2016年09月15日 10:32 弁護士ドットコム
約25年前に通っていた富山県内の小学校で、当時の教頭からわいせつな行為をされ、精神的な苦痛を受けたとして、金沢市の30代女性が8月下旬、元教頭の男性に1100万円の損害賠償を求め、金沢地裁に提訴した。
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産経新聞の報道によると、女性は、通っていた富山県内の公立小学校で、教頭から服を脱がされたり、尻や胸を触られたりするなどしたという。女性は、生理不順や心理的に不安定な状態になり、精神科に通院しているそうだ。元教頭はわいせつ行為を否定している。
25年前となると、かなり前の出来事だが、女性側は、被害による心身症状を発症した時点を時効の起算点とする判例をもとに、時効にあたらないと主張しているそうだ。
不法行為の時効はどう定められているのだろうか。例外があるとしたら、どのような場合に認められる可能性があるのだろうか。宇田幸生弁護士に聞いた。
「不法行為に基づく損害賠償請求については、被害者が損害及び加害者を知った時から3年間権利を行使しないとき、あるいは、不法行為の時から20年経過したときには、もはや権利行使ができないとされています(民法724条)」
宇田弁護士はこのように述べる。今回のケースでは、約25年前に被ったわいせつ被害を理由としているが、どう考えればいいのか。
「過去の裁判例では、20年のカウントのスタートとなる時期(これを「起算点」と呼びます)について被害者保護の観点から必ずしも加害行為時とはしない判例もあります。
最高裁判例でも、損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過しないと損害が発生しないような場合には、その損害が発生した時点を起算点にすると判断した事例もあります。
また、同様の趣旨から一定の分野においては法律自体に起算点を損害発生時点と明記するものもあります(製造物責任法、大気汚染防止法等)。その他、乳幼児期の集団予防接種が原因で大人になってからB型肝炎を発症してしまった場合にも、予防接種時ではなくB型肝炎発症時を起算点としています。
今回の事例でも詳細は不明ですが、これら判例等を参考にしているものと推測されます。今回の心身症状に伴う損害が、その性質上、加害行為が終了してから相当な期間が経過した後に発生する損害といえるかどうかが、請求が認められるかどうかの一つの鍵になりそうです」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
宇田 幸生(うだ・こうせい)弁護士
愛知県弁護士会犯罪被害者支援委員会前委員長。殺人等の重大事件において被害者支援活動に取り組んでおり、近時出版した著作に「置き去りにされる犯罪被害者」(内外出版)がある。
事務所名:宇田法律事務所
事務所URL:http://udakosei.info/