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挫・人間 下川リオ × 姫乃たま『非現実派宣言』特別対談 「現実を非現実で塗りつぶしていく感じ」

2016年09月17日 23:51  リアルサウンド

リアルサウンド

下川リオ(挫・人間)×姫乃たま(写真=石川真魚)

 挫・人間が、9月21日にミニアルバム『非現実派宣言』をリリースする。今回リアルサウンドでは、ライブでの共演経験があり、プライベートでも交流があるという地下アイドル/ライターの姫乃たまをインタビュアーに迎え、ボーカル・下川リオへ取材を敢行。幅広くユニークなサウンドアプローチで、下川リオの現在の心境を露わにしていく全5曲の聴きどころから、それぞれの活動スタンスまで、同世代ならではのゆるさのなかに鋭いホンネも交じったトークが展開された。(編集部)


■下川「打ち込みはインドアで弱そうな感じがするから、性に合ってる」


姫乃たま(以下、姫乃):ご無沙汰してますー。今日は、いろいろと聞きに来ました……!


下川リオ(以下、下川):あっ、お久しぶりです! 僕、姫乃さんに会う前からFacebookの“友達かも”によく出てきてて、当時のアイコンがえらく扇情的でお世話になっていたので、姫乃さんは何を言ってもセーフな人だと思っています。


姫乃:あっ、あの棒状の飴を舐めている写真。では、安心していろいろ話していただけると!


下川:初めて会った時にエロ本をもらって……。


姫乃:当時私が連載していたエロ本! あの頃はイケイケでした(遠い目)。


下川:でもなんか僕はエロ本をもらったことによって、姫乃さんに連絡をしたりしていいのだろうか、連絡するとしてなんと連絡するのだろうか、「こんにちは! 挫・人間の下川でっす!」とか……いや、そんなことはしてはいけないと思って結局アクションを起こしませんでした。


姫乃:はっ、そういえば私、下川君の連絡先って知らないですね。えーっと、まあ、そんな話はさておき……。『非現実派宣言』リリースおめでとうございます! サウンドが前作の『テレポート・ミュージック』から、さらに打ち込みに寄っていて驚きました。


下川:脱退に次ぐ脱退でついにドラムがいなくなってしまって、最終的に頼れるのは機械だって気が付きました。


姫乃:わあ、想像していたより現実的な理由! てっきりアニメソング好きや、アイドル好きな層に向けて制作したのかと思っていました。


下川:あっ、そういうのはないんです。素直に好きな音楽だけつくりました。打ち込み好きなんです。ピコピコピコピコ……とか、チッチキチッチキ……とか、んふふふ、好きで、聴いてると安心するから、この際、打ち込みをやるチャンスだと思って。ロックバンドの「ガシャーン!」も、格好良いんですけど怖いというか。打ち込みはインドアで弱そうな感じがするから、性に合ってるかもしれません。


姫乃:1曲目の「テクノ番長」も、まさにチッチキチッチキから始まって、「あれっ、このイントロは、まさか……?」と思っていると、超有名なあの曲が、原型が割とごっそりと残っている状態で流れてきて……。


下川:あの曲ってこのくらいまでだったら真似して使って良いのかな?みたいな風潮あるじゃないですか。それでセーフだと思って、最初はもっと使っていたんですけど、アウトでした!


姫乃:わははは。下川君の歌詞も脳にカーン!と響きます。登場する固有名詞にも人柄がでてますよね。


下川:自分に近い言葉を歌うほうが、抜けがいいですよね。普段使わない言葉より、「マジやばい」とかのほうが、わかりやすかったり、印象に残ったり。


姫乃:ほああ、なるほど! 歌詞がキャッチーで強烈なのに、演奏も格好良いので、絶妙なバランスを保っていて、いつもどうやって計算しているのか気になっていたのですが。


下川:えっ、何も考えてない……。歌詞と曲は同時にできることが多くて、こうベースになる曲を打ち込んで、トコトコトコトコトコ……(両手の人差し指でテーブルを叩く音)、それにコードをつけて、その場の勢いで歌います。


姫乃:作曲時の可動範囲が狭い!


下川:めっちゃ狭いです! トコトコトコトコ……。


■姫乃「我々、ポケモン世代ですよね」


姫乃:2曲目「ゲームボーイズメモリー」は、シティポップらしい爽やかなサウンドに、えー、爽やかとは言いがたい歌詞が流行りのラップに乗って……。


下川:いま、シティポップって流行ってるんですよね。でもシティってつくもの全部、なんとなく怖いです。ラップも流行ってますけど、僕のやってるあれは、家の中でみゃんみゃん叫んでみて、後から歌詞をつけてるだけなんです。そう、そもそも最初はタイトルが、「ポケモン言えるから」でした。全然シティポップ感がない。歌詞を作る時ってノスタルジックな気持ちになって、昔好きだったゲームとか漫画に心がリンクしちゃうんです。ほら、僕たちってポケモンと一緒に育ってきたじゃないですか。


姫乃:我々、ポケモン世代ですよね。


下川:いま地元の同級生達がばりばり結婚してるんですよ。結婚しなくても、就職して車持ってたり。それで25才になった僕が何してるかっていうと、ポケモンGOですよ。配信日に自転車で新宿御苑に行ってポケモンゲットしまくりました。Facebook見てるとそんなことしてるの同級生で僕だけなんですよ。それで、僕は昼出歩けないから、夜にお散歩して、すごい遠くまで行って、朝日に照らされながら帰り道で、部活の朝練に通う中学生とか、登校中の小学生とすれ違うんです。そんなとき僕は、とんでもないところまで来てしまったなって思うんです。でも、僕は「いまでもポケモン言えるから!」って自分を肯定したい。


姫乃:次の「☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆」では、下川君が女性になりきることで自分を肯定できている気がします!


下川:まあ、前作の「お兄ちゃんだぁいすき」で、僕は妹になったわけですけど、そろそろ女としての僕はアイドルやりたいなあと。(参考:挫・人間の下川リオが語る、サブカルの屈折「素敵なお兄ちゃんは、僕のことなんか好きにならない」


姫乃:アイドル。


下川:アイドル。アイドルさんとよく対バンさせてもらうんですけど、お客さんが、ぱんっぱぱんっひゅー!ってやるヤツあるじゃないですか。


姫乃:PPPHっていうヲタ芸ですね! あります。


下川:それだけを思って作りました。


姫乃:えっ、なるほど。


下川:これ土壇場でもう一曲収録することになって、二週間くらいで作った曲なんです。


姫乃:土壇場で湧き出てきた下川さんの素の欲望が、アイドルになってPPPHされたいということだったんですね。


下川:そうです。僕は本当に女になりきって歌っているのですが、我に返って聞いたら、めちゃくちゃ気持ち悪いんですよね。ほんと、ゾッとする。親に一番聞かせられない曲です。でも僕、面白いことがやりたいと思ってバンドやってるんですけど、バンドって楽器置いた時の方が面白いじゃないですか。こいつらとうとう辞めたか……みたいな。それで打ち込み中心の、“楽器を置く”曲を作ったんです。


姫乃:楽器でモテようとするGLAYのコピバン野郎は許せないですね。(「何故だ!!!」の歌詞、「初恋のキミはGLAYのコピバン野郎に恋だ! 合体だ! もうダメだ!」より)


下川:僕が駆逐しようと思ってます。高校の時、文化祭のバンドオーディションで、セックス・ピストルズのカバーをしたら、GLAYのコピバンのほうが受かったんです。しかも僕はクラスで、「下川が謎の呪文唱えてる」って言われてて、GLAYのコピバンは最後の曲だけ「リンダリンダ」やってめっちゃ盛り上がってたんですよ! 僕、「ノーフューチャー!!!」って叫びながら、「それ、俺のことだあああ!!」って。


姫乃:まさに4曲目「人生地獄絵図」ですね。


下川:ほんと、それに尽きると思って。


姫乃:でも曲調はポジティブ。あと、歌詞にフラッシュ動画の話題が出ていて世代を感じました。ちょっと懐かしさと妙な恥ずかしさでジタバタした。


下川:メンバー全員、小学生の時にフラッシュにハマってたことがわかったんですよ! 僕たちめちゃくちゃ仲良いんで、ツアー行く車の中で100時間とかノンストップで喋り続けるんですけど、たまに自分たちだけが面白い謎のギャグみたいなものが開発されるんです。その中で、「テレビもねえ、ラジオもねえ、でもパソコンあるあるぅ! パソコンあるあるぅ!!」って叫ぶとめちゃくちゃ面白いことに気づいて、「これハードコアな音楽に合わせたら面白いね」って馬鹿話が実現してしまいました。そして、もう誰も知らないフラッシュのことを大声で歌う自分の声を聞いて、「もう俺はダメだあっ……」と思ったら、サビの「人生地獄絵図~♪」がするっと出てきました。


姫乃:制作に時間がかかった曲ってありますか?


下川:煮詰まることはなかったかもしれないです。そもそも悩むようなことしてない。本当に好きなことだけできました。


姫乃:私はもう「世の中に何か言いたい」みたいな感情が一段落したのですが、挫・人間の曲を聞くと思い出すものがあります。具体的には、みんな死ねえええってなります。


下川:年々、アクは強くなるばかりです。


姫乃:ふふっ、ふふふふ……。


下川:ふふっ、ふふふふ……。


■下川「現実をファンタジー化しないといけない」


姫乃:最後の「愛想笑いは後にして」は、直球のバンドサウンドで、すごく気持ちのいい曲ですよね。これ、逆に不意を打たれるんですよ。急に優しいメロディーが流れてきて、あれっ、私いままで何を聞いてたんだっけ……ってなるんです。


下川:今回はシンプルなバンド編成の曲がこれしかないんですよねー。めちゃくちゃやったから最期に入れておこうって思ったんですけど、逆に一番わけがわからなくなった(笑)。ぼくら本当に仲良くて、サポートでドラム叩いてくれてた爆弾ジョニーのタイチ(サンダー)も仲良いので、一発録りの曲を入れたいねって話になって、歌詞もすんなり書いて、気楽に演奏して歌いました。


姫乃:えっ、一発録りなんですか! すごいクオリティの高さ。アルバムタイトルの『非現実派宣言』は、森高千里さんの『非実力派宣言』が元になっていると思うのですが、どういう意味を込めて決めたんですか。


下川:これは僕に見るべき現実がなくなったって意味です。結局、あんまり僕が好きなものは世間から好かれる方向にないということがわかってきて。ということは、挫・人間が人から受け入れられることは一生ないってことなんですよね。それが現実なんですけど、でもやっぱりそれをひっくり返さなくちゃいけないんで、僕はポケモンにならないといけないんです。僕がポケモンになって、当たり前な存在になりたいっていう弱者なりの強がり。ファンタジーの世界にしか触れてこなかったんで、現実に耐性がないんですよ。呼吸ができないっていうか。でもそこで呼吸をするためには、現実をファンタジー化しないといけないので、現実を非現実で塗りつぶしていく感じですね。僕、現実に向いてない。


■姫乃「不思議と明るい感じがしない」


姫乃:全体的にアップテンポなアルバムですけど、不思議と明るい感じがないですよね。


下川:不良ではなかったんですけどクラスの輪に入れなくて、学校にほとんど行ってなかったので、夜にばっかり生きてました。だから僕の曲って昼感がないんですよね。お日さまがいない。学校って、行かなければ行かないほど行きづらくなって……。


姫乃:滅多に学校行かないと、うやむやに押しつけられてトイレ掃除ばっかりやらされるよね。歌詞に書いてある話ってどこまで実話なんですか?


下川:自分のことを歌ってるやつは全部ほんとです。学校行ってない間に新しいあだ名付けられたり。やっぱりキモ川は衝撃でしたね。あと友達が僕のケータイ番号を「豚」で登録してた。友達のケータイ見て、「あ、豚って俺だ」って思って。


姫乃:九州男児のいたずらは残酷なんだなあ。


下川:男だけじゃなくて、休み時間の10分の間にトイレ行って戻ってきたら、机の上にたくさんギャルから落書きされてたり。ギャルに落書きされて、それを消しゴムで消してる自分を後ろから、冷静な自分が見てて、これ漫画だったら切ないシーンだなって。最初は本当に辛かったんですよ。でも、僕はギャルたちの行為を妄想の中で性的なプレイに置き換えることで、それに対処していたわけです。授業中にクスクスって聞こえてきても、「お前はこの五分の間で俺に◯◯◯◯◯!」って考える。


姫乃:早漏過ぎ! 歌詞にも、ギャルに対するこだわりが見えますよね。


下川:ギャルが好きなんですよね、ここまで来ると。中高一貫校だったんで、逃げられなかったし。


姫乃:あっ、大学は……。


下川:卒業しました。


姫乃:わあ、おめでとうございます! 大学卒業して環境は変わりましたか?


下川:周りのバンドが、この時期にいっせいに減りましたね。みんな辞めた。


姫乃:あー。


(姫乃たま)