米国のファストフード従業員の賃金が、この1年で次々と上昇しています。全米の都市や州で「最低賃金引き上げ」が予定されているため、どうせ上げるならその前に積極的な賃上げをアピールし、有能な人材を確保しようという思惑です。
この傾向は働く人には朗報にも見えますが、その一方で「米国版ゆとり世代」と言われるミレニアム世代が、人間より機械による接客を望んでいるという調査もあります。賃上げで割高になった労働者は、一気に機械に置き換わるリスクが高まっているのかもしれません。(文:夢野響子)
スタバCEOは「従業員の必要に応える」というが
7月20日付の米ビジネスインサイダーによると、米スターバックスは約15万人の従業員全員を対象に、10月3日付で5%以上の昇給を実施すると発表しました。CEOのハワード・シュルツ氏は、従業員にこんな手紙を送ったそうです。
「我々を取り巻く環境はますます不安定になっているが、私のコミットメントは違う。従業員の必要に応えるのが、スタバの本質だ」
世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートのCEOダグ・マクミロン氏も、「従業員への投資が最優先事項なのは自明の理である」とアピール。それでも労働活動家たちは、10ドル(約1040円)の初任時給に満足せず、15ドル(約1560円)以上を要求しています。
これに対し米マクドナルドの元CEOエド・レンジ氏は、労働者の賃金が運営コストの3割以上を占める外食産業にとって賃上げは破壊的だと反対します。
「彼らは労働コストを相殺するために、商品の価格を引き上げようとしている。そして顧客を失うのさ。顧客を失ったらどうなると思う? 従業員を解雇するんだよ。彼らはもう必要ないんだ」
手持ち無沙汰の店員の横に、機械で注文する若者が並ぶ
確かに別の記事では、昇給に踏み切ったスタバがコーヒーの値段を30セント引き上げたことについて言及していました。
エド・レンジ氏が「彼らはもう必要ない」と言った通り、マクドナルドをはじめとするファストフード業界では、注文ロボットの配置が始まっています。
店内に置かれた大型スマホのようなタッチパネルに、顧客は注文したいメニューを入力し、現金かクレジットカードで支払って、食べ物を受け取るのです。
人間による接客が高コストになるにつれて、人が機械に置き換わっているわけですが、これを後押ししているのが、人よりも機械との接触を好む「ミレニアルズ世代」(1980年代から 2000年代初めに生まれた若者)の趣向です。
8月29日付けの米ビジネスインサイダーによると、ある統計では18~24歳の3分の1が、店員と関わらずにドライブスルーからメニューを注文したいと答えました。
人気ハンバーガー店のハーディーズやカールス・ジュニアを運営する会社のCEOアンディ・パズダー氏は、店の様子をこう説明しています。
「手持ち無沙汰の従業員をよそに、機械から食べ物を注文しようとする若者が、レストラン内のキヨスクの列に並んでいるよ」
賃上げで従業員の離職率は下がったけれど
この手のオートメーションが進んでいるのは、ファストフード業界だけではありません。たとえば銀行業界にもすでに入り込んでおり、小切手社会の米国ではスマホからチェックの入金ができるようになったために、出納係の仕事がなくなりました。
賃上げ以来、ウォルマートでは顧客満足度スコアに改善が見られ、マクドナルドでは従業員の離職率が下がったと言われます。労働者にとってはとても幸せな時期といえますが、これもいつまでも続くとは限らないかもしれません。
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