2016年09月17日 08:12 弁護士ドットコム
安保法制が国会で可決・成立して1年を迎えるのを前に、東京の3弁護士会(東京、第一東京、第二東京)は9月16日、東京・霞が関の弁護士会館で、安保法制と特定秘密保護法の問題点について話し合うシンポジウムを開催した。
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「日本会議の正体」などの著者であるジャーナリストの青木理氏や、ドイツ近現代史を専門とする石田勇治東京大学教授らが登壇し、「もし、海外活動によって自衛隊員に死者が出たらどんな事態になるのか」といった今後起こりうる問題について、意見を交わした。
これまで、自衛隊はインフラ整備などの活動に徹し、一人の死者も出していないが、安全保障関連法が施行されることで、自衛隊の任務は拡大され、隊員が危険に直面する可能性が指摘されている。
青木氏は、自衛隊の海外活動によって、自衛隊に死者が出るような事態に起きた際、「(世論が)おかしな方向に、一気に流れていくことを気にしている」と語った。
「メディアの現場にいたので、(海外活動で自衛隊員に死者が出たとき)どんな報道になるのかよく想像する。『戦後71年、初の自衛隊員の戦死者』といった報道で、テレビも新聞も一色に染まるだろう。そのとき、『安保法制のせいだったのではないか』という議論は成り立たない。今の日本社会のムードだと、そんなこと言った瞬間に国賊扱いになる。『自衛官の死を無駄にするのか』と徹底的に批判されるだろう。
その時、何が起きるのか。ただでさえ同調圧力の強いこの社会で、『特定秘密保護法で、自衛隊の活動をもっと秘密にしなければならない』『治安組織の能力を強めなければならない』という方向に、社会が一気に流れていくことにならないか」
石田教授は、平和憲法のもとにあったワイマール共和国(ドイツ)において、ナチスが支持を拡大するために「(第一次世界大戦の)死者を巧妙に利用した」と指摘し、日本で同じような事態が起きることに危機感を示した。
「ワイマール憲法は平和を強く打ち出しており、政府は戦死者を称えることに消極的だった。傷痍軍人の扱いなどについて、戦争の礼賛につながるようなことを拒否してきた。ナチスはそうした死者を讃えようとした。『戦死者をなおざりにしている』と現政権を徹底的に批判して、多くの戦争の犠牲者の共感を得ていった」。
また、憲法改正を正当化する意見として、「ドイツにも緊急事態条項がある」「ドイツの基本法(憲法)も何度も改正している」いった指摘があることについて、「論外だ」と批判した。
「ドイツの基本法にも、絶対に変えてはならない永久不変条項がある。その中には、人間の尊厳、基本的人権、権力の分立などが定められている。そうした点に触れずに、『ドイツも憲法を変えてきた。だから日本も変えるべきだ』というのは論外だ。ドイツが絶対に手をつけてはならないとしている部分について、自民党の改憲草案は手をつけようとしているように私には見える」。
(弁護士ドットコムニュース)