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GTドライバーの心拍数と速さとの因果関係は? 日大医学部チームが論文発表

2016年09月16日 21:01  AUTOSPORT web

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鈴鹿を走るフォーラムエンジニアリング ADVAN GT-R。GTドライバーが非常に高い心拍数でマシンをドライブしていることが検証された。
毎戦、15台のマシンによって驚異的なスピードのなか、激しいレースが展開されているスーパーGT500クラス。“世界最速のGTカー”と呼ばれるマシンのコクピットで、ドライバーはどんな身体的負担を強いられているのか。それを調べた非常に興味深い研究論文が、日本大学医学部の柳田亮助教のチームから発表された。

 この論文は、2011年スーパーGT第4戦~12年全戦という期間、ドライバー、チーム、GTアソシエイションの協力を得て、当時のGT500クラス、GT300クラスに参戦していたドライバー7チーム15名からデータを取得。そのデータをもとに解析し、プロのレーシングドライバーの心拍数がいったいどれほど高いのか、また心拍数が高い要因はなんなのかを、科学的に解明しようという目的のものだ。

 当然、プロのレーシングドライバーは心拍数を計る計器はふだん装着していない。決勝レース中はなおさらだ。こういった形でプロドライバーの公式戦のデータを取得することは大変難しく、「世界中の医学研究を検索しても、これほどの人数のプロドライバーのデータを集めた研究はありません」という貴重なものだ。

 研究の結果、柳田助教のチームが解明したものは、下記の内容だという。

(1)各ラウンドごとの決勝レース中の平均心拍数を測定(心拍数が測定できたドライバーの平均)。最も平均心拍数が高かったのは2012年SUGO(伊藤大輔/大嶋和也組ENEOS SUSTINA SC430が優勝)で、177.6bpm。また、全ラウンドの平均は164.5bpmで、この心拍数を約1時間維持しているレーシングドライバーの身体負荷はやはり高強度であることが証明された。

(2)ラップタイムと心拍数に相関関係があった。つまりラップタイムが速いほど、レース中の平均心拍数が高いと科学的に証明された。G(重力)が最も心拍数に強く影響すると推察される。速く走るには、心拍数を上げる能力が必要か。

(3)レース中の車内の温湿度も測定。車内温度で最も高かったのは54.5℃。車内温度が高いほど心拍数も高くなると予想したが、車内温度と心拍数に相関関係はなかった。これは、クールスーツやGT500クラスのクーリングシステムが十分に効果があるためだと推測される。

(4)ウエットコンディションにおける心拍数の違いを検討。ウエットでは滑りやすい状況なので、心理的負荷が大きく、心拍数が高くなると予想したが、ドライと比較してウエットでは有意に心拍数は低いという結果となった。プロドライバーでは、ラップタイム、つまり重力の影響がやはり大きいと推測される。

 柳田助教は「今回、論文を発表することで、レーシングドライバーのアスリートとしての側面を科学的に証明できました。まだまだモータースポーツの医学研究は発展途上だと思いますので、今後も医学研究をすすめ、いろいろと科学的に分析したいと思います。そして、モータースポーツのスポーツとしての認知度を少しでも向上できればと思います」という。

 ちなみに、“柳田”という苗字でピンと来た方はご名答。柳田亮助教はスーパーGT500クラスでフォーラムエンジニアリング ADVAN GT-Rを駆り活躍する柳田真孝の弟なのだ。

 論文は有料での購入が必要で、かつ世界中の研究者に読んでもらえるよう英語で綴られているので、読解には英語力が必要だ。ただ、非常に興味深い論文なので、ぜひご一読をお勧めしたい。

 論文は下記サイトから購読が可能だ。
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs12199-016-0544-0