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政府税調が「夫婦控除」議論再開、税理士「増税のためではなく、真の意味での改革を」

2016年09月13日 10:52  弁護士ドットコム

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首相の諮問機関である政府税制調査会は9月9日に総会を開き、専業主婦世帯などの所得税負担を軽くする「配偶者控除」を見直し、夫婦であれば働き方に関係なく適用する「夫婦控除」の導入に向けた議論を再開した。


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報道によると、安倍晋三首相は総会で「経済社会は家族や働き方などといった面で大きく変化してきていて、所得税もこの変化を踏まえて変革が求められている」と述べた。政府税調は配偶者控除を含む控除制度全体を見直す提言を11月にもまとめる予定だという。


今後「夫婦控除」が導入されたとして、どのようなメリット・デメリットが考えられるだろうか。これまでの「配偶者控除」の仕組みは現代にはそぐわなくなってきているのか。久乗哲税理士に聞いた。


●「配偶者控除の趣旨が満たされなくなってきている」

「配偶者控除の趣旨は、憲法25条と民法752条の要請だといわれています。すなわち、生存権と夫婦間の相互扶助義務です。


所得があれば、基礎控除(すべての納税者が差し引ける所得控除)を受けることができますが、当然、所得がないと控除することができません。


『夫は外で働き、妻が専業主婦』という家庭が当然のように考えられていた時代では、『専業主婦の基礎控除部分を夫の所得から控除する』というのが配偶者控除の1つの考え方だと思われます。


所得がないため基礎控除を受けることができない配偶者(妻)の分を、もう一方の配偶者(夫)から控除することによって、生存権の所得税法上の要請を実現しようとしたわけです」


久乗税理士はこのように指摘する。女性の社会進出が進んでいるが、こうした制度は現状にあっているのだろうか。


「たとえば、パートなどで所得を得ると、給与所得103万円未満であれば、自分の所得から基礎控除を控除し、かつ、他の配偶者の所得から配偶者控除が控除されるという、二重に控除の恩恵を受ける状況になります。


専業主婦が前提であった社会であれば良かったのですが、多くの女性が仕事をするという今の社会では、趣旨が満たされなくなってきているのではないかとも思います」


●「相互扶助義務は専業主婦だけではない」

「一方で、夫婦間の相互扶助義務の観点から見ると、専業主婦の場合は、『税法上の内助の功』としての評価はあって良いと思います。


それが配偶者控除であるともいわれています。しかし、夫婦間相互扶助義務は、専業主婦だけにあるものではありません。


共働きの夫婦についても、当然、相互扶助義務はあるわけです。そうすると、共働きであっても、民法上の相互扶助義務を税法上、評価するべきだとも思います。


配偶者控除を廃止して夫婦控除にするということは、その方向性から考えると、理にかなっているのではないかと思います。


とはいえ、今は大増税時代ですから、配偶者控除を夫婦控除にするということが、増税のスケープゴートになるのではないかと危惧しております。


増税のための制度改革ではなく、真の意味での見直しになることを期待したいと思います」


【取材協力税理士】


久乗 哲 (くのり・さとし)税理士


税理士法人りたっくす代表社員。税理士。立命館大学院政策科学研究科非常勤講師、立命館大学院経済学研究科客員教授、神戸大学経営学部非常勤講師、立命館大学法学部非常勤講師、大阪経済大学経済学部非常勤講師を経て、立命館大学映像学部非常勤講師。第25回日税研究賞入選。主な著書に『新版検証納税者勝訴の判決』(共著)等がある。


事務所名 :税理士法人りたっくす


事務所URL:http://rita-x.tkcnf.com/pc/


(弁護士ドットコムニュース)