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「死刑廃止論」被害者遺族との向き合い方を議論「社会全体で考えるべき」

2016年09月16日 11:22  弁護士ドットコム

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東京弁護士会は9月15日、東京・霞が関の弁護士会館で、犯罪被害者の遺族と死刑制度のあり方について考えるシンポジウムを開催した(共催:日本弁護士連合会、関東弁護士連合会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会)。地下鉄サリン事件の被害者遺族である高橋シズヱさんと中央大学法科大学院の井田良教授(刑事法)、日弁連死刑廃止検討会委員会事務局長の小川原優之弁護士が登壇し、死刑制度のあり方について議論した。


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●被害者遺族との「すれ違い」はなぜ生じるのか?

刑事裁判の判決が「国民感情とずれている」と批判されることは少なくない。なぜ、こうしたすれちがいが生じるのか。井田教授は犯罪の「刑法が保護し、実現することはあくまで公益だ」と指摘した。


「(被害に見合った刑罰が科されるべきという)遺族らの被害感情をそのまま反映した判決は、私益を実現することになる。被害感情は犯人の責任の重さをはかるための間接的な資料にはなるが、量刑を決める決定的な要素と考えてはならない」。


一方で、「医学がいくら進歩しても救えない病気があるように、刑法でも、期待を寄せても応えられない部分がある。被害感情が、刑を重くすることに向けられる限り、(被害者遺族と)法律専門家との溝は深まらざるをえない。どこか同じ方向を向くことができる道筋はないのか」と悩みを語った。


●高橋さん「極刑、死刑以外ありえない」

サリン事件で霞ヶ関駅の助役だった夫を亡くした高橋さんは、「私が『極刑を求める』と考えたとき、それは死刑以外に考えられない」と述べた。8割が「死刑もやむを得ない」と答えた2014年の内閣府の世論調査を例に、国民の多くは死刑制度の存続を望んでいることを語った。


「『調べ方がおかしい』といった意見もあるが、8割は8割だ。(国民が判断する)裁判員裁判でも、死刑を認める判決は多く出ている。世論が、死刑を廃止するべきという考えに変わったと言えるのは、裁判員裁判で(死刑を回避する)判断をしたときではないか」。


●「自分の家族が殺されたとしても、同じことがいえるのか」何度も問われてきた

オウム真理教元代表・松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚の刑事裁判で、1審の弁護人をつとめた小川原弁護士は、死刑制度の廃止を訴えた際、死刑存続派の人から「自分の家族が殺されたとしても、同じことがいえるのか」と何度も問われてきたという。


小川原弁護士は、「被害者の遺族が死刑を望んだとしても、それは自然な感情だと思う」としつつも、「制度としても死刑を維持するかどうかは、別に考えなければならない。社会全体で議論していく必要がある」と指摘。そのために、死刑執行への立ち会いなど、死刑の現状についての情報を、マスコミがもっと発信していく必要があると語った。


(弁護士ドットコムニュース)