トップへ

アンチ・ヒーローたちの下克上!? アメコミ映画の新局面を切りひらいた『スーサイド・スクワッド』

2016年09月15日 16:21  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNEENTERTAINMENT LLC

 まずは、3週連続1位の『君の名は。』について。先週末の土日2日間の動員は85万2000人、興収は11億35000万円と、ほぼ2週目と同じ。今週のウィークデイに入ってからも日によっては前週比を超える数字を叩き出していて、特にウィークデイは客層がこれまでの10~20代中心から確実に全世代へと広がりつつあるという報告も。累計興収も今週末には早くも80億超えが確実で、名実ともに「国民的映画」となりつつある。一体、何週連続1位を独走することになるのだろうか?


参考:『スーサイド・スクワッド』が悪役たちを“人間らしく”描いた理由ーーデヴィッド・エアーの真意は?


 というわけで、雲の上の『君の名は。』はひとまず置いておいて、地上戦に目を向けよう。先週末初登場2位となったのはDCコミックスに登場する悪役たちがチームを組んで戦う『スーサイド・スクワッド』。土日2日間の動員は24万7000人、興収は3億9000万円。この数字はなかなかの快挙。というのも、同じく今年の公開作で非常に前評判の高かった20世紀FOX配給のマーベル作品『デッドプール』の初週土日2日間の興収3億8333万2900円を、僅かながら上回っているのだ。『デッドプール』に不利な点を挙げると、『デッドプール』は「映画の日」の水曜日が初日とイレギュラーな公開日であったこと。また、『スーサイド・スクワッド』に不利な点を挙げると、『デッドプール』の724スクリーンに対して、その半分以下の337スクリーンでの公開であること。なので、単純に数字を比較して勝敗を決めるのは難しいが、スクリーン数の少なさというハンデがありながら互角の勝負になっている。


 『スーサイド・スクワッド』はアメコミ映画ファンにはお馴染みのジョーカーが活躍(「想像していたよりも登場シーンが少ない!」という声も上がっているが)、そしてバットマンもチラッと登場するなど、純粋に「まったく新しいシリーズ」とは言いにくい側面もあるが、それでも日本でアメコミ映画の新フランチャイズがこの規模のスタートダッシュをするようになったのは、『デッドプール』同様に、今年に入ってからの新局面と言っていいだろう。


 ちなみに、昨年の同じ9月に日本公開された新フランチャイズの『アントマン』の初週土日2日間の成績は動員14万3,236人、興収2億39万6,500円。一昨年のこれまた同じ9月に日本公開された新フランチャイズの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の初週土日2日間の成績は動員17万6233人、興収2億2414万5400円。いずれの作品も本国アメリカでは大ヒットを記録し、非常に高い前評判の中で日本公開されたことをふまえると、少々物足りない数字だったことがわかる(公開当時はそれでも「アメコミ映画1作目の日本での興行としては十分健闘した」とされていたが)。


 今回の『スーサイド・スクワッド』大健闘の興味深いところは、事前にアメコミ映画ファンの間では「本国で大ヒット」という情報と同時に、作品内容に関しては「賛否両論」という噂も共有されていたこと。これは、今年3月に日本公開された『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』にも共通する近年のワーナー配給のDC作品の傾向でもあるのだが、『スーサイド・スクワッド』の方はアメリカ本国でアメコミ映画ファン以外の新たな客層を開拓して、完全に初動型だった『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』とは異なるロングヒット型のヒットを実現した。


 日本でも同様に、『スーサイド・スクワッド』がアメコミ映画の新たな起爆剤になるかどうかは今後の推移次第だが、先月日本公開されて惨敗に終わった『X-MEN:アポカリプス』のような旧来のフランチャイズが後退している一方で、『デッドプール』や『スーサイド・スクワッド』のようなフレッシュなフランチャイズが日本でも支持されつつあることは数字が証明している。両作の共通点はアンチ・ヒーロー&悪ノリ・コメディ要素。まぁ、アイアンマンやバットマンといったアメコミ映画のメインストリームまで完全にそのノリに染まってしまったら、それはそれで困るのだけれど。(宇野維正)