクノへのこだわりとV系的世界観でメジャーシーンに挑む

2016年09月18日 15:01  リアルサウンド

リアルサウンド

メトロノーム

 ゼロ年代初頭、90年代に一世を風靡したヴィジュアル系が世間的には〈オワコン〉の極みだった頃、インディーズでは様々なバンドたちが胎動し、当時のヴィジュアル系シーンはある意味「豊か」だったように思う。


 市川哲史氏との対談でも言及したように、(参考:LUNA SEAの“ROSIER”はまさに〈VISUAL SHOCK〉だった 市川哲史×藤谷千明〈V系〉対談)、ヴィジュアル系ブーム後のインディーズシーンはかなり雑多な「ヴィジュアル系」バンドが群雄割拠していた。


 その中でもとびぬけて〈異質〉であったのがメトロノームだ。


 98年、高校の同級生だったシャラクとフクスケによって結成され、01年にリウ(TALBO-2)、ユウイチロー(DRUM)が加入したあたりから、 V系シーンで頭角を表してくるようになる。


 『不機嫌なアンドロイド(02年)』『1メトロノーム(03年)』で注目を集め、『UNKNOWN (04年)』はNARASAKI氏(COALTAR OF THE DEEPERS・特撮他)プロデュースということでも話題を呼んだ。


 07年にユウイチローからシンタロウへ、ドラマーの交代はありつつも、リリースや動員は右肩上がりで、10周年は今はなきSHIBUYA-AX、09年に「現時点では新しいものを生み出すことが出来ない(参照:http://www.artpop.org/meto21/info.html)」という理由で無期限の活動休止を宣言し、渋谷C.C.Lemonホール(現・渋谷公会堂)のワンマン公演で活動を一旦停止させた。その時のツアータイトルは『Please Push Pause』、そして9月19日に東京・Zepp Tokyoで行われる復活ライブのタイトルは『Please Push Play』。


 当初「21世紀型宗教音楽 メトロノーム」と名乗っており、〈05年から来た〉という「いかにも」な設定を掲げ、メンバー表記は「VOICECORDER(シャラク)」「TALBO-1(フクスケ)」「TALBO-2(リウ)」。先述の活休ライブと再始動ライブのタイトルをみてもわかるように、P-MODELや有頂天に影響を受け、世が世なら〈ナゴム系〉の範疇に入りそうなテクノポップ・ニューウェーブサウンドとV系的な切ないメロディも垣間みえ、そこにボーカルのシャラクの気の抜けたボーカルと、後ろ向きな歌詞が乗る。


 テクノへのこだわりとV系的世界観の両立がメトロノームの面白さなのだ。


 テクノ馬鹿と馬鹿テクで構成されたバンドが何故かヴィジュアル系シーン(ちなみに初ライブはヴィジュアル系の老舗ライブハウス、池袋サイバーである)で10年以上活動していたというのも今考えると不思議な話なのだが、〈異質〉ではあったけれど、決して〈異端〉ではなかったし、『フールズ・メイト』や『SHOXX』といったヴィジュアル系専門誌に出て、ヴィジュアル系イベントにも普通に出演していた(そして結構人気があった)。それがゼロ年代ヴィジュアル系シーンの「豊かさ」の象徴だったように思える。


 だが、しかし、あの時代のヴィジュアル系シーンはある種の〈箱庭〉であり、その面白さがV系村の「外部」に響くことは少なかった(これを閉鎖的ととるむきもあるが、箱庭だったからこそ育った文化もあるので私は一概に悪だとは思わないけれど)。


 活動休止後、シャラクと解散時のドラム、シンタロウ(当時の表記・新太郎)はパンクバンドGalapagosSとして「ヴィジュアル系シーン」から距離を置いた活動をしていたのも、〈箱庭〉の外に出たかったのかもしれない。


 さて、この活動休止中の間、シャラクは前述のGalapagosS以外にもメトロノーム活動休止前から平行して活動していたユニット・FLOPPYなど、リウは自身のソロと平行してケラ&ザ・シンセサイザーズなどで活躍。フクスケはやはりこちらも活休前からやっていたADAPTER。の活動を本格化させ、アニメ『BRAVE10』のEDも担当するなど、それぞれのフィールドでそれぞれの活動をしていた。


 そんなわけで、「無期限活動休止」の「無期限」がいつまでなのかは誰にもわからなかったし、正直私はこの「復活劇」は寝耳に水だった。そこに追い打ちをかけるように、キングレコードからのメジャーデビューという驚くべきニュースも入ってきた。


 THE SLUT BANKS、ベッド・イン、そしてメトロノームがメジャーデビューする今年のキングレコードはいい意味でどうかしているのだが……、それはさておき、状況をみるにこの「復活」が一時的な同窓会気分でやっているものではないというのは明らかだ。


 この7年間のソロなどで広がった活動の幅の成果もメトロノームに反映してほしい(先日配布されたフリーペーパー『POPUNITED』によると、ソロの音楽性を反映するよりも「ファンの望む”メトロノーム”」をやりたいそうだが)。


 9月21日に発売される『解離性同一人物』のリードトラックが公開されているのだが、タイトルもさながら歌詞が本当に後ろ向きで、復活第一弾シングルの歌い出しが〈君の記憶している僕と 僕の把握している僕は まるで別人のように存在が乖離している〉なんてバンド、私は他には知らない。思わず笑ってしまったもの、「これがメトロノームだな」って。


 とにかく、メトロノームが「箱庭」の外に出て、この2016年のメジャーシーンで、後ろ向きにおどおどしつつも好き勝手に暴れまわるのを、私は観たいのだ。(藤谷千明)