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THE NOVEMBERSのライブから目が離せない理由 「タフさ」と「品性」から読み解く

2016年09月16日 16:41  リアルサウンド

リアルサウンド

THE NOVEMBERS(撮影=Yusuke Yamatani)

 最近、THE NOVEMBERSのライブから目が離せない。もちろん面白いバンドやいいバンドはたくさんいるが、ことライブ活動において気になるのが彼ら。自主企画イベントで鮮烈な動きを見せている。しかも短期間で集中的に強い発信を続けている。


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 その自主企画イベントの名前は『首』という。MEAT EATERSの曲名から取ったものだ。2006年にスタートしてから不定期に続いてきたが、結成11年目の今年に入って急激に活性化。小林祐介(ボーカル&ギター)は「本当に自分がそのイベントをずっと見ていたいかと思えるか」という一点に焦点を絞り、共演したい相手を選んでいった。


 まず5月の『首 Vol.10』にはBorisとKlan Aileen。6月の『首 Vol.11』にはMONOとROTH BART BARONが招かれた。それぞれ世代はだいぶ違うが、強烈なオリジナリティを持ち、その音に壮大なロマンや野心を託すオルタナ界の才人たちだ。僕たちの志もまた同じところにあるのです、という小林の声がはっきりと聞こえてくるようだった。また、7月にはArt-Schoolとの共催、8月に入ると『首』はacid androidとの共同企画、ゲストDJに石野卓球という異種交流パーティーに発展していく。だが居場所が違っても根っこは同じだ。卓球は80’sニューウェイヴ/ボディ・ミュージック縛りのDJで沸かせ、最後に高松(THE NOVEMBERS)とyukihiroはゲストの土屋昌巳らとデペッシュ・モードのカバーバンドでプレイ。憧れの先輩たちと共演できた喜びはもちろんあるだろう。自分たちもニューウェイヴをルーツに持ち、その精神を受け継ぐ存在でありたいという自覚も同時にあったはずである。


 要するに、タフになったのだと思う。THE NOVEMBERSが所属レーベルを離れて独立したのは2013年のことで、以降はニューウェイヴ/ポストパンク方向に振り切った力作が続いているが、音は精神とリンクする。気の合う同世代と集まって、なんとなく音楽性の近しいバンドでつるむことにも飽きるだろう。もっと広い舞台に立ちたい、どんな相手でも怯まない自信を持ちたい。近年のTHE NOVEMBERSにはそういう野心を強く感じるし、以前はどこか芯が弱かったライブもどんどん威風堂々としたものに変わっている。だからこそ、一番見たかったのがこれだ。


 9月11日、渋谷クラブクアトロで『首 Vol.13』を見た。


 ゲストはThe Birthday。これまでの共演者なら、オルタナやニューウェイヴの精神、良くも悪くも「王道からはみ出てナンボ」の価値観で語り合うことができたが、今回ばかりは役者が違う。ロックンロールの王道を走り続け、ロックンロールだけに人生を賭けているベテラン4人組に対して、(彼らから見れば)若手の THE NOVEMBERSはどう出るのかを知りたかった。


 まず、今のThe Birthdayは説得力が違う。チバユウスケ史上最も絶好調な時期が続いていると断言できるくらい、どこにも隙がなく、かつピリピリしすぎてもいない余裕を感じさせる爆音。野性味たっぷりに吠え、少しの切なさを匂わせつつ、一転して豪胆なセッション、そこからポジティブな天国へと突き進みスカッと終わっていく流れも申し分ない。ラストの「声」が終わった後は、笑顔の客が次々退席し、フロアはガラガラになっていたのだった(実際には帰ったのではなく、トイレあるいはタバコ休憩。The Birthdayの客は今どき信じられないほど喫煙率が高い!)。


 そしてTHE NOVEMBERSだ。爆音には爆音で対抗しようというのなら、どうやっても不利だろう。それくらいバースディの出音は強靭である。ではファンに馴染みの勝負曲ならいいかと言えば、それに該当する一曲が何なのかも思いつかないのだが……。果たして、最初に鳴らされたのはまっさらな新曲だった。うわ、こう来るか、と驚く。


 その新曲「Hallelujah」は、今月21日に発売を控えている最新アルバムのオープニング・ナンバーだ。柔らかなアルペジオから始まり、心臓の鼓動のようなリズムが加わり、中性的な小林のボーカルが天国に誘ってくれる美しい一曲。メロディも唱法もとろけるように綺麗だから、まかり間違うとこのまま現実に戻れなくなるのではと不安になるくらいの、美しさと怖さが同居した楽曲でもある。ファンもまだ知らない曲からスタートさせることで、会場の空気はモヤッとする。The Birthdayが真っ白に炎上させた後の空間に、また違う霧が出てくる感覚だ。なるほど、上手い。そこからクールに疾走する「Figure 0」へ、さらに新曲から猛烈なハードナンバーを叩き込んでいく。気づけば場の空気はすっかりTHE NOVEMBERSのモノになっていた。


 The Birthdayが剛のバンドであるがゆえに、THE NOVEMBERSは柔のバンドだとよくわかる瞬間だった。叙情的なニューウェイヴ路線も得意だし、疾走感のあるロックナンバーもある。さらには地獄に引きずり込むダークなサイケデリックも。そして小林祐介は絶叫とファルセットと地の声を巧みに使い分け、どんな時でも「しっかり歌える」シンガーだ。これは多くのニューウェイヴ系バンドの弱点でもあるのだが、バンドの中でなんとなく雰囲気のある声は出せるけれど、別の場所に行くと歌い手としてさっぱり使えないタイプが多いのだ。だが小林はもっと強い。高音域でもヘタらない喉を持っているし、そもそもメロディに対する敬意の払い方が違うのかもしれない。洋楽だけでなく、L’Arc~en~CielやCharaからの影響も公言している彼は、その気になれば歌謡曲/J-ロックの世界でも通用するメロディを書くだろう。中盤には、ニューアルバムからさらなる新曲「風」も披露。びっくりするほど爽やかでキラキラしたポップネス、それを演奏することに何の照れも見せない4人の佇まいが、ことさら印象的だった。


 漆黒のリフレインが平衡感覚を狂わせる「鉄の夢」、ノイズの洪水が理性のタガを外す「Blood Music.1985」、さらには轟音が渦巻く最新シングルの「黒い虹」など、後半は圧倒的なダークネスが吹き荒れる。こうして一言解説を添えていくと暗黒のゴスパーティーみたいだが、空気がまったく淀んでいないのも痛快だった。音像はゴシックに近いが、ゴスにつきもののドロドロした腐臭がない。むしろ清々しい生命力や開放感を覚えるくらいだ。


 小林祐介は常々「マイナーコードでもノイジーでも自分にとって美しいものを作っている」と公言しているが、まさに本心だろう。露悪趣味で不協和音を選択するような、悪食の精神とは真逆。真剣で、率直で、快感や美に対してまっすぐ素直なのだ。ある種の健全さといってもいいが、これが過去のニューウェイヴ系バンドとの大きな違いだろう。The Birthdayに精一杯の謝辞を述べ、観客に「ありがとうございました」と深く頭を下げ、ラスト・ナンバーの「今日も生きたね」を演奏する姿が、とても美しかった。


 音は確かに振りきれている。中庸など糞食らえという精神もあるだろう。ただ、表現が極端になればなるほど「真似できない変態性」が浮かび上がるケースは多いが、THE NOVEMBERSは今の方向に進めば進むほど「真面目な品性」が見えてくる不思議なバンドだ。結成11年目といえば決して若くないが、急激に面白くなってきたのはここ3~4年の話。まだまだ、ピークはこれからだ。(石井恵梨子)